座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2021年11月30日

#コロナ影響#学生・若年層

学生、若者のアルバイト減少や変化、今後どのような影響があるのか?

笑顔で迎え入れているイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
9回目となる今回の座談会は、「学生、若者におけるアルバイト経験」がテーマです。学生や若者に人気の飲食店等が緊急事態宣言による時短営業や休業でシフト調整があり、収入減少が心配されることもありましたがそれ以外にも見えてきたことがあります。今後、学生や若者を採用、雇用する際のヒントとして、コロナ禍だからこそ見えてきたことから学べる工夫について話し合いたいと思います。大学生の観点より大正大学学長補佐の成田氏、企業の採用観点よりコンビニエンスストアオーナーの坂本氏、求人市場の最前線の観点よりタウンワークなどの営業マネージャー澤氏とジョブズリサーチセンターの宇佐川で話し合います。

  • 成田 秀夫(なりた ひでお)

    成田 秀夫(なりた ひでお)
    大正大学 学長補佐(総合学習支援・入試担当)、総合学修支援機構DAC 教授
    初年次教育学会理事

    中央大学・同大学院で哲学を学んだ後、河合塾の現代文科講師として30年勤務。模試・教材作成、サテライト授業を担当した後、開発研究職として大学での初年次科目の開発・担当、PROGの開発、各種講演に携わる。2019年、河合塾退職後、現職となる。
    大学では、初年次科目・教養科目・キャリア科目を統合した「統合型教養教育」、及び学生の学びと成長を支える総合的学修支援者としてのチューター養成プログラムを開発し、2020年文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択される。

  • 坂本 一郎(さかもと いちろう)

    坂本 一郎(さかもと いちろう)
    有限会社ゑびす屋池袋本店 代表取締役(ローソンFC経営)

    2002年成蹊大学卒業後、カルフールジャパン株式会社(フランス系小売企業)入社。
    飲料部門を経て、Health&Beauty Care部門の店舗責任者、MDを担当。2006年よりローソンFCオーナーとして【世界に便利を届ける】を理念に現在4店舗経営。その他、コンビニ業界の働き方改革に携わる仕事にも従事。
    リクルートジョブズ(現・リクルート)主催のシニア人材活性化プロジェクト参画・経産省主催有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」参加・ラジオ出演等。

  • 澤 昇吾(さわ しょうご)

    澤 昇吾(さわ しょうご)
    株式会社リクルート HR本部ソリューションコンサルティング部北海道・東北ソリューション営業グループ グループマネージャー

    早稲田大学卒業後2012年リクルートグループに新卒入社。リテール営業を経験後、営業企画部にて営業支援システムの立ち上げ。その後、大手法人営業部にて大手コンビニチェーン本部を担当し、現在は北海道・東北エリアの大手法人担当マネージャー。ミッションは「ヒト」を通した顧客事業支援。趣味はアウトドア(海から山まで自然を愛してやまないキャンパー)。

1年以上続くコロナ禍で見えてきた学生の多様性

宇佐川:本日の座談会は学生や若者のアルバイトについて話し合いたいと思います。まずこちらを共有したいのですが、コロナ禍でアルバイトにどのような影響があったのか、学生にアンケートをとると、「途中でシフトが減った」「シフトが希望より少なくなった」が多く、おおよそ3人に1人の学生が働きたくても思うように働けなかったということがわかります。
また、学生でも「感染が不安でバイトができなかった」が1割弱います。感染への不安は年代層問わず一定数いらっしゃるんですよね。これが1年以上続いているということが、彼らにとってどのような影響があるのだろう、と考えてしまいます。
坂本さんのお店で働くアルバイトの方はいかがですか?

大学生・専門学生・短大生・大学院生のアルバイトに関するアンケート調査グラフ図
出所:「大学生・専門学生・短大生・大学院生のアルバイトに関するアンケート調査」、リクルート、(実施時期:2021年3月、n:7698人)

坂本:はい、私は山手線沿線に4店舗、ローソンというコンビニを経営していますが、住宅街やオフィス街など様々な立地にあります。コロナ影響という点でいうと、オフィス街の店舗は売上が減少してシフトを減らしてもらうことがありました。また、感染への不安は本人もそうですが、同居する家族から「感染拡大している期間だけでも働かないでほしい」と言われてアルバイトを控えたいと話す学生もいました。

宇佐川:それは私も聞いたことがあります。本人は働きたいけどご家族から反対されて離職される方もいらっしゃると。一度離職するとなかなか戻らない、就業復帰されない方もいるとの話も聞きます。

坂本:そうですね。1年間以上このような状況が続くことによって考え方が変わるというのはありますよね。アルバイトの学生と話していて、「授業はもうずっとオンラインでいい」という声も聞きました。それが良い悪いというよりも、何かあるときに一歩前に進むということがしづらくなるのかな、という心配もあります。

宇佐川:同じ学生でも、家で勉強ができて効率的~という方と、寂しいから外に出ていきたい~という方と二極化していそうですよね。成田先生の大学ではいかがでしょうか?

