人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2019年05月22日

#人材不足#育成・定着#運輸業

「働き方改革」を機械導入で実現、残業時間の減少+αの職場

株式会社ケイ・エム・ピー センター長の平松さんと契約社員の森純子さん

今回クローズアップする人材活用の事例は「ケイ・エム・ピー」

福岡に拠点を置き、主に封入封緘、発送サービスなどを手掛ける物流加工会社「ケイ・エム・ピー」。これまで抱えていた残業過多の課題を、独自の機械導入により大幅に軽減。いち早く「働き方改革」に着手し、残業減少以外にも多くのメリットを生んでいました。

  • ● 社名/株式会社ケイ・エム・ピー
  • ● 創業/2001年(平成13年)5月16日
  • ● 本社所在地/〒811-1122 福岡県福岡市早良区百道浜2-1-22福岡SRPセンタービル604
  • ● 資本金/1500万円

人材育成にかける時間が残業を生む。悪循環を解消するために

パート、短時間勤務の契約社員を中心とする常駐スタッフに加え、随時50人近くの派遣スタッフが働くケイ・エム・ピー。仕事が増え人員を確保すればするほど、残業時間が長引くというジレンマを抱えていました。その背景についてセンター長の平松さんは「しばしば入れ替わる派遣スタッフの育成を、常駐スタッフがマンツーマンで指導していたため、溜まった本来の作業が後回しになり残業時間がなかなか減らないという状況が続いていました」と語ります。解決策として社長から「作業を機械化してはどうか」という案を受け、独自の機械を開発することになったのです。

センター長の平松さん
センター長の平松さん

こだわったのは生活家電のように誰もが使える機械

開発にあたり、平松さんが一番こだわったのは「生活家電のように誰にでも使いやすい」操作性でした。設定条件が一目でわかる液晶タッチパネル画面、接合部分はネジの代わりに磁石を採用。作業手順はランプの点灯で知らせる、作業内容が変わる際は音で注意喚起を促すなど、「機械に不慣れな高齢のスタッフ、初めて機械に触れるスタッフでも、スムーズに使える機械」が完成したのです。
平松さんは機械設計の経験や豊富な専門知識があったわけではないため、「生活家電」をイメージしながら細かい操作性を何度も何度も機械メーカーと相談し検証したそうです。

「これで残業時間が減らせる!」と喜んだのもつかの間、「最初はうまく稼働しなかったんです」と平松さん。スタッフは「こんな機械だったら、手作業でやるほうがましだ」と冷めた反応。機械メーカーの方が常駐し、夜間に修正に対応。出社すると「直しておきました!」の声が。そんなやりとりが続くうち、スタッフからも「ここはこうしたほうが…」と自発的に機械に歩み寄る姿勢が見られるようになりました。二人三脚で問題を解決し、ようやく軌道に乗ったのは半年後。「時間はかかりましたが、このときの経験が今の安定稼働に繋がっていると思います」。

機械を使っての作業風景
作業手順はランプで確認。使いやすく工夫を凝らした機械を使っての作業風景

人材育成のスピードが大幅に向上、残業時間も減少へ

機械の導入には開発や安定稼働までの時間以外にも費用の投資も大きいため、躊躇する企業も少なくないのではないでしょうか。「どこまで機械に求めるか、とても難しかったですね」と平松さんもいいます。同社では封入封緘、郵便区分仕分けなどの単純作業は機械で、商品の仕分け、ピッキング、複雑さを要する作業はスタッフによる手作業と、機械と人の手による仕事を棲み分けました。
「これまではスタッフが各自の裁量で作業を進めていた仕事ですが、機械の設計に伴いプロセスや役割分担を明確にしたことで、手順の共有化を図ることができました。
その結果、作業も育成も以前に比べ、格段に簡素化したため、1~2週間程度かかっていた指導時間は3日程度に短縮。残業時間も平均1~2時間に改善することができました」。

残業時間の減少以外にも変化はあったといいます。
「まず、作業の細分化によって、人員の調整がしやすくなり、新たな短時間勤務者の雇用に繋げることができました。さらに、以前は1時間あたり1800通程度作成できていたのが今は約3000通と2倍近くに倍増と生産性もアップしました」。

