採用の知恵袋

2022年08月22日

#シニア#正社員#育成・定着

採用の知恵袋 2022年8月号 ―「学ばない50代?」会社ができる支援とは―

少子高齢化による労働力人口の減少や、急速かつ複雑な産業構造の変化が起きている日本において、今いる社員にいかにスキルアップを図りながら働いてもらうかは、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。特に、経験もスキルも一定量兼ね備えているベテラン社員に、より一層学びを深めてもらうにはどうしたら良いでしょうか。
「採用の知恵袋」は、ジョブズリサーチセンターが調査研究を通して得た採用に関する知見をもとに、企業から寄せられる質問に回答します。今回はセンター長の宇佐川が答えます。

Q.

社員の学びについて質問です。弊社では、社内研修・OJTは全員参加必須とし、社外研修・OFF-JTについては強制でなく手挙げ式としているのですが、特に50代以上の参加者が非常に少ないです。自ら学びに参加してもらうには、どうしたら良いでしょうか。
(中国四国エリア/製造業)

A.

自ら学びに参加してもらうためには、まず「学ぶ必要性」を感じてもらうことが重要です。社会人初期の20代と比較して、できることも増え、人に教える立場になったベテラン社員の中には、新しく学ぶ必要を感じていない人も多くいることでしょう。会社としてできる支援は、「もっと学んでほしい」だけではなく、「なぜ学ぶ必要性があるのか」という点について、理解してもらうことではないでしょうか。そのために、ベテラン社員の今後のキャリアについて、一緒に考えていくことも一つの方法です。

解説

◇学ぶ必要性を感じている人は、50代でも学んでいる

50代は学ばないのでしょうか。厚生労働省が行った令和2年度能力開発基本調査によると、「あなたは自己啓発*を行いましたか」という質問に対して、「行った」と答えたのは正社員全体で41.4%、年齢別に見ると、「20~29歳」の46.7%をピークに、年齢が上がるほど下がっています。
*労働者が職業生活を継続するために行う職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動(職業に関係ない趣味、娯楽、スポーツ健康増進等のためのものは含まない)。

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▲自己啓発を行った者(正社員) 
出典:厚生労働省「令和2年度能力開発基本調査」よりジョブズリサーチセンターが作成

しかし、20代30代の約4割と比較して、50代でも4割近くと大きな差はないとも言えます。また、同調査では自己啓発を行った理由についても質問しており、「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」と答えた人は全ての年代において8割程度と大きく変わらないのに対して、「将来の仕事やキャリアアップに備えて」自己啓発を行っている人は年代が上がるにつれて減少しており、自己啓発を行う目的は年代ごとに差がありそうです。

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▲自己啓発を行った理由(複数回答/正社員)
出典:厚生労働省「令和2年度能力開発基本調査」よりジョブズリサーチセンターが作成
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▲上位2つを年代別に示したもの(複数回答/正社員)
出典:厚生労働省「令和2年度能力開発基本調査」よりジョブズリサーチセンターが作成

◇「学ばない50代」と「学ぶ必要性」を会話しましょう

「これから社会人生活が始まる20代」と、「もう少しで定年退職を迎えようとしている50代」では、学びに対してのポテンシャルや本人の意欲は大きく異なります。50歳で「あと10年で定年退職」と思っていた時代から、定年の延長や年金支給率の引き下げなど、職業人生は今まさに延びています。「あと10年」から15年、20年、それ以上に延長する可能性があるにもかかわらず、今後のキャリアを描くのが難しく、学ぶ必要性も感じられず、社外研修・ OFF-JTへの参加意欲も下がっているのではないでしょうか。つまり、今後の職業人生において、まだまだ学ぶ必要性があることを感じてもらうことが、学んでもらうための前提として必要となります。

もし「ベテランなんだから、学ぶ必要性くらい自分で考えてほしい」と思われたら、それは少し乱暴です。年齢にかかわらず、今後のキャリアについて1人で考えるのはとても難しく、本人と会社もしくは外部の機関などに協力を得ながら一緒に考えていくことが求められるでしょう。ベテラン社員に、昨今の産業構造の変化や技術の進化を理解してもらい、そのために会社としてどういう方向に向かおうとしているのか、そこにベテラン社員にどのような役割を期待しているのか、まずは彼ら彼女らに、会社を引っ張ってくれることを期待していると伝えることも大切な要素です。それを踏まえて、本人の価値観や意欲・今後の働き方の希望(もっと専門性を高めたい、育成をしたい、給料は下がっても良いから少し緩やかに働きたい、など)ともすり合わせ、必要なスキルや知識について話すと良いでしょう。

 

今回は、「50代社員の学び」をテーマにお話をしましたが、決して50代に限定した話ではありません。定年70歳、もしくは定年撤廃もあり得る中で、「シニア」「ミドルシニア」のキャリア形成は一層重要になってきます。もちろん、職業人生を会社に任せっきりにするのもいけませんが、「ベテラン社員にどうなってほしいか」という「会社の意思」を伝え、すり合わせることも重要です。

(協力:岡山中小企業団体中央会