採用の知恵袋
2022年11月22日
採用の知恵袋 2022年11月号 ―「アンコンシャスバイアス」解消から始めよう―
2022年現時点で女性の就業率は73.0%に上り、20年前の2002年56.6%から16.4ポイント上昇しました。女性の就業が進む一方で、女性の管理職となると、まだ珍しいと感じる方が多いのではないでしょうか。「ダイバーシティ経営」の必要性が叫ばれる中、女性の管理職登用を推進するために、企業にはどのような取り組みが求められるのでしょう。
「採用の知恵袋」では、企業から寄せられる質問に対して、調査研究の結果や企業・行政団体との取り組み事例をもとに回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。
弊社は長年男性中心の職場でしたが、より多様な視点を経営に取り入れるためにも、女性の管理職登用を積極的に進めたいと考えています。一方で、これまでの組織風土もあり、十分な経験を持っていても、管理職になりたいという女性社員が少ないことに頭を抱えています。
出産や育児などのライフイベントを経ても、女性社員が「これからもキャリアアップして管理職を目指したい」と思えるような職場にするために、会社としてどのような支援ができるでしょうか。
(東北エリア/水産加工業)
「管理職になりたい女性社員が少ない」と決めつけてしまうのは早計かもしれません。管理職への関心はあったものの、「今の職場環境では管理職にはなれない」「会社から期待されていない」と女性社員が感じ、諦めてしまっているケースも考えられます。
出産・育児などのライフイベントを経ても女性社員がキャリアを諦めないために、キャリアを阻害している要因や、求められるコミュニケーションやキャリア支援などを考えていきましょう。
解説
◇ダイバーシティ経営に向け、更なる女性管理職の登用が求められる
女性の社会進出の大きな課題として、M字カーブ(※)の解消と、役職者に占める女性割合の向上が従来挙げられてきました。M字カーブは解消されつつある一方、後者については、年々上がってはいるものの、役職が高くなるほど女性割合は下がり、2025年の政府目標とのギャップもいまだ大きいという状況です。 ※年代別の女性労働率のグラフが、結婚・出産にあたる年代で一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇し、M字のカーブを描く現象
極めて速いスピードで外部環境が変わり続ける現代では、同質性の高い社員ばかりで構成された組織は、いつか変化に対応できなくなってしまいます。より変化に強い、多様な視点・考え方を取り入れたダイバーシティ経営を実現するためにも、女性の管理職登用を進め、経営の意思決定に関われる機会を増やすことが重要になっています。
◇労働時間ではなく、生産性を評価できる職場へ
では、どうして貴社では、管理職になりたいという女性社員が少ないと感じるのでしょうか。リクルートが実施した「週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査 2019」から、何が女性のキャリアアップ志向を阻害しているのかを見ていきます。
「もともと自分は子供・家庭の方が仕事より大事だと思っているから」という自身の価値観によるもの以外で、外部要因によってキャリアを諦めた理由に目を向けると、「時間に制約があると、適正な評価がなされないと感じるから」が最も多く、34.7%でした。出産・育児を経験する女性の多くは、どうしても労働時間に制約を受けます。もし貴社がフルタイム勤務や残業で長時間働くことを評価する職場であった場合、出産・育児中の女性社員は「ここで働いても評価されない」と、貴社でのキャリアアップを諦めてしまうかもしれません。
そうしたライフイベントを経ても、女性が貴社でのキャリアアップを希望して、将来的に管理職を目指すためには、どれだけ長く働いたかではなく、働いた時間当たりでどれだけ成果を出したのかを積極的に評価して、「この職場なら適正に評価してもらえる」という納得感を醸成することが必要ではないでしょうか。
◇会社の期待を伝え、可能性を狭めないキャリア支援を
また、女性のキャリアを阻害する要因として、「アンコンシャスバイアス」が特に問題視されています。アンコンシャスバイアスとは、これまでの経験則による、無意識的に偏ったものの見方のことで、性別による固定的な役割分担意識も当てはまります。「女性には負担が大きいのでは」「子育て中は大変そう」などの思い込みで、女性の活躍のあり方を限定・パターン化してしまうことや、「女性は管理職になりたがらないから」という偏見で、昇進のチャンスを奪ってしまうことなどが想定されます。こうしたアンコンシャスバイアスは企業だけではなく、女性社員個人でも、「女性はこう働くべきだ」と思い込んで、無意識にキャリアを限定することも起こりえます。
アンコンシャスバイアス解消の第一歩として、まずは女性社員とコミュニケーションを重ねることが欠かせません。もし管理職になって欲しいのであれば、「なぜ管理職になって欲しいか」「管理職としてどう活躍して欲しいか」などの期待を率直に伝え、その女性社員からも「どんなキャリアを望んでいるのか」「そのために何が不安なのか」などをヒアリングしましょう。お互いの思い込みでキャリアを決めることなく、正しい理解を深めることが重要です。
そのうえで、将来の管理職候補となる女性社員については、仕事と家庭を両立できるための働き方などのサポートは勿論、中長期的なキャリアプランを一緒に設計することも大切です。見本となる先輩女性管理職が限られている分、出産・育児などのライフイベントを経験しながら、将来に向かってどうキャリアをつくっていくのかを一緒に考え、その実現まで伴走することが重要ではないでしょうか。
女性の管理職登用が進まない理由は、「管理職になりたい女性が集まらない」という採用段階ではなく、貴社に入社後、貴社でのキャリアアップや管理職昇進を難しいと感じて諦めてしまったからかもしれません。
女性社員が管理職を目指したいと思える職場づくりのために、アンコンシャスバイアスの存在に気づき、これまでの思い込みを一度なくしましょう。そして、社員との率直なコミュニケーションを通して、どのような配慮やサポートが必要なのかを知ることから始めてはいかがでしょうか。