人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2019年03月22日
短時間勤務(プチ勤務)で多様な人材が活躍できる地域に
今回クローズアップする人材活用の事例は「とばびと活躍プロジェクト」
三重県鳥羽市では、市民が地域でいきいきと活躍することができる「地域共生社会」を目指すため「とばびと活躍プロジェクト」をスタートし、20のアクションプランを策定しました。今回はその中でも「多様な形での働き手の増加」の取り組みについてお話を伺いました。
- ● 三重県鳥羽市
- ● 市役所所在地/〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽3-1-1
人材不足の課題を受けて「いきいきと活躍できる」職場づくりを目指す
三重県鳥羽市では第5次鳥羽市総合計画(2011年3月策定)を背景として、2017年より鳥羽市まち・ひと・しごと創生総合戦略を描き「とばびと活躍プロジェクト」をスタートさせました。プロジェクトでは、市民が「働く」を通じていきいきと活躍できる社会を創るため、就労促進施策を中心としたより具体的な取り組みとなる20のアクションプランとその実行計画を策定しました。
「鳥羽市は日本全国の平均よりも人口減少が進み、少子高齢化による労働力人口減少も進んでいます。人口減少の抑制施策のみならず、市民がいきいきと活躍できるための就労促進施策に積極的に取り組むことが必要と考えました」とプロジェクトを主導した観光課の高浪さんは話します。
そこで着目したのは、市内最大の産業である宿泊業。旅館やホテルといった大小様々な規模の宿泊施設が約160軒あり、多くの市民が就業しています。多くの市民が働く宿泊施設が今よりも「いきいきと活躍できる」職場となること、またそれが観光地としての魅力向上につながるといった好循環サイクルを目指したと言います。
まず取り組んだのは実態調査です。市民と市内事業者に就業実態調査を実施し、若年層が感じる職場の改善点や宿泊業で働く市民の勤務実態、宿泊業の魅力等を明らかにしました。市民と事業者の両面に調査し、そのギャップからアクションプランを考察するためです。
「特に潜在労働力として考えられる専業主婦の就労促進を考える際にヒントをもらえたのは、勤務日数と勤務時間です。専業主婦は「週1日~4日勤務」「1日あたり4時間~6時間未満」の希望が多いのに対し、現在の就業者は「1日あたり8時間~9時間」がボリュームゾーンでした。事業者もフルタイム勤務を想定した求人が多く、人材不足がなかなか解消されない状況がわかりました」。
働き方に柔軟性を。短時間勤務(プチ勤務)の仕事を一緒に考えていく
専業主婦やシニア等、多様な人材が働きやすくなるよう労働条件を整えるためには、現在の業務内容やプロセスを見直すことが必要になります。市内には既にシニア人材が活躍している旅館等、先んじて何らかの工夫に取り組んでいるところもあるため、事業者ヒアリングでその工夫を集めたと高浪さんは言います。
「ヒアリングはアクションプランを作成するメンバーで手分けして、10施設の方にお話を伺いました。人材不足の状況は短時間勤務の有無や休日の在り方等で差があることがわかりました。もちろん立地の影響(車通勤の方が便利等)もあると思いますが、まだまだ取り組めることがあるのではないか、と感じました」。
「人材不足ではない宿泊施設の特徴に、働き方の柔軟性をあげるため「短時間勤務」が積極的に導入されていました。そこで、人材不足が続く宿泊施設には課題のヒアリングをしながら、朝食の補助や昼間のフロア清掃等「短時間勤務」の可能性を聞き出し、1日4時間程度の仕事を掘り起こし、『プチ勤務 おしごとカタログ』の発行につなげたのです。
