採用の知恵袋
2022年10月17日
採用の知恵袋 2022年10月号 ―ミスマッチを防ぐ「ネガティブ情報」の開示を―
少子化に加え、卒業後の進学率の上昇で高卒人口は減少の一途を辿っています。若手採用を高卒採用メインで進めてきた企業では、「なかなか採用ができない」という状況も少なくないでしょう。大卒向けの新卒採用(以下、大卒採用)を始めたからといって、若手の採用が厳しいことには変わりはありませんが、新たな若手採用の一手として始める場合、企業が特に意識すべきことはなんでしょうか。
「採用の知恵袋」は、ジョブズリサーチセンターが調査研究を通して得た採用に関する知見をもとに、企業から寄せられる質問に回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。
これまで若手の採用は高卒採用をメインに行ってきました。しかし、少子化の影響で地元の高校は定員割れになっており、また、卒業後に就職ではなく大学に進学する生徒が増え、求人を出しても応募なしの状態が続いています。若手採用として大卒向けに採用を始めてみようと思うのですが、特に意識することはありますか。
(東海エリア/製造業)
採用活動は、企業が学生を選ぶ場だけでなく、学生が企業を選ぶ場でもあります。お互いが知りたいと思う情報を提供し合い、お互いに納得度の高い状態で入社にたどり着くことが大切です。そのためには、学生が知りたい情報、特にネット上では取得しにくい「ネガティブ情報」を提供することが、学生が入社を決め、かつ、入社後のミスマッチを防ぐポイントの一つです。自社の「売り」だけではなく、「ネガティブ情報」をどのように提供するか、ぜひ考えてみてください。
解説
◇激化する若手採用市場
改めてお伝えするまでもなく、日本の少子化は急速に進んでおり、若手採用は非常に厳しいのが現状です。リクルートワークス研究所が調査した2023年3月卒大卒求人倍率は1.58倍でした。コロナ禍前に就職活動が行われた2020年3月卒1.83倍と比較して2021年3月卒・2022年3月卒は対前年で低下していましたが、2023年3月卒は回復傾向が見られます。
また、リクルート就職みらい研究所が調査した2022年9月1日時点の内定状況は、2社以上から内定を取得している大学生は65.4%、平均内定取得企業数は2.48社と、5人のうち3人は複数社の内定を取得しています。つまり、学生は平均して1.48社に内定辞退を申し出るということになります。そのため、企業にとっては、学生に内定辞退されないよう、いかに自社に魅力を感じてもらうか、が重要になります。
※「内定率」は内定・内々定を含む。政府の要請における正式な内定日は10月1日以降である。
◇早期離職の理由No.1は仕事内容への不満
「3年3割」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。厚生労働省「新規学卒者の離職状況」で発表されている大卒者が入社3年以内に離職する割合です。この調査の中でその離職理由は明らかにされていませんが、全国求人情報協会が行った調査では、早期転職者の初職離職理由の1位は「仕事内容への不満」51.5%でした。「仕事は楽しいことややりがいばかりではない」というご意見はもちろんその通りです。では、皆さんの会社の採用活動において、仕事の困難さをやりがいと合わせてどの程度お伝えできているでしょうか。
◇ネガティブ情報を含めたリアルな情報開示を
特に、オンラインによる採用活動が主流になってきた昨今、学生とのコミュニケーションに不安を感じている企業も多いのではないでしょうか。リクルート就職みらい研究所が行った調査によると、選考がオンラインのみで完結した学生に対象を絞った場合、入社先に納得している学生はしていない学生に比べ、現実的な情報開示をより受けていた割合が高い結果になりました。また、仕事の厳しさや苦労といった情報を学生に伝えている企業の方が、採用満足度が高く、ネガティブな情報を開示することは、学生にとっても企業にとっても入社の納得度や採用の満足度に繋がっていることが分かります。
採用活動において、自社の魅力をいかに伝えるか、という点は各社が尽力されるかと思います。しかし、企業から良い情報しか出てこないと、学生が不信感を持ってしまったり、良い情報だけをインプットして入社しても、入社後のミスマッチが発生し、早期離職を招いてしまう可能性があります。仕事の厳しさや、入社後につまずくであろうポイントなど、ネガティブな情報をあえて伝えることは、入社後のミスマッチを防ぐためにも重要であり、「つつみ隠さず話してくれた」という企業へのポジティブな印象にも繋がります。
ただし、その際に必ず気をつけていただきたいことは、「うちは残業時間が長いから」「最初のうちは雑用ばっかりだから」など「ネガティブ情報そのもの」だけを伝えるのではなく、その背景や目的などを合わせて伝えてください。たとえば、残業が多い場合、「受注が増えている」という背景や、「会社としてこういう取り組みをして改善を進めている」という姿勢も合わせて伝えると学生の受け取り方も変わるでしょう。また、全ての学生が同じ情報を欲しいと思っているわけではありません。その学生はどんな働き方をしていきたいと思っているのか、大切にしていることは何か、学生の多様性も意識して必要な情報を提供しましょう。
冒頭にお伝えしたとおり、大卒採用を始めたからといって若手採用が容易になるわけではありません。しかし、従業員の平均年齢が上昇している中、企業の存続、事業承継のためには、若手の採用は避けて通れないのも事実です。「待っていれば来る」時代は終わり、企業規模や業種・職種を問わず、採用を成功させるための工夫は不可欠な時代です。それだけ労力をかけて採用した学生に活躍してもらうためにも、入社をゴールにせず、入社後の活躍を見据えた採用活動を意識してみてください。
※各調査の詳細については、出典元をご参照ください。
(協力:静岡商工会議所)