座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2021年12月15日

#コロナ影響#学生・若年層#育成・定着

コロナ禍~これから求められる学生、若者の採用の工夫

採用したてのアルバイトに仕事を説明しているイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
今回の座談会は、「学生、若者におけるアルバイト経験」がテーマです。前編に続き、大学生の観点より大正大学学長補佐の成田氏、企業の採用観点よりコンビニエンスストアオーナーの坂本氏、求人市場の最前線の観点よりタウンワークなどの営業マネージャー澤氏とジョブズリサーチセンターの宇佐川で話し合います。

  • 成田 秀夫(なりた ひでお)

    成田 秀夫(なりた ひでお)
    大正大学 学長補佐(総合学習支援・入試担当)、総合学修支援機構DAC 教授
    初年次教育学会理事

    中央大学・同大学院で哲学を学んだ後、河合塾の現代文科講師として30年勤務。模試・教材作成、サテライト授業を担当した後、開発研究職として大学での初年次科目の開発・担当、PROGの開発、各種講演に携わる。2019年、河合塾退職後、現職となる。
    大学では、初年次科目・教養科目・キャリア科目を統合した「統合型教養教育」、及び学生の学びと成長を支える総合的学修支援者としてのチューター養成プログラムを開発し、2020年文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択される。

  • 坂本 一郎(さかもと いちろう)

    坂本 一郎(さかもと いちろう)
    有限会社ゑびす屋池袋本店 代表取締役(ローソンFC経営)

    2002年成蹊大学卒業後、カルフールジャパン株式会社(フランス系小売企業)入社。
    飲料部門を経て、Health&Beauty Care部門の店舗責任者、MDを担当。2006年よりローソンFCオーナーとして【世界に便利を届ける】を理念に現在4店舗経営。その他、コンビニ業界の働き方改革に携わる仕事にも従事。
    リクルートジョブズ(現・リクルート)主催のシニア人材活性化プロジェクト参画・経産省主催有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」参加・ラジオ出演等。

  • 澤 昇吾(さわ しょうご)

    澤 昇吾(さわ しょうご)
    株式会社リクルート HR本部ソリューションコンサルティング部北海道・東北ソリューション営業グループ グループマネージャー

    早稲田大学卒業後2012年リクルートグループに新卒入社。リテール営業を経験後、営業企画部にて営業支援システムの立ち上げ。その後、大手法人営業部にて大手コンビニチェーン本部を担当し、現在は北海道・東北エリアの大手法人担当マネージャー。ミッションは「ヒト」を通した顧客事業支援。趣味はアウトドア(海から山まで自然を愛してやまないキャンパー)。

成長したい学生、若者がアルバイトしたい職場になるには

宇佐川:ここまでコロナ禍の学生や若者を取り巻く環境について話し合ってきました。(前編はこちら
次は採用、雇用する側の企業の話を中心に聞いていければと思います。澤さん、採用担当者の方と普段接するなかで気になることはありますか?

澤:先ほども少し話したのですが、今どの企業も一人当たりの生産性を高めることに取り組んでいるので、未経験の方、学生や若者を育てるという機運はあります。ただ、アルバイトで必要なことは教えられるけど、それが彼らにとって中長期的なキャリアに関わる学びにつながるかはわからない、という声は多いです。どのようにしたら、そのような環境が作れるのでしょうか?

坂本:自社の仕事のポイントをおさえることではないでしょうか。アルバイトを採用することになったとき「業務をしてもらうためにどのくらいの人数が必要か」と考えるよりも、「どう一緒に働くか」を考えてみてはどうでしょうか。
そう考えると、自社の一連の業務で、どこを任せたいか、どこに知識やスキルを発揮してもらえれば売上があがり、彼らの成長にもつながるのか、というポイントを考えることになります。

宇佐川:はい、アルバイト採用を人数で捉えることからの脱却ですね。

坂本:たとえば、うちの店舗では学生含め、アルバイトリーダーに私が1人ずつマンツーマン8時間で、PL、BS* を解説し、理解してもらいます。またほぼ全員に入社して2カ月で発注業務の一部分を担当するようになります。小売業の生命線といえる業務で、一人当たり年間1,000~2,000万円程度の売上を任せています。

*PLは損益計算書、BSは貸借対照表のこと。

すると、スタッフからは「学校で会計の授業は本当につまらなかったけど、大事だったんだと気づきました」や「このアルバイトをしてから、大学での授業の意味がわかりやすくなり面白く感じるようになりました」といった声を聞きます。
もちろん逆方向もあって、バイトリーダーとしてスタッフの意見をまとめることが必要なときに、大学のゼミ長の経験を活かして意見をまとめたと聞いたことがあります。そのときには「店舗には高校生もいるし、外国籍のスタッフもいるけど、ゼミでもいろいろな学生がいて、大変だったけど意見をまとめてきたからできるかなと思い出しながらまとめていきました」と話していて、あぁやっぱり学びはこうしてつながるのだな、と感じました。