今回のプロジェクトは観光観点よりじゃらんリサーチセンター、雇用観点よりジョブズリサーチセンターもメンバーとして参加。実態調査からヒアリングまで複眼的に話し合いながら取り組んでいたことや宿泊施設の協力もあり、『プチ勤務 おしごとカタログ』はわずか3ヵ月で作成、発行できました。
12の旅館やホテルが1日4時間程度の求人情報を掲載
外国人や主婦など多様な人材が活躍できる仕組みづくりにつなげたい
戸田家は天保元年(1830年)創業、市内でも有数の老舗旅館。客室数169部屋、従業員数も200名を超える大規模旅館のひとつです。戸田家では子育て中のママやシニアはもちろん、外国人や障がいを持つ方等多様な人材を雇用しています。2017年より空きスペースを利用して専属の保育士による託児室も設置する等、女性従業員の両立支援にも積極的に取り組んでいます。総務課の中村さんに現状の取り組みやとばびと活躍プロジェクトへの期待を伺いました。
「これまでも従業員が働きやすい環境をつくるために、研修の充実や託児室設置等に取り組んできました。ですので、今回とばびと活躍プロジェクトの一環で、鳥羽市が短時間勤務の仕事を集め、市民向けの『プチ勤務 おしごとカタログ』を作成すると聞いたときは共感しました。私たち旅館で働く一人ひとりが活躍することで、鳥羽にいらっしゃるお客様に鳥羽の魅力が伝わると思うからです。改めて部門全体の業務を見渡し、業務分解をして3職種を掲載することにしました」。
掲載した職種は、①調理補助、②フロント、③清掃です。①調理補助は、料理人からの指示で食材を運ぶほか盛り付け等を担当。勤務時間は朝食時間帯の6:00~10:00と夕食時間帯の16:00~20:00の2パターンあります。
「以前は早朝6時に仕事を始め、朝食時間帯の仕事が落ち着く11時頃から長めの休憩をとり、16時から20時まで勤務する場合が多かったのですが、朝食時間帯と夕食時間帯を分けてそれぞれ4時間勤務としたものです。もともと早朝勤務の採用は難しいのですが、短時間勤務であれば大丈夫という方がいらっしゃるといいですね。もっとこういった仕組みづくりをしていきたいと思います」と、さらに多様な人材の働きやすさを追求していく意気込みがうかがえました。
働き方改革で「仕事がない」から「こういう働き方ができるんだ!」へ
とばびと活躍プロジェクトの一環で作成した『プチ勤務 おしごとカタログ』は、1000部製本され、掲載した旅館・ホテル、市役所窓口や各町内会、福祉フェスティバル「ひだまりフェスタ」やお仕事相談会等、様々な場所で配布。その結果、「(カタログにある旅館の)職場を実際に見たい」(60代女性)と市が実施する職場見学ツアーへの申し込みがあったほか、「求人を掲載したい」(ホテル採用担当者)、「他の業種でもこのようなカタログを作成してほしい」(市長地区懇談会)等、市民・事業者両方から反響があったそうです。
「これまで市民から「仕事がない」という意見もありましたが、今回の取り組みを通して、まだまだ市内の旅館・ホテルで働くことの魅力は引き出せるという可能性を感じました。これからも市民への周知を強化することでもっと活用していきたいと考えています。また、いろいろな職種でプチ勤務(短時間勤務)を探し出し、働きたい市民に「こういう働き方ができるんだ!」と感じていただき、マッチングを図っていきたいと思います」。
観光課の高浪さんによると『プチ勤務 おしごとカタログ』を含め、とばびと活躍プロジェクトの取り組みは、雇用や地域共生社会を研究する大学や、行政と連携して就労支援をする社会福祉協議会等から視察の申し込み、三重県からも就労支援に取り組む職員や事業者向け研修の要請が入っているとのこと。一連の取り組みと連動するように、自治体では珍しく、独自で職業紹介所も開設(2018年10月)。地域の魅力を引き出すため、市民が「いきいきと活躍できる」職場づくりに着目したとばびと活躍プロジェクトは地域を活性化する取り組みとしてますます注目されそうです。