採用の知恵袋
2022年12月14日
採用の知恵袋 2022年12月号 ―人材不足解消のカギ「プチ勤務」の作り方―
少子高齢化により人材不足が加速する中で、「できるだけ経験者で」「できるだけ長い時間働いてくれる人がほしい」とどこの企業も考えるのではないでしょうか。しかし、それがかえって人材獲得を難しくしているかもしれません。
「採用の知恵袋」では、企業から寄せられる質問に対して、調査研究の結果や企業・行政団体との取り組み事例をもとに回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。
社会福祉法人を運営しています。介護職員の業務が多岐に渡り、スタッフの業務負荷が高まっている状態です。業務負荷を減らすため、追加で採用したいのですが、有資格者やフルタイムで働ける人からの応募が少なく採用にいたりません。何か良い方法はあるでしょうか。
(北海道エリア/介護福祉業)
有資格者・フルタイム勤務という仕事の枠で考えすぎず、現在、有資格者やフルタイム勤務が担っている仕事のうち、彼らでなくてもできる仕事を切り出せないか考えてみましょう。1日8時間勤務可能な有資格者を採用する、と考えると人材獲得の難易度はぐっと上がりますが、1日4~5時間の勤務で食事の片付けや掃除を担当してくれる人を採用する、と考えるとどうでしょうか。後者の方がターゲットも広がり、前者よりは少し採用しやすくなりそうですね。介護職員にかかわらず、「有資格者でないといけないのか」「フルタイム勤務でないといけないのか」という視点で考え直してみることは、人材獲得のポイントになるかもしれません。
解説
◇労働市場の現状
なぜ、フルタイムの募集に対して、短時間勤務の募集が打ち手になるのか、という点について、現在の労働市場からお話しします。新型コロナウイルス感染拡大により、少し緩和された企業の人材不足感ですが、現在はどうでしょうか。有効求人倍率はコロナ前をまだ上回っていないものの(※1)、弊社のメールマガジン会員向けに行った調査では、企業の人材不足感はコロナ前をすでに上回っているといえます。
※1 2019年度の平均有効求人倍率は1.55倍、最新の2022年10月分は1.35倍(出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」)
これは、少子高齢化が急速に進み労働の担い手が減少していることが主な要因ですが、そんな人材不足の日本においては、働きたい分だけ働けていない「未活用労働(※2)」を活用していくことが、人材不足解消のカギとなります。「未活用労働」とは①失業者、②アルバイト・パート等の就業者の中で仕事を追加したい者、③非労働力人口の中で仕事に就くことを希望しているが今は仕事を探していない者を指します。下記は年代別に示した労働力人口と潜在労働力人口に占める未活用労働の割合です。これをみると、30代40代の女性が同世代の男性と比べて高いこと、男性のシニア世代にかけて上昇傾向にあることが分かります。
※2 下記グラフは「未活用労働指標4」を示している。詳細は総務省統計局「未活用労働指標の解説」をご覧ください。
◇働き手の実態
現在働いていない女性の働き方の希望について調査結果をみると、「仕事を探したときの重視点(絶対条件)」は、「勤務日数(休日、休暇)」「勤務時間帯」「勤務地」がトップ3であり(求職者の動向・意識調査2021)、また、1日4~5時間程度の勤務を希望していることが分かりました(女性の就業に関する1万人調査2019)。
◇「プチ勤務」の仕事を作る
人材不足解消のカギは女性とシニアであること、また、そのうち女性にフォーカスすると、勤務日数や勤務時間に融通がきくことを求めており、現在の労働市場においてはそういった「プチ勤務」を創出することが重要となります。
現在在籍している介護職員が1日8時間行っている仕事を変えずに、4~5時間に圧縮することはもちろん不可能です。では、その8時間の仕事のうち、有資格者でなくてもできる仕事はありませんか。たとえば、食事のあとの片付け、シーツ交換、洗濯、掃除、など意外に色々と出てくるのではないでしょうか。そういった有資格者でなくても対応可能な仕事を介護職員から切り出し、その仕事を専門に担当する人を採用する、そうすれば介護職員は、本来彼らにしかできない仕事に注力してもらうことができます。
具体的な業務の切り出し方は、下記のステップで考えていくと良いでしょう。
ステップ①業務過多になっている従業員の1日の仕事を時系列で書き出す
ステップ②それぞれの作業に必要な時間を書き出す
ステップ③それぞれの作業が有資格者でなくてもできる仕事か否かを書き出す
たとえば、下記のような場合、いつもの8時間の勤務の中でも部屋掃除・洗濯、食事片付け、フロア掃除などは、有資格者でなくても行えそうです。そういった業務を切り出し、4時間のシフトを作成することが可能です。
また、4時間の掃除・洗濯、食事片付けのみの仕事を創出することで、「介護の仕事」というと少しハードルが高く感じて応募できなかった人が「掃除ならできそう」と考え、新たな応募獲得につながる可能性も出てきます。
このように、シフトや業務の細分化を行い、「超短時間勤務」を創出することで、正社員・正職員の長時間勤務を是正することができ、また、現在働いていない人の入職のきっかけづくりにもなります。今のシフトの在り方に固執せず、柔軟な働き方を創出することができないか、ぜひ考えてみてください。
(協力:キャリアバンク函館)