成田:本学の場合、二極化というよりもう少し多様化しているように思います。本学は学生の8割は首都圏で実家から通学、2割は地方出身一人暮らしで、後者の学生のほうがやはり苦境のようです。オンライン授業が続き、実家に帰りたくても思うように帰れない、アルバイトも減少し、一人時間が多くなったのは確かです。本学ではチューター*がオンラインでそれらの不安をサポートするようにしていました。ただそのような地方出身学生のなかにもたくましい学生もいて、デリバリー配達員などの単発でできるアルバイトを増やしたり、複数のアルバイトを掛け持ちしたり、できることを積極的に行っている様子もありました。

*チューターとは、正課内・外において、大学生の学びと成長を総合的に支援する者で、教員・職員に次ぐ第三役割を果たす。大正大学では専任・非常勤併せて約100人体制でサポートしている。

学習面でいうと、今年は対面形式とオンライン形式のいずれかを授業ごとに選択できるのですが、約4割が対面希望、6割がオンライン希望です。学生のオンライン授業への適応はスムーズにできている印象もありますが、一方で「オンライン授業だとなかなか発言ができない」となじめない学生もいます。ITスキルやソーシャルスキルの違いもあるのだと思いますが、そういった学生にもチューターがサポートするようにしています。

宇佐川:チューターがいるのはいいですね。社会的にも孤独、孤立というのは問題になっていて、学生も少なくないと聞きます。オンラインになり、孤立していることに周りも気づきにくく、自覚も難しい。チューターはそのような孤立を防ぐ取り組みをされていらっしゃるのでしょうか。

成田:はい、チューターはe-ポートフォリオ*で学習状況や授業の出欠、リフレクション(授業の振り返り)を確認しています。それらを確認するなかで、滞っていたり、反応がなかったりすると、チューターから面談を入れます。その時に「初めて大学の人と話しました」と話す学生もいました。

実は去年オンライン授業を開始する際に、約1,200人の新入学生にオンライン授業の仕組みを記載した手紙を送り、まず本学のラーニングマネジメントシステム(Webサイト)にログインするように連絡しました。900人はスムーズにログインできたのですが、残りの300人はログインできず、個別のサポートが必要な学生というのを早い段階で把握していました。

*e-ポートフォリオとは、学生の学習記録をデジタル化して蓄積し、自らの学びを振り返り、成長を実感することができるための仕組み。授業後には必ずリフレクションを記入し、それまでの学び・経験と学習した内容の統合を図る。大正大学では、教員のみならずチューターが振り返りへのフィードバックを行い、学びと成長を促している。

宇佐川:実は20代の若者のほうがスマホ中心で意外とデジタルデバイドがあるとの話は聞きますよね。どのようなことを工夫されたのでしょうか。

成田:まずログインについては、チューターが一人ひとりの学生に電話するなどしてフォローしていきました。タイピングについても一から教える必要があるかと思っていたのですが、オンライン授業でチャットを多用するように意識したところ、周りの学生の反応の速さに触発され必死で食らいついていくように努力をするんですね。1カ月も経てばタイピングも問題なくできるようになりました。同年代の一緒に学んでいる学生がどうなのか、モデリングの環境を整えていくと、相乗効果が働き良かったと思います。

