採用の知恵袋

2023年04月14日

#人材不足#正社員#育成・定着

採用の知恵袋 2023年4月号 ―男性従業員の育休取得、促進しないデメリットは?―

男性の育休取得率を、2025年度に50%、2030年度に85%とする政府目標が掲げられました。現状の13.97%(2021年度)から大きく伸長する必要がある数字です。代替要員の確保が容易ではない中小企業は、どのように向き合うべきでしょうか。
「採用の知恵袋」では、企業から寄せられる質問に対して、調査研究の結果や企業・行政団体との取り組み事例をもとに回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。

Q.

2022年4月から育休制度の個別周知・意向確認が義務化され、当社でも実施をしていますが、特に男性従業員に対しては形式上の確認になっており、育休取得を促進できているとは思えません。このままではいけない、と思いつつも、育休中の代わりの人員確保も難しく、休んでほしくないのが本音です。このまま男性の育休取得を進めないことのデメリットはなんでしょうか。(関東エリア/卸売業)

A.

現状の人材不足を懸念して、男性の育休取得を進めないことにより、将来的に、より人材不足に陥ってしまう可能性があります。代替要員の確保の難しさは、育休促進にかかわらず、少子高齢化が進み人材不足の日本においては、今後も課題となります。これを機に業務の見直しや効率化について検討をしてみましょう。

解説

◇2021年6月育児・介護休業法の改正

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されています。改正点は大きく5つあり、育休制度の個別周知・意向確認の義務化はそのうちの一つで、2022年4月に施行されたものです。妊娠・出産(本人または配偶者)の申出をした従業員に対して、育休制度の周知と取得意向を確認することが義務化されました。男性が育休制度を利用しなかった理由として、「会社で制度が整備されていなかった」「取得しづらい雰囲気だった」などの声が挙がっていることが法改正の背景にあります。

その他にも、従来の育休とは別に、産後8週間に最大4週間(2回に分割可能)取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設され、柔軟な取得ができるよう改正されています。
※詳細については、厚生労働省ホームページをご覧ください。

graph_chie0414.png

◇男性従業員への育休取得を推進しないことのデメリット

では、男性従業員の育休取得を促進しないことのデメリットはなんでしょうか。

大前提として、従業員からの育休の申出を拒否することは法令違反となり、罰則は設けられてはいないものの、厳しい行政指導が行われます。そのような観点以外のデメリットについて考えてみると、人材面では、社外からの評価と社内からの評価が下がることによる人材不足が考えられるでしょう。

①「社外からの評価が下がる」とは?
現状では、社会全体として男性育休が普及している状態ではないため、たとえ貴社が促進されていない職場であったとしても、男性求職者から職場の選択肢として除外されることは少ないでしょう。一方で女性求職者からの見え方は少し違っているかもしれません。家庭と仕事を両立したいと考えている女性にとって、自分の働く職場が男性の育休取得に積極的であるか、は自分が子育てと両立して働けるか、という重要な判断要素となります。

また、公益財団法人日本生産性本部が2017年に行った新入社員向けの調査において、「子供が生まれたときには、育児休暇を取得したい」と回答した男性の割合は約8割でした。コロナ禍でワークライフバランスを重視する傾向が強まったことを考えると、今ではより高くなっていることが予想されます。今後は男性求職者にとっても、労働時間や休日日数と同じように、職場選びの基準になるのではないでしょうか。

graph_chie0414_2.png

②「社内からの評価が下がる」とは?
2023年4月には、従業員1000人超えの企業に男性の育休取得率の公表が義務化されました。また、政府が男性の育休取得率の目標を2025年度には50%、2030年度には85%へと引き上げた(2021年度 13.97%)ことや、一定期間に男女で育休を取得した場合の育児休業給付金の給付率を、手取りの10割に引き上げる方針を出したことなどが後押しとなって、男性の育休取得はどんどん進んでいくでしょう。

育休取得率が50%になっている頃には、大手企業に限らず中小企業でも取得が促進されている状態です。つまり、育休が促進されていない企業に勤める男性からすると、転職すれば取得できる環境を手に入れることができ、育児しながらでも働きやすい環境を求めて転職していく可能性も十分にあります。

上記①②よりいえることは、現在の人材不足を懸念して男性育休を促進しなかったことが、将来的な人材不足を招いてしまう可能性がある、ということです。

また、人材面とは別の観点ですが、財務情報だけでなく、環境(Environment)と社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点を取り入れて投資判断を行う「ESG投資」も広がってきています。ダイバーシティが推進されていない、長時間労働が常態化している、男性が育休を全く取得できていない、といった状況の会社は経営上のリスクを抱えていると判断され、資金確保が難しくなる可能性もあります。

◇男性育休を促進するためにできることは?

①業務効率化をこの機会に
少子高齢化が進む日本においては、人材不足を根本的に解決することに育休の取得は影響しないでしょう。人材不足のしわ寄せを既存従業員に負わせるのではなく、無駄な業務をなくし可能なものは機械やシステムに頼る、属人的な業務を減らし従業員の急な休みにも対応できるようにするなどの工夫が必要になっています。これは、男性の育休取得を促進することとは関係なく、全ての日本企業に必要とされています。これを機会に一歩踏み出してみてはどうでしょうか。

②制度の周知、管理職を始め職場の意識改革を実施
業務効率化を進め従業員が休みやすい体制をつくるだけではもちろん不十分です。
育休の制度がどのように変わっていて、どんな取得の仕方ができるのかを従業員が理解できていることや、制度があっても取得できる職場風土がなければ意味がないので、同僚や管理職の意識改革を進めることもとても重要です。「男性で育休取るの?」「俺たちは取ってこなかった」「その間の仕事はどうするの?」といったハラスメントが起きないように、職場の意識改革も合わせて行っていきましょう。

今回は、男性の育休促進についてお話ししました。すでに積極的に促進している企業の事例(ねぎしフードサービス|"パパ育休"推進で選ばれる企業に~1年間の長期取得や分割取得も。安心して休める組織風土と体制づくり)も参考にしながら、社内からも社外からも評価される組織づくりをしていきましょう。