人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2022年09月13日

#女性・主婦#採用#短時間勤務

短時間勤務×「ダブルワークOK」「子育て両立」で新たな人材を呼び込む ~小さな企業だからこそできる柔軟な運用~

笑顔で接する「珍海堂」の水谷社長

今回クローズアップする人材活用の事例は「珍海堂」

少子高齢化がより深刻な地方において、人材確保は多くの経営者が頭を抱える課題です。
特にフルタイムの正社員募集では、求人を出しても長い間採用ができないというケースも多いのではないでしょうか。
高齢化率が40%程度の三重県鳥羽市の「珍海堂」では、「短時間勤務(プチ勤務)」という働き方を取り入れ、「ダブルワークOK」「子育てと両立可能」といったメッセージを訴求することで、困難だった配達ドライバーの採用に成功しました。その工夫や成果を、社長の水谷さんに伺いました。

  • ● 社名/有限会社珍海堂
  • ● 創業/1919年
  • ● 事業/海産物・土産物の製造・卸・販売、真珠卸・販売
  • ● 本社所在地/三重県鳥羽市小浜町300-22
  • ● 資本金/1,500万円

「珍海堂」の事例から学ぶ人材活用のポイント

ポイント1 短時間勤務(プチ勤務)募集への転換
採用が難しいフルタイム正社員から、「1日4時間~」「週3~4日可」に切り替え
ポイント2 応募者を惹きつけるメッセージ
ダブルワークや子育てとの両立が可能なこと、積極的に受け入れることを打ち出し、新たな人材の応募を獲得
ポイント3 全社一丸になって不安を払しょく
ベテランを中心に、仕事の不安や子育てとの両立を従業員全員でフォロー

成功する採用手法を探して、とばびと活躍プロジェクトに参加

三重県鳥羽市で海産物の製造・卸・販売や、真珠の卸・販売を営む珍海堂。1919年の創業から100年以上にわたり、伊勢海老やあわび、さざえなどを原料とする様々な食材や土産物を提供してきました。
同社の従業員16名のうち、支店や取引先の土産物店、ホテルに商品を運ぶ配達ドライバーとして働くのは4名ですが、従業員の高齢化を受けてハローワークで募集したものの、なかなか応募が集まりませんでした。やっと採用できた方も、あいにく体調不良ですぐに退職してしまい、また募集して…を繰り返していました。

「定年を70歳まで延ばすなどの手も打ちましたが、どうしても限界があります。事業継続のためにもなるべく長く働いてほしい、できれば20代~30代くらいの方に来てほしいというのが理想でした。とはいえ、その方法が分かりませんでした」と同社社長の水谷さんは語ります。

自社で土産物店を営んでいるため土日祝日は休めず、年間休日は多くありません。給与も周囲と比べて突出して高いわけではなく、待遇面での他社優位性もありません。
自分たちのやり方に行き詰まりを感じた水谷さんは、鳥羽市が主催し、リクルートがサポートした就労促進策「とばびと活躍プロジェクト(※)」のセミナーに参加。そこでヒントを得たそうです。

(※)鳥羽市民が「働く」を通じて、地域でいきいきと活躍できる「地域共生社会」の実現を目指して、市内最大の産業である宿泊業での就労促進事業など、具体的なアクションプランを策定・実行する取り組み

工場内にて伊勢海老を梱包する様子
工場内にて伊勢海老を梱包する様子

プチ勤務で「ダブルワーク」「子育て両立」を訴求

「一番の気付きは短時間勤務、いわゆる『プチ勤務』という打ち出し方ですね。当社も過去にパート募集をしたことはあったのですが、主には正社員として、フルタイム勤務を求めていました。しかしそれでは、待遇面で他社に負けてしまいます。そこで正社員へのこだわりをやめ、プチ勤務をつくり、前面に打ち出してみました」

これまでは主にハローワークで求人を出していましたが、新たな層へのアプローチを狙い、『Airワーク採用管理』を利用し自社採用ホームページを立ち上げました。あわせて、プチ勤務のターゲットに向けて募集情報の表現も見直し、「1日4時間~でOK」「週3~4日可」などのメッセージを打ち出しました。
また、残業がなく、応募者の事情にあわせた柔軟な働き方ができるため、ダブルワーク希望者や子育て中の主婦(夫)も働きやすいという情報も盛り込みました。

「当社のプチ勤務だけで生計を成り立たせるのは難しいので、むしろダブルワーク可能と訴えたほうが良い、というアドバイスをもらいました。他にどこかで働きながら空き時間にもうひと頑張りするとか、子育ての隙間時間を有効に使うとか、生活のプラスアルファで働ける仕事です、と強調しました」

