人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2022年10月03日

#育成・定着#飲食業

"パパ育休"推進で選ばれる企業に~1年間の長期取得や分割取得も。安心して休める組織風土と体制づくり~

芋田さんの運営する農場スタッフの方々

今回クローズアップする人材活用の事例は「ねぎしフードサービス」

2022年10月、育児・介護休業法の改正により「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設されます。男性の育休取得がより進むことが期待されますが、「ねぎしフードサービス」では、それに先駆けてパパ育休推進に取り組んできました。
人材不足感が特に強い飲食業やサービス業は、一見パパ育休が取りにくいと思われがちです。しかし、同社では既に複数の取得実績があり、制度は社内に浸透しています。また、パパ育休を推進したことで、社員のモチベーションアップや人材採用などにも好影響が出ていると語る、同社の取り組みの経緯や工夫を紹介します。

  • ● 社名/株式会社ねぎしフードサービス
  • ● 創業/1981年
  • ● 事業/飲食店経営(牛たん・とろろ・麦めしの専門店を約40店舗展開)
  • ● 本社所在地/東京都新宿区西新宿7-22-36 三井花桐ビル4階
  • ● 資本金/5,000万円

「ねぎしフードサービス」の事例から学ぶ人材活用のポイント

ポイント1 「従業員から選ばれる企業になる」という決意
これからも働きたいと思える会社づくりが、将来の事業継続に繋がる
ポイント2 「属人的業務」を減らし、カバーし合える体制をつくる
安心して長期休暇を取れるよう、日頃から上司や店舗間での情報共有を進める
ポイント3 パパ育休を浸透させる、会社や上司・先輩からの後押し
社内広報や上司・先輩の一言で、「自分も利用したい」と自然に手が上がる雰囲気をつくる

出産・育児を迎える社員に「おめでとう」も言えない企業は選ばれなくなる

「少子高齢化による人口減少という大問題に立ち向かうため、私たちは、お客様だけではなく、従業員からも『選ばれる企業』でなければいけません」と執行役員・人財共育部長の石野さんは語ります。
「出産・育児という人生の一大イベントを迎える従業員に、気持ちよく『おめでとう』と言ってサポートできない会社が、果たして従業員から選ばれるでしょうか。従業員の待遇やワークライフバランスの改善は、当社の事業継続のためにも重要なテーマなのです」

執行役員・人材教育部長の石野さんs
執行役員・人材教育部長の石野さん

ねぎしフードサービスでは、社員約140名、アルバイト約1,500名が働き、牛タン・とろろ・麦めしの専門店「ねぎし」を都内中心に40店舗ほど展開しています。
同社はこれまでも、繁忙期や通常期を問わず、一般社員・店長・エリアマネジャーなどの役職や契約形態の制限もなく、育休を取得できるよう制度を整えてきましたが、取得者の大半が女性でした。

男性社員の育休取得が進んだきっかけは、コロナ禍の2020年6月、男性店長の第一号取得者がうまれたことでした。コロナ禍により里帰り出産や、遠方の母親に手伝いに来てもらうことが難しくなり、夫婦二人で協力して出産・育児をするため、パパ育休を活用したいと希望があったのです。

「彼は店長として活躍するエース人材でした。どれくらいの期間育休を取りたいのか尋ねると、『1年取りたい』とのことで、私は大賛成でした。第一線にいる人材でも1年の育休が取れる、取っても問題ないと分かれば、他の従業員も遠慮なく育休を申し出るようになるでしょう」

石野さんの期待通り、その後もパパ育休取得者は続き、それから約2年間で8名の男性従業員が育休を取得しました。また、期間も1年や10カ月などの長期から、2週間を2回取得するといった方もおり、事情に応じた柔軟な育休取得が定着しています。

育休中でも安心して現場を任せられるカバー体制

育休を取るうえで気になるのが「長い間抜けても大丈夫か」「現場に迷惑をかけないか」ではないでしょうか。特に、役職が上がるにつれ、当人も周りのメンバーも不安を覚えるものです。

そこでねぎしフードサービスでは、従業員が安心して育休を取得できるための環境整備を日頃から進めています。
「店長は、上司のエリアマネジャーと緊密にコミュニケーションを取っていますし、近隣エリアの店長同士でミーティングを定期的に行っています。店舗運営や人材育成について日頃から情報共有しているので、いざ不在になっても、すぐ応援に駆け付けられる体制になっています」と、人財共育部でマネジャーを務める和田さんは説明します。
「育休は取得1カ月前までに事前申請することになっており、取得前に2回、長期取得であれば取得中にも1回面談を行い、しっかり時間をかけて業務を引き継ぎます」

