人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2021年08月06日
人材の定着・活躍につなげる面接の工夫 ~応募者の思いに目を向ける~
採用のミスマッチを防ぐため「面接」を充実化。応募者が「何を重視するのか」に目を向ける
(有)ブルーロード警備は広島県福山市に本社を置く会社。高速道路工事や一般建築工事の現場における交通誘導を行っています。同社では採用のミスマッチを極力減らし、新入社員の定着率を向上させるため、採用面接のやり方に工夫を重ねています。応募者の重視する「働き方」を知り、会社が応募者に対し何ができるか、まで面接で理解してもらおうとの試みは、どういった成果につながっているのか。社長の小手川さんと社員の方々に話を伺いました。
- ● 社名/有限会社ブルーロード警備
- ● 創業/1992年10月
- ● 本社所在地/広島県福山市南蔵王町 5-20-27
- 倉敷営業所/岡山県倉敷市中島828-1
- ● 資本金/500万円
- ● 従業員数/85名
「ブルーロード警備」の事例から学ぶ採用のミスマッチを防ぐポイント
- 面接は互いの理解を深め合う場
- 面接は、募集条件の確認をするだけではなく、対等の立場で互いを理解し合う機会だと認識する
- 応募者が重視することは何か
- 面接で、応募者が何を重視するのか、その背景にある思いは何かを引き出す
- 自社が提供できることは何か
- 応募者の思いに対し、自社に何が提供できるか、丁寧に説明する
応募者の多様化とともに、『こんなはずじゃなかった』と離職する人が増加
「警備の仕事」と言えば「60歳で定年を迎えた人の再就職先」というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。実際、従来は、「応募者の大半が高齢の方々でした」とブルーロード警備の社長・小手川ひとみさんは述懐します。当時の面接は応募者のお話を聞くというよりは、自社の労働条件などを手短に説明するだけで終了していました。潮目が変わったのはリーマンショック、東日本大震災あたりから。応募者の顔ぶれが、以前と異なってきたらしいのです。
「『前職を辞めたかったわけではないが、リーマンショックで事業縮小になった』『大震災の余波で会社がなくなった』『大学卒業後、就職先が見つからない』など。『親の介護で離職し、一段落したので再就職を考えたものの、職務経歴に空白ができて仕事が見つからない』といった方々もいました。年齢層が若くなっただけでなく、いろんなバックボーンの方が面接に来るようになったんです」
仕事を中心に考えるのではなく、生活を大切に考える人が増えてきた。自分の人生や家族との時間を重視した上で、どんな働き方なのかに着目する人が多くなってきた。2020年に起こったコロナ禍により、いっそうそうした傾向が強くなってきたのを、小手川さんは感じました。
若い方や様々な属性の方からの応募は大歓迎です。しかし、別の問題が起こってきました。新入社員の定着率がなかなか上がらないのです。
「せっかく採用しても『こんなはずじゃなかった』『こんな仕事だと思わなかった』と辞める人が出てきてしまう。どうして定着率が上がらないのだろう? 募集の仕方が悪いのか? と、求人内容を何度も読み返しました。それで考え付いたのが、『面接のやり方を変えてみよう』ということです」
仕事内容や待遇を一方的に説明するだけでは、当社に対する理解が深まらないため、入社してもすぐ辞めてしまうのかもしれない。採用のミスマッチを防ぐには、面接の段階で、どんな働き方を希望しているのか、そう希望する理由は何か、までしっかりヒアリングする。そして、応募者の期待に自社がどの程度まで応えられるか、丁寧に説明する。小手川さんは少しずつ、そんな面接を実行に移しました。
どんな働き方を望むのか、面接で丁寧にヒアリング
「面接で一番知りたいのは、応募者が転職によって新しく始める仕事で、一番優先したいのは何か? です。給与なのか、人間関係の良い職場か、休日か、それとも家族のそばにいられることか。中にはフリーターの経験が長く、『定年まで正社員として働ける』点を重視する方もいました。前職の勤務時間が不規則で家を空ける日もあったため、『毎日、家に帰りたい』と切実に語る人もいました。面接で尋ねる内容を意図的に変えてから、改めて、人の抱える思いは様々だと気づきましたね」
その思いに、弊社はこういう部分で応えられる、でもここは難しいかもしれないと、小手川さんは細かく説明するようにしました。時にはこういう大変なこともあると、包み隠さず。入社後の『こんなはずじゃなかった』を少しでも減らしたい、と考えてのことです。
「内定を伝えた時、家族と同居している方なら、『今回の転職について、ご家族は何かおっしゃっていますか?』とか『配偶者の方はどういったご意見ですか?』と聞くこともあります。家族のことをしつこく聞いてはいけない、と最大限気を使いながら、ですが。ご本人の意欲が一番だといっても、ご家族に応援していただける職場であることがとても大切だと考えていますから。給与や休日へのこだわりも、背景には『家族との時間を大事にしたい』との思いがある場合も多いので、嫌でなければ教えていただこうと」
