座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」
2020年08月07日
採用選考でのオンライン面接はミスマッチを防げるのか
座談会の概要
この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
2回目となる今回の座談会テーマは「コロナ禍における求人、採用選考」です。ジョブズリサーチセンターの宇佐川が進行役となり、リクルートジョブズ営業の桒原さんが求人の現場で聞かれる企業担当者の悩みに対し、法政大学松浦教授よりアドバイスをいただきます。後編は、コロナ影響で導入が進むオンライン面接についてお話をお聞きします。
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法政大学キャリアデザイン学部教授
松浦 民恵(まつうら たみえ)博士(経営学)。専門は人的資源管理論。日本生命相互会社、東京大学社会科学研究所、株式会社ニッセイ基礎研究所を経て、2017年4月より法政大学へ。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授を兼任。労働政策審議会職業安定分科会需給制度部会、中央最低賃金審議会等の公益委員。主な著書は『営業職の人材マネジメント』(中央経済社)など。
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株式会社リクルートジョブズ
営業本部 エリアマーケット営業統括室 エリア営業1部 福岡2グループ
グループマネージャー
桒原 徹也 (くわばら てつや)2009年リクルートグループに新卒入社。横浜からキャリアをスタートさせ九州や中国地方で経験を積みながら、一貫して中小企業のサポートに尽力し12年。現在4年目となる福岡県で、多種多様な業界の現場責任者、経営者と向き合い、現状を的確に分析する。趣味は食べ歩きのほか、ゲームやYouTube鑑賞。デジタルネイティブ世代の感覚を持ち合わせている35歳。
人材採用におけるオンライン面接の上手な活用方法とは
宇佐川:緊急事態宣言が解除されても、密を避ける、できるだけ外出を控えるという意味でも、面接のオンライン化は進みますよね。
桒原:オンライン面接は今も増えています。介護施設などの医療福祉関連は、面接のみならず取引先との打ち合わせなどもオンラインで実施する企業が本当に増えました。コロナ以前はオンラインでの面接、打ち合わせはほとんどなかった業種でもガラッと変わった印象があります。
宇佐川:介護施設は入居者の方々を守るという意味でもオンラインによる面接や打ち合わせは大事ですよね。ただ気になるのが、オンライン面接で採用はできるのか、という点です。実際どうでしょう、採用できているのでしょうか。
松浦:学生からも説明会や面接など選考プロセスの大部分がオンライン化されているという話を聞きます。ただ大手企業の新卒採用など人気がある企業の選考の厳しさは変わりなく、最終面接は密を避けて対面の面接で、というのも少なくないようです。一方で、企業によっては最終面接まですべてオンライン、つまりオンライン面接で採用選考が完結しているところもあるようですね。
桒原:採用基準や人材要件定義が明確に設定できていないとオンライン面接は難しいように思います。また、オンライン面接のマニュアルづくり、ノウハウを蓄積していく必要もあります。アルバイト採用の場合、新卒採用のように筆記試験やSPIなどを実施している企業は少なく、面接重視で話して決めることが多いのですが、これまで面接重視で採用基準が明確になかった企業に対しても、オンライン面接の場合は採用基準を明確化することを勧めています。ただ個人的にはオンライン面接でわかることと、わからないことがあるような気がしていて…。そこがまだ自分でもはっきり掴めていないところでもあります。
宇佐川:面接で会って決める、としていた企業がすべてオンライン面接に切り替えるのは確かに難しい。中小企業などは内定辞退を避けたいので、面接で採用を決めるだけではなく、入社を決めてほしいですよね。だから、内定は出したけど最終的に入社しない、というミスマッチを減らしたい。オンライン面接はそのミスマッチを防げるのか?と考えるわけです。
桒原:面接の前に座談会のようにして、会社説明にビデオ電話を利用する企業の方はいらっしゃいます。できるだけ面接以前で会社、仕事のことを知ってもらおうという目的ですが、こういう使い方は有効なのかなとは思います。
松浦:オンライン面接を求職者の立場で考えると、自宅でされる方が多いと思うのですが、それは会社での面接と違い、リラックスできる空間にいる、ということですよね。リラックスできる空間だからこそ見極められる部分もあれば、逆に見極めるのが難しい部分もあるかと思います。