また、ねぎしフードサービスの「同一エリア・同一ブランド」いう店舗戦略も、育休取得を支えています。新宿から50分以内で行ける範囲の都内を中心に店舗展開し、メニューやサービス内容は、どの店舗も共通しています。他店からのヘルプ人員を配置しやすいことで、育休による現場の人員不足を抑えています。

人財教育担当マネジャーの和田さん
人財教育担当マネジャーの和田さん

「店長が16日以上の育休を取得する場合、一時的に代理店長をたてます。3カ月以上の長期で取る場合は、待遇は変わりませんが、まずは『店長』の役職を外したうえで復帰してもらいます。『長く現場を離れて、いきなりフルスロットルで働くのは厳しい。体力的にも精神的にも、慣らし期間が欲しい』という、育休取得後の店長の声を反映して制度設計をしています」と和田さんは言います。

また、その副次的な効果として、代理店長を任された従業員が「ここで成果を出して、正式な店長へのキャリアを拓きたい」とチャンスと捉えるなど、モチベーションアップや育成にも繋がっているとのことです。

育休を2回に分割取得。業務の不安もなく、家族と大切な時間を過ごせた

実際にパパ育休を経験した店長は、どのように感じているのでしょうか。子どもの誕生後に2週間、生後6カ月頃に1カ月の計2回取得した店長の関さんは話します。
「当初はパパ育休を取ることを考えていなかったのですが、エリアマネジャーや先輩パパの従業員から『ぜひ取った方が良い』と背中を押され取得しました。最初の2週間は、ミルクやオムツにてんやわんやでしたが、妻が夜中の授乳で睡眠不足になる分、昼は私が長めに面倒を見たり家事をしたりと、うまく分担できました」

その後、一旦仕事に復帰した関さんは、再び1カ月の育休に入ります。
「『生まれて6カ月も経つと多少出かけたりもできるから』とマネジャーのすすめもあり再度取得しました。おかげで、お互いの両親の実家に子どもを連れて行くなど、有意義に過ごせました。何より妻が喜んでくれましたし、『夫が育休中なんだ』と周りの友人に話して、羨ましがられていたようです」

パパ育休を2回取得した関さん
パパ育休を2回取得した関さん

育休中の店舗には、関さんや店舗スタッフもよく知る、他店舗の店長が入るなどのサポートがあり、安心して任せられたとのことです。

育休推進の効果は、従業員の満足度アップや定着、人材採用にも

社員会議での周知や、社内報でパパ育休取得者を取り上げるなどの活動により、「自分も利用したい」という声が自然にあがる雰囲気が醸成されつつあります。

「人材採用でも良い影響が出ていると実感します。パパ育休の取得実績がある会社が限られる中、当社では実際に取得した男性従業員が複数います。どんな配慮をし、どう制度を運用しているかを応募者に説明すると、反応が明らかに変わります」と和田さんは言います。

続けて石野さんは、「パパ育休の取得者から私宛に、『本当に有意義な時間を過ごせました。ありがとうございます』と、直接連絡をもらうこともあります。従業員のモチベーションも上がるし、今後の定着率アップも期待できます。何より、家族との大切な時間を過ごすのに役立てたと思うと、会社としても嬉しいです」と笑います。

ワークシェアをさらに進め、理想的なワークライフバランスを目指す

ねぎしフードサービスは「ワークシェア」をキーワードに、今後もワークライフバランスの整備を進めていきます。

「属人的業務が増えるほど『休みづらさ』に繋がり、本人にも会社にもよくありません。店長やマネジャーの業務をきちんと整理して、責任者がいなくても、現場だけでも対応できるのが理想です」と和田さんは語ります。
誰が担当しても高品質な業務が行えるよう、今後は社内資格なども整備し、必要なスキルを持つ人材を明確にすることで、社内全体でワークシェアできる体制を目指しています。

「男性社員から育休を取りたいなんて聞かないし…」と、パパ育休の仕組みを整えなくても大丈夫だと思ってはいないでしょうか。本当は取りたいけど言い出せない、と気後れしている社員もいるかもしれません。
パパ育休は一部の企業や業種だけのものではありません。2022年10月から産後パパ育休が創設される中、ねぎしフードサービスの取り組み事例が、貴社でのパパ育休推進の一助となれば幸いです。