20代の若い応募者には『10年先、20年先にはどうなっていたい?』と、将来像を尋ねることもあるそうです。応募者が語る将来像を聞きながら、こういうことができるようになったら、仕事の幅がこんな風に広がる、と面接でキャリアステップについて紹介するケースも増えました。
「面接での応募者とのコミュニケーションは、格段に充実しました。その分、納得して入社してもらえる方も増えたと思います」と小手川さんは手応えを感じています。
応募者の年齢やライフステージ、生活における優先事項などを考慮し、それぞれの志向に合わせて問いかけを変える。時には応募者の望む将来像を聞き出しながら、仕事そのものだけでなくキャリアステップについても丁寧に説明する。面接でのそうした様々な工夫が、着実に実を結んでいるようです。
「休日は子供と過ごしたい」という要望に、きちんと応えてもらった
三輪正次さんは2020年6月にブルーロード警備に入社。前職は美装関係の会社に勤務していました。
「未経験なので自分にできる仕事かどうかは気になりました。それ以上に重視していたのが『子育てとの両立』です。二人の子どもが小さく、妻は土日出社なので、土日は私が面倒を見てあげたい、というのが一番気になった点でした。『土日しっかり休めるか』なんて、応募者から言い出しづらい場合もあるのですが、社長は面接で積極的に尋ねてくれて。『うちならこういう対応ができます』と明確に答えてもらったことで、納得できました」と笑います。
前職はドライバーだった藤村仁史さんが同社に入ったのは、2020年10月のこと。
「私も三輪さんと同様、休日に子どもと一緒に過ごせるかどうかを重視しました。社長から『それは大丈夫』と即答してもらったことで、不安は解消できましたね。『長く働ける仕事にしてほしい』と望んでいた妻も、面接がとても話しやすく、子どもと休日を過ごしたいという要望に社長が親身になって耳を傾けてくれたことを話すと、安心してくれたようです」と、藤村さんは話します。
三輪さん、藤村さんはその後、様々な現場を経験。先輩と一緒に現場を回る中で様々なアドバイスをもらい、未経験でやっていけるのか、という不安も解消されました。
「社内の先輩だけでなく、現場では工事関係者や周辺住民の方々とも関わり、話すことが増えました。警備とは想像以上にコミュニケーションの大切な仕事なのだと実感しています。そこが面白いですね」と二人は笑います。
そして、肝心の『子育てとの両立』はどうだったか? との問いに、二人は「休日にはきちんと、子どもと過ごせています。私たちの家族に対する心配りを感じます」と口を揃えました。
新入社員が現場で困ることのないよう、研修も充実
新入社員の定着率を高めるには、入社後の研修体制の整備も欠かせません。その点で、ブルーロード警備はどんな努力を重ねているのでしょうか。
研修担当の豊原平之さんは言います。
「警備業に携わる者は座学2日、実技1日の研修が義務付けられています。法定のカリキュラムに沿って様々な教育を実施するのですが、前職の経験をはじめ、一人ひとりの個性を見極め、能力に応じた指導をするように心がけています。例えば、建設業の経験者は現場や警備にも馴染みがあって、飲み込みやすい部分が多くあります。しかし、全くの未経験の方は初めて触れるものばかりです。新入社員だから、できないのは当たり前。ささいなことにつまずき、『この仕事に向いていない』と悲観させたくはないですから」
「私たちの役割は、新しく入社した人が現場に行って困らないようにすることです。研修で伝えられることには限界があるので、研修と並行して現場でしっかり指導するのも大事だと考えています。 いずれはVRなどを採り入れた研修も実践してみたい。例えば重機に乗ると、想像以上に周囲の風景が見えづらくなるんです。そこでVRを使って、重機に乗った時の目線を体験してもらうとか。いろんな知恵を採り入れ、研修内容を高めたいですね」と、同じく研修を担当する安田譲二さんも抱負を語ります。
新入社員の定着率がアップした。仕事に対する満足度も向上した
「仕事内容や待遇など最低限の項目を確認するだけで終わっていた面接」から、「応募者の望む働き方、仕事における優先事項、そう考えるバックボーン、さらには将来像にいたるまでヒアリングし、自社に何ができるかをしっかり提示する面接」へ。一歩ずつ、面接の工夫を重ねてきたおかげで、進入社員の定着率は見違えるように向上。『こんなはずじゃなかった』と離職する人はいなくなり、仕事に対し前向きな新入社員が増えてきました。三輪さんと藤村さんも、入社1年未満で「交通誘導2級」の試験にチャレンジし、見事合格しました。
「新入社員を現場に送る際は、どんなチームの中に配置しようか、といったことも考えます。この人のキャラクターならこの先輩と良い相乗効果がありそう、この現場ならこんな経験が積めそう、とか。そうやって、任せられる仕事が増えた新入社員が、『今日はしんどかったですよ~』と言いながら笑顔だった時、嬉しくなります。お取引先様からも『新入社員の方、頑張っていますね』とか『若手の方が入って活気が出ましたね』とお声がけをいただくこともあります。毎日、充実感を持って働いてくれたら、縁あって出会ったかいがあるというものです。当社にとっても、働く本人にとっても」
面接でのヒアリング内容を見直す。応募者の優先したい思い、バックボーンに目を向けてみる。こうした工夫は、業種に限らずチャレンジできることではないでしょうか。採用のミスマッチに悩む企業の方は、ブルーロード警備の取り組みが突破口になるかもしれません。