宇佐川:見極めることが難しいことはありますよね。面接でどういう質問を投げかけるか?というのもあると思いますが、面接以外の時間で話すちょっとした雑談でわかることもあったり…。
松浦:対面の面接で収集できていたすき間情報(応募者の素の情報)をどう引き出すか?はオンライン面接では工夫が必要ですね。
宇佐川:そう思います。集中力や頑張る姿勢などは、オンライン面接ではなかなかつかみづらい。オンライン面接で見極めることは先ほどの採用基準の話にも通じますが、各社で設定する必要があると思います。何を見極めるのかが言語化できていないと、ミスマッチをなくすことは難しい。
一方で、オンライン面接はリラックスした空間でできるので、「面接」ではなく「座談会」(選考ではない)とすると、すき間情報も拾いやすいのではとも思いました。ここもこれからナレッジを蓄積したいですね。
コロナ禍による人材採用でも「変えること」と「変えないこと」を整理する
宇佐川:あと気になっているのですが、オンライン面接の対応にジェネレーションギャップはあるのでしょうか。
松浦:学生はデジタルネイティブと言われる世代です。ゼミなどで学生とのやり取りもzoom(オンライン会議システム)を利用していますが、学生達はすぐ使いこなせるようになりました。むしろ企業側の方が心配かもしれません。コロナ禍ではじめてオンライン会議システムを利用した企業の方も少なくないと思うのですが、インターネット環境や使い方(ミュートや画面共有等)は入念に確認しておいたほうがいいと思います。
オンライン会議で、相手側が時間になっても入室されない、声がよく聞こえない、画像も見えづらい…となると、あれ?となりますよね(笑)。使い慣れている学生側(応募者)に対して、企業がこういう不十分な対応をとってしまうと、「この会社大丈夫かな」と思われてしまう懸念があるわけです。
宇佐川:それは避けたいですね。たとえば、企業担当者も使い慣れている電話やLINEなどの方がよいのでしょうか。
松浦:学生には就職活動とプライベートは分けたいという気持ちがあるので、プライベートのLINEで企業担当者と繋がるのは嫌がるかもしれません。また、ビジネスライクな電話やメールに慣れていない学生が多いので、学生視点からいくとオンライン会議システムの方が好まれるかもしれませんね。
桒原:電話やメールに不慣れ、ということは入社後にそれらを使うことが多いと応募や面接を辞退するなど離脱する可能性もありますでしょうか。
松浦:いえいえ、それは少ないと思います。働くうえで必要な電話やメールはできるようになっていただく必要がありますし、私も学生にはできるだけ指導するようにしています。電話やメールだからNGということはないのですが、選考プロセスのなかで急に方法が変わったり、または何も連絡がなかったり、という企業があるようで、それは困るという話は聞いたことがあります。
宇佐川:先ほども話があったように、対面の面接ではその前後の時間で雑談などもできていた分、面接内容のフォローもできたかもしれないが、オンライン面接になると面接時間以外は事務連絡のみの接点になるので、そこは丁寧な対応でいきたいですね。
松浦:そうですね。コロナ禍による対応で、面接がオンライン化されたように「変えるべきこと」があるなかで、丁寧なやりとりで信頼関係を築くなど「変えずにやるべきこと」もありますよね。「変えるべきこと」は大胆に変えていくことでこの変化の時期を乗り越えていけるのだと思います。
桒原:建築現場でも施工管理の方が一部オンラインで業務するようになった、という企業もいらっしゃいます。これまでは在宅勤務が難しいとされていた仕事でも工夫を重ねて取り組んでおり、そういった企業の方がオンライン面接でも仕事の説明はしやすいし、応募者も理解しやすいように思います。
宇佐川:業務改善としてオンライン化できる仕事を作り出すというのはこれから大変重要になると思います。オンライン面接を高評価する声として、時間と場所に制約されずに企業に応募できるようになった、ということです。その意味でミスマッチをなくしていくためには、入社後の仕事も時間と場所に制約されずにできること、可能な範囲で在宅勤務ができる体制や環境づくりをしていくことが求められますね。
前編に続き「コロナ禍における求人、採用選考」をテーマに、後編は採用選考の変化として、オンライン面接についてお話しいただきました。オンライン面接でミスマッチは防げるのか?といった問いに対し、現時点で考えられる上手な活用方法やそれを作り出すための視点をいただけました。
文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)