宇佐川:オンライン授業でも、一緒に学ぶ仲間がいることを意識する、リアルで本来得られる刺激を上手に取り入れていく、ということですね。

オンラインで学習をする若者のイメージ

単発バイトや1日インターンシップで生じる焦り

宇佐川:大学での話を聞いてきましたが、学生や若者のアルバイト先で感じる変化といったことはありますでしょうか。

坂本:ちょうど1年前(2020年秋頃)にうちの店舗で働き始めたアルバイトの学生から最近相談を受けたのですが、彼はマーケティングを学びたいという気持ちがあり、アルバイトやインターンシップに積極的なんですね。コロナ禍でシフトが減少すると、「何かやらなくちゃ!」という気持ちから、単発のアルバイトや1日のインターンシップにたくさん参加したそうです。ただここにきて、「いろいろやってはみたけど、何を学んだんだろう?」と自身の学びが浅いのではないかと不安になったようです。
ですので、私からは「時間は有限だから、自分が本当に学びたい、やりたいことを改めて取捨選択してみたら?」とアドバイスをしました。

宇佐川:もしかしたら、その彼も少しずつ感じていたモヤモヤを相談することができないまま過ごしてきたのかもしれないですね。これまでは、キャンパスで友達との何気ない会話だったり、先輩の就職活動の話を聞いたりして、自分のモヤモヤに気づいて相談ができていたのでは。
大正大学のデジタルeポートフォリオのように、客観的に自分の行動を見て、そこでの気づきを振り返り、次につなげていく、ということができればいいですね。

坂本:オンラインでのコミュニケーションが増えた現在でも、何か問題が起きたときに、何が問題なのかを自分で話すことができて、それを乗り越えようと努力する学生はいます。そのような学生はアルバイト経験から得られることを自分の学びにつなげることができていて、就職活動のときに話すガクチカ(学生時代に力を入れたこと)でもアルバイトの話をしているんじゃないかな、と思います。

自身の学びを振り返る学生のイメージ

それぞれの経験をつなげ、学びが活かせていることに気づく

宇佐川:坂本さんの職場では、学生や若者のアルバイトへの育成に注力されているので、そのような相談を受けて、実際に学校での学びや本人の気づきとつなげていくことができるのだろうなと思うのですが、そのような学生や若者を育てていこうとする企業は増えているのでしょうか?

坂本:学生のニーズは増えているように思うのですが、そのような企業が増えているというわけではないかなと思います。

宇佐川:どうしたら増えると思いますか。

坂本:学生にとってのアルバイトは、社会に出る一歩前の状況で、学校での学びを社会とつなげる絶好の機会なんですよね。それ自体を社会全体で意識することが大事ではないかと思います。そして、学生や若者のアルバイトが学びにつながっていることの社会的評価も特にないので、その点もあると企業はもっと向き合えるのではないでしょうか。

宇佐川:そうですね。企業活動はボランティアではないので、アルバイトを育てることが何につながるのか、生産性が上がる、売上が上がる、みたいにわかるといいですね。

澤:今どの企業にも共通しているという意味では、人口減少社会のなかで、一人ひとりの生産性を上げることは必須ですよね。
私がある大学ゼミで学生に聞いた話では、「自分が学びたいもの、これからのキャリアに向けて身に付くものであれば時給が安くてもアルバイトをしたい」という意見が多かったように思います。一方で、受け入れる企業は「学生や若者にとって、自社のアルバイトのどのような経験が彼らの学びにつながるかわからない」と棚卸しができていないところが多いので、このギャップが気になっています。

成田:本学の就職課の話でも、学生時代に力を入れたことの内容でアルバイトの話は多いと聞きます。どういうものを学んだらいいのか、というのはその時々であると思うのですが、私はつなげることも大事だなと考えています。
本学では授業でグループワークやディスカッションをする度に、どこが良かったか、どこを改善すればもっと良くなるか、など振り返りを行っているのですが、ある学生が「アルバイト先で店長から、『最近君は周りの人の意見をよく聞いたり、うまく意見を取り入れてまとめたり、他の人と一緒に働くことが上手になったね』と褒められました!」と嬉しそうに話していて、それは大学での学びをアルバイト先でも活かせたのではないか、ということなんです。こういうことが地域社会などで共有できると、もっと学生や若者の学びに対して、教育機関だけではなく、企業も一緒に連携していけるような気がします。

宇佐川:仕事での気づきが学びの興味を喚起する。学びの場で知った知識、ノウハウを職場で試してみる。知識・人との関わり方など、循環がまわるように、それこそ産業連携したいですね。

今回は「学生、若者におけるアルバイト経験」をテーマに、コロナ禍での学生や若者の実態についてお話を聞きました。シフト減少や単発アルバイト等で感じる不安を客観的に見つめ、自分の学びにどうつなげていくか、大正大学での取り組みはヒントになるでしょう。後編は受け入れる企業側に求められることについて話し合います。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)