大学キャンパスでの学生アルバイトたちのイメージ

成田:いいですね。大学でも実社会につながる学びの経験を積むことは大事だと考えています。本学では学園祭や盆踊り(今年はオンラインで開催)などの行事で、予算管理や進行計画を作って手順をふんで物事を進めることの経験を積む機会はあります。 学外と学内の学びをつなげることを仕組み化することは容易ではないです。ですので、私はその学びをつなげる機会を大学が提供できるかどうか、ということが大事だと思っています。

そのひとつが「リフレクション」で、自分が取り組んだことを言語化するようにしています。そこからどのような意味があったのか汲み取っていくこと、いわゆるメタ認知で、先ほどのバイトリーダーのゼミ長経験を活かせたように、知識やスキルを転用可能にする力を育むことになります。この力は変化に対応できる力そのものですよね。異質なものを統合する、自分の学びを言語化して、意味を汲み取っていく、このようなトレーニングはまさに学問に通じるところです。

宇佐川:それすごく大事です! 知識だけでは働くことはできない、それは多くの採用担当者はわかっていると思います。アルバイトをしながら、知識の習得の実感だけではなく、その経験が自分の成長とどうつながっているか自覚できることが大事ですね。

学生や若者のやる気を引き出せるか、は見られている

澤:採用活動はある意味、投資と同じようなところがあり、私たちは活躍できる人材がいることを企業へお伝えしながら採用活動のお手伝いをしています。先ほど、坂本さんに採用するときに考えることをお聞きしましたが、多くの企業が活躍できる人材と出会うにはどのようなことが必要だと思いますか。

坂本:私も起業直後は有名大学の学生は真面目に働くのかな、などステレオタイプで考えてしまうことがあり、うまくいかないこともたくさんありました。数年かけてわかったのは、どのような人材であっても「学びたい」「成長したい」という気持ちは持っているということで、企業はその気持ちを引き出せるかどうか、だと思うのです。引き出すきっかけを作るという意味で当社では発注業務を任せるんです。すると、経営者目線が芽生えるようで、学生のスタッフでも社長の私に「今日出勤日ですよね? 私が休みなので代わりに〇〇の業務の対応お願いします」などLINEしてくることもあります(笑)。

宇佐川:頼もしい(笑)。企業側が引き出すことが必要ということですね。たとえば、採用面接でも「今できなくても、〇〇ができるようにお願いするよ」「〇〇に期待するよ」と伝える、というのもいいかもしれないですね。
とはいえ、一定数の方は、同じ時給ならラクして過ごしたいという方もいると思いますが、坂本さんは面接で将来の話やビジョンなど何か伝えていることはありますか?

坂本:そうですね。「コンビニは物を売るだけではなく、働く方も若い人が多いので第二の学校のように思っている」とビジョンを伝えます。たとえば面接で「コンビニアルバイトの経験があります」と話す方に対し、経験した業務を聞くとだいたいレジ打ちや商品の品出しが多いのですが、そのビジョンを踏まえて「売上を作ってもらうために、PLやBSもわかるようになって発注業務を管理いただきますが大丈夫ですか?」と聞きます。そこで合意することが大事なのかなと思います。面接ではこちらが選ぶだけではなく、応募者も選んでいて、そのような環境かどうかを見られているように思っています。

アルバイトを通じて成長を実感する若者のイメージ

宇佐川:最後に、成田さん、大学側から見て企業に求めたいものがあればぜひお聞かせください。

成田:企業によって様々な事情があるとは思いますが、これから本格的に社会に出る学生や若者にとってアルバイトすることが誇りになるといいなと思います。もちろん企業は売上をあげることが大事ですが、お金だけになってしまうとだんだんやる気がなくなってしまいますよね。学生には「生きていく上で大事にしたい価値を軸において、仕事を考えよう」とも伝えています。
このようなキャリアオーナーシップを企業がどのくらい見てくれるのか、というのは気になります。これは本来就職活動のときだけ話すことではなくて、その人の考えとしてあるものなので、綺麗ごとだけではない話も聞いてもらえればと思います。

「学生、若者におけるアルバイト経験」をテーマに、前編でコロナ禍での学生や若者の実態について、後編では受け入れる企業に求められることについて、採用の考え方や工夫についてお話を聞きました。当社のシフト管理のデータ*からも、高校生を含む学生の多くがアルバイトのシフトが希望通りにはならなかった、ということがわかっています。学生や若者にとってのアルバイトは、それまでの学びを実践する場でもあり、学びを深める場にもなる、だからこそ、それらの場の経験から得られることをつなげていきたい、という成田さんと坂本さんのお話は非常に参考になりました。感染状況が落ち着き、採用活動の再開やシフト増加など今再び変わり目にあります。面接や入社後の声がけなど、ヒントになれば幸いです。

*シフト管理のデータについては、「コロナ禍の学生アルバイト入職実態調査レポート」をご参照ください。
https://jbrc.recruit.co.jp/data/research/

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)