採用の知恵袋

2022年09月20日

#学生・若年層#正社員#育成・定着

採用の知恵袋 2022年9月号 ―残業はして当たり前?―

働き方改革関連法が2019年4月から順次施行され、テレワークや副業・兼業などの新しいワークスタイルが広まる中、「これまで通り」でいることはかえってリスクかもしれません。選ばれる会社であるために、世の中の変化を捉えて、自社の職場づくりを定期的に点検することが大切ではないでしょうか。
「採用の知恵袋」は、ジョブズリサーチセンターが調査研究を通して得た採用に関する知見をもとに、企業から寄せられる質問に回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。

Q.

当社では創業社長を中心とした経営陣に「残業はして当たり前」「休みを取る社員はやる気がない」という意識が強いため、会社として働き方改革が進んでいません。その結果、ワークライフバランスを重視する若手社員を中心に、入社早期での退職が相次いでいます。また、その欠員をすぐ採用で埋めることもできず、現場の負荷は増している状況です。経営陣に、働き方改革を進めないことのリスクをもっと理解してもらうために、働き方に対する、個人の志向や世の中の動きについて教えてほしいです。
(中国四国エリア/製造業)

A.

政府が進める働き方改革(※)では、働く個人の事情に応じて、多様で柔軟な働き方を自ら選択できる社会の実現が謳われていますが、なかでも残業の削減や休日・休暇の充実は、多くの個人が注目するポイントです。それらを無視した職場づくりを続けては、人を採用できない、採用してもすぐ辞めてしまうという事態に陥りかねません。実際にどのくらい残業や休日などが職業選択において重視されているのかを、調査データなどで具体的に理解し、貴社の魅力的な職場づくりに活かしてください。
(※)参考:厚生労働省「働き方改革特設サイト」

解説

◇社員の定着・満足度アップのためにワークライフバランスは無視できない

「働き方改革」や「ワークライフバランス(以下WLB)」という考えが世の中に定着する中で、仕事と生活を両立させたい、生活をより大切にしたいという志向は主流になっています。内閣府がWLBの優先内容の希望を調査した結果、「『仕事』を優先したい」と答えたのは男性で1割程度、女性は1割以下です。「『家庭生活』を優先したい」が男女ともに3~4割を占めるなど、WLBを重視する回答が大半である中、「残業はして当たり前」というスタンスを続けては、望まない働き方を強いられていることに多くの社員は不満を持ち、退職にも繋がりかねません。

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20~30代の若手社員に絞り、さらにデータを見ていきましょう。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が、20~33歳の正社員経験者に、初めての正社員勤務先を退職した理由を調査したところ、男性29.2%、女性27.1%と男女共通で多かったのが「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」でした。また、「肉体的・精神的に健康を損ねた」も男女ともに3割弱程度で、慢性的な残業や休みがとりづらいといった働き方の改善は、若手社員の離職防止にも繋がるでしょう。

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◇中途・新卒採用で、競合他社に後れを取る可能性も

残業や休日・休暇をはじめとした働き方は、社員の定着だけでなく、採用力にも影響します。先のデータで見たように、退職理由にWLB関連が挙げられているということは、次の仕事探しでも、その点が重視されている、ということです。また、中途だけではなく、新卒の学生もWLBは注視しており、リクルートワークス研究所によると、学生の就職先選びの基準として「休日・休暇がしっかり取れる」を「極めて重視する」と答えた学生は31.7%、「重視する」が48.4%で、合計80.1%に上ります。

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こうした個人の意識の高まりや、政府による働き方改革の要請を受けて、企業側でも変化が起きています。その一例として、厚生労働省が毎年実施する就労条件総合調査によると、1企業の平均年間休日総数は2011年の106.1日から、10年が経った2021年には110.5日まで増加しています。また、年間休日総数が120日以上の企業割合が25.4%から33.3%まで増加したうえ、99日以下は25.0%から15.8%まで減少するなど、休日数を増やすための企業努力が見て取れます。

 

このような社会の変化の中で、働き方に配慮しない職場づくりを続けてしまっては、人を採用できない、採用しても長続きしない、という選ばれない会社になってしまうかもしれません。また、「働き方改革が必要なことは分かっているが、それだと仕事が回らない」と先延ばしにしては、今いる社員へのしわ寄せが生じ、長時間労働や業務負荷の増加といった悪循環に陥ってしまいます。

すぐに大きな変化を起こせなくても、今の仕事の無駄をなくす、業務の仕組化を進めるなど、まずは身近なところから業務効率化に取り組むことで、より働きやすい職場づくりを進めてはいかがでしょうか。