業務手順に沿って作業を行うスタッフの様子
一人ひとりのスタッフの業務手順、役割が明確化

トレーサビリティの確保で、月70件のクレームが1件に

「働き方改革」で残業時間の減少は大きなテーマのひとつですが、その先にあるのは一人ひとりがいきいきと働けることです。同社でも今回の取り組みにより得られた大きな効果がありました。クレーム発生、対応にかかる精神的負荷の軽減です。同社では通信販売の商品封入などをしており、一人ひとりのお客様に応じた数種類の封入物があり、その作業は煩雑でした。
「人の手による作業だと、どうしても封入物の内容が違う、不足する等のミスが発生してしまいます。原因究明に無駄な時間を費やしたり、帰宅したスタッフに電話をかけて確認したりすることもありました。事実確認のための画像を残そうと工場内にカメラを設置し、トレーサビリティをとるようにしたのです。封入物のミスは機械で重さを図ることで解決。結果、それまで月70件程度あったクレーム数は月1件程度に激減し、スタッフも私も余計なストレスから解放されました(笑) 」。

記録用カメラの録画風景
記録用カメラの録画風景。履歴を残しクライアントへのクレーム対応に活用。

残業できない後ろめたさから解放。職場に笑顔が生まれた

もともとは残業時間の減少を目的に機械化をすすめてきた取り組みに対し、スタッフはどう感じているのでしょうか。短時間勤務の契約社員として働く、森純子さん(38歳)に伺いました。
「私は週6日、10時から16時45分までの短時間勤務で、主に機械に資材を流す前のピッキング業務を担当しています。私の場合、子どものお迎えがあり残業ができないため、常に後ろめたい気持ちがありました。帰宅後も心配で会社に電話したり、子どもを実家に預けてまた職場に戻ったことも。機械導入後は残業が減ったので、精神的な負担はほぼ無くなりました。また、作業の効率化で、時間と心に余裕が生まれたせいか、職場でのコミュニケーションが活発になりましたね。笑顔が増え、社内の雰囲気が良くなりました」と森さん。

機械導入により生産性も向上したため、導入前よりも派遣スタッフの人数が減り、育成にかかる時間も減ったため、自分が担当する業務をもっと効率よくしたいと考えられるようになったともいいます。
「実はもともと結婚前に派遣スタッフとして働いていたことがあるんです。その時から職場のコミュニケーションは良くて、改善してほしいことを正直に伝えるときちんと対応してくれます。機械導入した時も最初は戸惑いもあったのですが、皆で『もっとこうしたほうがいい』など話し合いながら改善を重ねられたのが良かったのかなと思います」。

スタッフ間でコミュニケーションをする森純子さん
機械の導入で作業プロセスが統一され、スタッフ間での共有もスムーズに

働き方改革でさらにコミュニケーションが活性化する働きやすい職場へ

機械導入による残業時間の減少は森さんのような子育て中のスタッフはもちろん、全スタッフの働き方を変えました。また、クレーム発生・対応にかかる精神的負荷も軽減でき、平松さんは「スタッフを守ることができるようになった」といいます。現在多くの企業が取り組む「働き方改革」では、残業時間の削減や有給休暇の取得について、その手法に注目が集まりますが、同社の取り組みから学ぶのは「残業時間の減少により、どのように働き、どのような職場にしたいのか」をきちんとイメージして取り組むことが大事であるということです。
残業をなくし帰宅後も仕事の心配をさせたくない、お客様に迷惑がかかるようなミスはしない、スタッフを守りたい、スタッフ同士が笑顔でコミュニケーションする職場でありつづけたい、取材を通して平松さんから何度も聞いたフレーズです。皆さんの職場で「働き方改革」を実行する際にも、これらの視点はヒントとなるでしょう。

「ケイ・エム・ピー」の事例から学ぶ活用のポイント

誰もが使いやすい機械の開発
誰でも使える「生活家電」を基準に開発し、作業や人材育成に費やす時間を短縮。
トレーサビリティで精神的負担を軽減
クレームがあった際の証拠提示。スタッフの心理的負担と解決に要する時間を軽減。
スタッフ目線で働きやすい環境づくり
子どもの病気など、短時間勤務者のライフスタイルに柔軟に対応できる社内環境