採用の知恵袋

2023年07月14日

#学生・若年層#正社員#育成・定着

採用の知恵袋 2023年7月号 ―離職防止!若手の成長不安を取り除く―

若手社員がやっと一人前になった。しかし、そのタイミングで退職してしまった。会社にとっては大きな損失で、何としても避けたいことでしょう。終身雇用や転職など、世代によってもキャリアの考え方が異なるなか、若手社員がどのように考え行動しているかを知ることで、離職防止につなげましょう。
「採用の知恵袋」では、企業から寄せられる質問に対して、調査研究の結果や企業・行政団体との取り組み事例をもとに回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。

Q.

入社3~5年目の若手社員が、「キャリアアップ」や「もっと成長できる環境」を理由に退職しています。戦力として育ってきたタイミングで辞められるのを防ぐためには、どのような打ち手が効果的でしょうか。(関東エリア/サービス業)

A.

どうしてキャリアアップや成長環境を理由に退職するのでしょう。背景には、将来を見通せない不安から、長期的ではなく、若いうちからすぐに成長したいという意識があります。彼らに長く働いてもらうには、「ここでなら成長できる」と感じてもらえるよう、成功体験を積める機会を提供することや、上司からのコミュニケーション方法を見直すことが効果的です。

解説

◇ 成長意欲の背景にある、将来のキャリア不安

総務省・労働力調査によると、転職者比率(就業者数に占める転職者数)は、コロナ禍の影響などで落ち込んだ2021年4.3%から2022年4.5%に回復しています。また、年代別では15~24歳が9.2%、25~34歳が6.8%と全体を大きく上回っており、若手社員の離職に頭を抱える企業も多いのではないでしょうか。

まず、今回の退職理由の背景にある、若手社員が直面する不安を見ていきましょう。リクルートワークス研究所の「大手企業における若手育成状況調査報告書」において、新卒入社1~3年目の正社員に仕事やキャリアの不安を聞いたところ、以下の結果が得られました。全項目で「強くそう思う」「そう思う」の合計が3~5割程度となり、決して少なくない割合が、今の職場で得られる成長やスキルに不安を感じていることが分かります。

キャリアの選択肢が多様化したこと、70歳やそれ以上まで働くことが予想されること、AIなどの新たな技術が登場し、求められるスキルが日々変わることなどを受け、若手社員にとって、将来のキャリアをイメージすることはより困難になっています。若手社員のなかでもキャリアアップに敏感な層が、そうした状況に危機感を覚え、長期的ではなく若いうちからすぐ成長できる環境を求め、転職していることが想定されます。

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特に入社3~5年目は、自分のキャリアに向き合いやすい時期でもあります。一例として、社内であれば、ある程度経験が身に付き、自分の得意・不得意や関心のある仕事が分かること、上司や先輩社員との人脈が広がるなかで、彼らを見本や反面教師にして、なりたい社会人像が鮮明になることもあるでしょう。社外であれば、高校・大学を卒業してからまだ時間がたっておらず、当時の友人と付き合いがある人も多いかもしれません。友人が仕事を頑張っている話を聞いて、自分と比べて焦ってしまうこと、転職した話を聞いて、「自分は今の会社で良いのだろうか」と転職を意識し始めることもあり、将来のキャリアを真剣に考えるきっかけにもなりえます。

◇ 成長を感じられる機会提供と関わり方

不安を抱える若手社員がキャリアに向き合ったとき、転職ではなく、今の職場で働き続けることを選ぶために、会社として何ができるでしょうか。何より大切なのは、「今の職場で成長できている」という実感を持ってもらうことです。そのためには、人材育成やジョブローテーションのあり方を見直すことも必要ですが、まずは成功体験を積める機会を増やすこと、上司と若手社員との間で必要なコミュニケーションが取れているかを見直すことから始めてはいかがでしょうか。

 

① 成功体験を積める機会を増やす

若手社員の成功体験を増やすことは、彼らの成長実感を高めるうえで効果的です。定型的なルーティン業務や成果が見えづらい業務ばかりでは、何かを成し遂げた実感は得づらいものです。一方、自ら主体的に考え行動し、その結果として成果につながった体験は、達成感ややりがい、そして成長実感につながります。短期的に成果を把握しやすいプロジェクトなどを、主体性を発揮できるようになるべく裁量を持たせて任せてはいかがでしょうか。

② 上司と若手社員との間で必要なコミュニケーションが取れているかを見直す

上司のコミュニケーションの取り方次第で、若手社員の印象を変えることも期待できます。

若手社員自身も、日々業務に取り組むなかでは、自分の成長にはなかなか気付けないものです。日々の関わりや定期的な面談などを通して、できるようになったことや成長したポイントを言語化して本人に伝えることで、本人の成長実感を後押しできます。また、四半期や半年ごとに目標を設定して、一緒に進捗度合いの確認や振り返りをおこなうことも、若手社員が、自分が前進していることを認識できるので効果的です。本人の成長を気付かせることも、上司の重要な役割ではないでしょうか。

また、新たに仕事を任せるときや、研修・セミナーに若手社員を参加させるときなどに、ただ任せる・参加させるだけになっていないでしょうか。会社の意図や期待が伝わらず、「会社は自分の成長を考えていない」「会社にキャリアを任せて大丈夫なのか」という疑問を持たせないよう、どのような成長やスキルアップが期待できるのかまで伝えることを心がけましょう。

 

せっかく採用できて、大切に育ててきた社員が退職するのは、何としても防ぎたいものです。同時に、若手社員も一度入社した会社を気軽に辞めるのではなく、彼らなりの不安があって、転職を決意しています。今後も長く働いてもらうためには、彼らの不安を理解して、手遅れになる前に「ここでなら成長できる」という安心感を与えることが必要だと言えるでしょう。