採用の知恵袋
2023年02月14日
採用の知恵袋 2023年2月号 ―採用チャンスに?運送業界「2024年問題」―
EC市場の急成長によりドライバーの人材不足が叫ばれている中、慢性化している長時間労働を是正するための法規制が迫っています。「人が足りない」「その上残業も減らさなければいけない」という難題を乗り越えるために、何に取り組む必要があるでしょうか。
「採用の知恵袋」では、企業から寄せられる質問に対して、調査研究の結果や企業・行政団体との取り組み事例をもとに回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。
運送業を営んでいます。「2024年問題」がもう間もなく、というところで、売上減少やドライバー不足の悪化など悩みが尽きません。我々中小企業が、「2024年問題」を乗り越えるために、人材面でできることは何かありますか。(関東エリア/運送業)
「2024年問題」は決してデメリットだけではありません。今回の規制を機に労働環境を改善することができれば、これまでドライバーになるのを避けていた人たちの仕事の選択肢に入り人材不足が解消するなど、メリットもあります。そのためには働き手が何を求めているのかを知り、働き手に合わせた柔軟な対応をしていきましょう。
解説
◇「2024年問題」とは
2024年4月に施行される働き方改革関連法により、ドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されることで発生する様々な問題のことです。全日本トラック協会が2022年1月に行った調査では、2021年10月時点で、「時間外労働が年間960時間を超えるドライバーがいる」と回答した事業者は全体で27.1%、長距離ドライバーでは48.1%でした。約3割の事業者ですでに960時間を超える時間外労働が発生しており、運送業界において、年間960時間以内に抑えることが決して容易ではないことが分かるでしょう。
◇「2024年問題」によって予想される影響
国土交通省をはじめとして各種機関も数年前から指摘していますが、残業時間の規制はドライバーの運転時間の減少に繋がるため、これまでと同じ荷量を運ぶことができず、売上減少に繋がる可能性があります。また、同じ荷量を運ぶためには、今の人員では不足し、新たに人を採用する必要がでてきます。さらに、ドライバーの残業時間が減ることは喜ばしいことである反面、残業代を含めて生計を維持してきた人からすると、残業時間減少により給与が減少し、よりよい給与を求めてドライバー離れ=離職の可能性も起こり得ます。(参考:国土交通省東北運輸局)
◇人材面で取り組めることは何か
運送業が2024年問題を乗り越えるためには、荷待ち時間や荷役時間の削減、パレット積み・中継運輸の導入、荷主側の意識変化なども含めた業務の見直しが急務ですが、今回は人材面で取り組めることについてお話しします。
①採用ターゲットを広げる
昨今、女性の就業者数が増加し、全産業平均では44.5%が女性就業者であるにもかかわらず、ドライバーに占める割合は2.3%にとどまっています(参考:総務省「令和2年労働力調査」)。弊社が2019年に行った調査「[業界別レポート] 働く人と職場2019 -ドライバー編-」 において、ドライバー非意向者(男女)の理由として多かったのは「仕事内容が体力的にきつそう」「勤務時間が長そう」「時間的、肉体的に負担が大きそう」でした。
特に、女性は働く時間を重視する傾向が強く、ドライバーの仕事が選択肢にすら入っていない可能性が高いです。彼女たちの選択肢に入るためには、短・中距離の路線を作り、家事・育児と両立できるような働き方の柔軟性を高めることが求められるでしょう。職場に女性用トイレがない、職場が汚い、はもってのほか、職場環境も合わせて整備していくことが必要です。また、女性が重視する働く時間や休日などは若者も求めています。女性の働きやすい環境を整備することは、若者の就業希望者を増やすことにも繋がるでしょう。(参考:ジョブズリサーチセンター「求職者の動向・意識調査 2021」)
②年齢を重ねても長く働ける環境づくり
全産業の平均年齢は43.2歳であるのに対して、大型トラックでは49.4歳、中型トラックでは46.4歳と他産業よりもドライバーの平均年齢は高く、高齢化が進んでいると言われています(参考:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」)。ドライバーの人材不足を解消するためには、年齢を重ねても長く働けるための環境づくりも必要です。そのためには、シニアドライバーでも身体負荷を少なく働けるように、前述した短・中距離の路線を作る、もしくは、ドライバー業務ではなく、これまでドライバー自身がやってきた運転以外の業務を切り出し、その業務を担当してもらう、などの検討ができそうです。
2024年「問題」と言われていますが、決してデメリットだけではありません。残業時間が減り働きやすくなることで、これまではドライバーを仕事の選択肢から除いていた人たちが就業を希望する、などのメリットも考えられます。今回の規制に合わせて競争力を上げていくことが求められているのではないでしょうか。