「ベテランに遠慮なく頼って欲しい」安心して働けるサポート体制を強調

もう一つ心がけたのは、面倒見の良い社風を伝えて、応募者の不安を払しょくすることです。

「100年企業の当社には、20年、30年勤めているベテラン従業員がいます。みんな、当社の商品や取引先、お客様のことをよく分かっている人たちです。募集をかける前にも、『新しい子が入ってきたらみんなでサポートしよう』と話し合いました。従業員だって、新しい子が委縮して働き続けられないようでは、結局、自分たちが苦しくなるだけと分かっていますから」

そこで、水谷さんは、「ベテラン従業員揃いなので遠慮なく頼って欲しい」というメッセージも募集情報に盛り込みました。そうすることで、「自分にできるかな」と不安に思う応募者、特に未経験者の心理的ハードルをできるだけ下げようとしたのです。

「募集開始からすぐに応募が入り始めました。応募者は20代~50代まで幅広く、ボリュームゾーンは20代~30代。しかも大半が女性でした。配達の仕事は体力を使うイメージがあるので、今まで女性の応募はほとんどなかったのですけどね。
インターネットでの人材募集に本格的に取り組んだのは今回が初めてでしたが、都市圏ではない地域でも、インターネットで求人を探したり応募することが多いのだと実感しました」

ダブルワークの女性と子育て中の主婦、2名の採用に成功

1か月程で10名以上の応募があり、結果、27歳と31歳の女性2名を採用しました。
27歳の斉藤さん(仮名)は牛乳配達の仕事も行っており、珍海堂の配達ドライバーとのダブルワークになります。配達業務の経験者を採用できると思っていなかった水谷さんにとっては、想定以上の成果でした。

31歳の千葉さん(仮名)は2歳の子どもを育てるママ、子育てと両立できる仕事を探していました。過去にはコンビニ販売やショッピングモールの案内係などを経験していたので、水谷さんは人柄とキャリアを見て、当初想定していたドライバーではなく「お土産物屋で商品販売の仕事をしてみない?」と提案。快諾を得ました。

鳥羽駅すぐの鳥羽一番街に構えるお土産物屋
鳥羽駅すぐの鳥羽一番街に構えるお土産物屋

商品販売として働くことになった千葉さんは言います。
「子どもが2歳になったので仕事に復帰したいと思っていました。しかし、子育てと両立できそうな条件の会社がなかなか見つかりません。
そんな中、『子育て中でも働ける』という珍海堂の募集を見て、自宅から近いし、ここしかないと応募しました。面接で『週3~4日で構わない』『土日祝は休みをとっていい』と聞き、夫とも相談してここで働くことを決めました」

勤務開始から最初の1カ月間について、水谷さんは千葉さんに「勤務時間は9:30~14:00でいいよ」と声をかけました。

「子どもが突発的に熱を出した時も、社長は『子どもの面倒をしっかり見てあげなさい』と言ってくれました。先輩方も『こっちは心配ないから』と対応してくれます。本当にありがたいなと感じます」と千葉さんは笑います。

子育てと仕事の両立にサポートや理解がある環境の中で、仕事への意欲も日に日に増す千葉さん。「商品をよく知らないと、お客様に自信を持っておすすめできません。そんな時、周囲の先輩が『この商品はこんな特徴があるよ』『この商品は、こういうタイプのお客様が興味を持たれるよ』と教えてくれて、とても勉強になります」

ベテラン従業員たちも「仕事が一段と面白くなってきました」と千葉さんから刺激をもらっているようです。

応募者が何をメリットに感じるかを見直すことがポイント

「今までには採用できなかった新たな人材を採用できたことで、当社の将来も見通せるようになったし、何より会社に活気が出てきました。今はプチ勤務ですが、環境が整い、本人に意欲があれば、正社員に登用したいとも考えています。
配達ドライバーの募集でうまくいった今回の経験を活かし、次は商品販売や事務もプチ勤務で募集してみたいですね」と、水谷さんは意欲を新たにしています。

今回の珍海堂の取り組みですが、斬新で新しいアイディアによって成果が出た、というものではありません。
フルタイムの正社員募集から、もともとあったパート募集をベースに「プチ勤務」に転換し、「ダブルワークOK」「子育てと両立可能」といった応募者のメリットになる情報を整理、インターネットで発信したことで、これまでアプローチできなかった新たな人材の採用に結び付きました。
人材確保ができないことに悩む事業者の皆様にとって、本事例が、新たな採用手法を考えるきっかけや、応募者への訴求メッセージを見直すヒントになれば幸いです。