人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2019年12月09日

#女性・主婦#小売業#正社員

産後も職場復帰した女性の「働きたい」に挑戦の機会とバックアップ

株式会社ウィゴー 2人のお子さんを育てながら働く加藤さん

今回クローズアップする人材活用の事例は「ウィゴー」

女性の社会進出が進み、出産後も働き続けたいと望む女性は増加傾向にあります。子育て中は働く時間に制約ができてしまうことも多いため、雇用する側にも柔軟な働き方への対応が求められます。特に土日や夜間も店舗運営するサービス業などの現場では、時間制約があるママ従業員への対応に課題を抱えているところも少なくないでしょう。今回は、アパレルショップなど191店舗(2018年2月現在)を運営する「株式会社ウィゴー」の中でも、全国的に珍しいママ店長についてWEGO錦糸町パルコ店に伺い、店舗運営をどう工夫されているのか取材しました。

  • ● 社名/株式会社ウィゴー
  • ● 創業/1994年8月
  • ● 本社所在地/〒150-0022東京都渋谷区恵比寿南1-16-3
  • ● 資本金/1億円

1人目の妊娠時、育児と仕事を両立して働き続けることのイメージができなかった

5歳と3歳になる2人のお子さんを育てながら働く加藤さん(28歳)は、今年9月にアパレルショップ「WEGO」錦糸町パルコ店の店長に就任しました。店長になってから3ヶ月、在籍する10人のスタッフとともに日々奮闘しています。アルバイト時代を含めWEGOでは6年ほど働いているそうですが、店長に就任するまでには自身のライフスタイルにも大きな変化があったといいます。

WEGO錦糸町パルコ店 外観写真
WEGO錦糸町パルコ店。小学生や中高生といった若年層の顧客も多い。

店長として10人のスタッフを束ねる加藤さん
店長として10人のスタッフを束ねる加藤さん。

『上の子を妊娠中はアルバイト店員として働いていましたが、出産前に一度退職しています。出産後、子供が1歳になってまた仕事しようかなというタイミングで近所にWEGOの新店ができ、しかも以前働いていた店の方が店長になるということで、もう一度働かないかと声をかけてもらい、復帰することにしました』。

復職を決めたときは、周囲に子育てをしながらアパレルで働いている人がいなかったため、自分も長くは続けられないと思っていたそうです。生活のために「とりあえずもう一度アパレルで働く」ことを決めた加藤さんですが、働き始めてすぐにその心境に変化がありました。

『当時、職場には子育てをしながら働いている人は私以外にいなかったのですが、店長も上司も同僚のスタッフも、みんな私の立場を理解してくれました。短い時間しか勤務できないので、シフトの組み方を配慮してもらったこともそうですが、業務においても変に特別扱いせず、みんな自然に接してくれました。そのような環境で働けていたので、このまま働き続けていけそうだと感じることができました』。

周囲の理解とサポートもあり、働き続けることを決意した加藤さん。復帰から1年ほど経った頃、第2子の妊娠が判明。この頃は子育てしながらでも働けるという自信がついていたので、2人目の出産後は迷わず働き続ける道を選ぶことができたそうです。さらに復帰後は正社員としてもっと活躍したいという思いもあったので、その意思を上司に伝え産休を取得し、復帰後は晴れて正社員としての勤務がスタートしました。アルバイト時代と比較すると週3日から5日に勤務日数が増えたため、子供と過ごす時間が減ってしまい当初は寂しい思いもしたそうですが、休日に子供と一緒に過ごす時間がより大切に感じることができるようになったといいます。そして、ママ店長になるターニングポイントを迎えます。

信頼できる仲間や上司がいたから、店長職に挑戦できた

『社員として2年ほど働いていたとき、副店長になりました。それと同時に、上司から今後どのように働きたいかと聞かれました。それをきっかけに、“このまま副店長として働き続けるだけでいいのか”という思いが芽生えてきました。私がこのポストにとどまっていることで、後輩のステップアップの妨げになってしまうかもしれませんし、私自身せっかく正社員で働かせてもらっていてチャンスがあるのだから、店長に挑戦したほうがいいのではないかと思いました』。

そのことを上司であるエリアマネジャーの菅野さんに相談したところ、すぐに人事部と連携。とんとん拍子に話が進み、副店長になってから5ヶ月で錦糸町パルコ店の店長に就任することが決まりました。ところが、店長に就任してみると、理想の働き方ができなくなってしまったそうです。

『店長になりたての頃は、週の半分以上閉店までのシフトに入らなければいけない状況でした。子供と過ごす時間がまったく取れなくなってしまい、せっかく店長になれたけどこのままだと続けられないと思ったので、すぐに菅野さんに相談しました。すると1ヶ月程度で関係部署と調整、男性社員を1名配置していただき、遅番勤務は週2日に減りました。辛い状況をすぐに解消してくれて、本当にいい上司に恵まれたなと感じます』。

ママ店長の起用は手探りの状態でスタート

都内5店舗を統括する菅野さんにとっても、子育て中の女性従業員を店長に起用するのはエリア初の試みだったため、今の体制が確立するまでには紆余曲折があったと話します。

『錦糸町パルコ店に着任してもらう前から、店舗では加藤さんの受け入れ態勢を整えてきました。まずスタッフには、採用する時点でシフトは店長の希望が優先されることを伝え、納得したうえで働いてもらいました。勤務体制についても、トラブルが起こることを予測して採用人数とシフト組みを調整していましたが、実際にスタートさせてみるとなかなかうまく店舗が運営できませんでした。現在は男性社員を1名配置したことでなんとか落ち着きましたが、ここに至るまでには5回くらい試行錯誤がありました』。

5店舗を統括するエリアマネジャーの菅野さん
5店舗を統括するエリアマネジャーの菅野さん。現場の声を吸い上げ、本部へエスカレーションする。

現在は人員に関してはほぼベストな状態だということですが、加藤さんにはお子さんが2人いるため、緊急の休み対応は課題として残っているそうです。
『今後は他の店舗にも主婦やママ従業員が増えることが予想されます。そういったときに、例えば派遣スタッフ含め、2、3時間だけ勤務できる働き方など、緊急事態にも対応できる店舗運営が必要になってくるでしょう』。

主婦やママならではの視点で売り上げに貢献

菅野さんが管轄するエリアでは、『女性の活躍』をマネジャーに就任した2年前からエリアのテーマとして掲げています。主婦や子育て中の女性が働くメリットを、菅野さんはこう話します。

『日頃から育児・家事・仕事のマルチタスクをこなしているので、業務においても「この時間までにこの売り上げをあげるためにはこの人員を割いてここまで仕上げる」というように、細かくタイムスケジュールを考えて行動してくれています。接客においても、小学生のお客様でも手に取りやすいようにお菓子などの商品はカゴに入れて陳列したり、お子様と一緒にご来店になった親御さんが休憩できるよう椅子を設置したりと、子供目線・親目線の心遣いはさすがだなと感心させられます。主婦やママ従業員の売り上げへの貢献度は非常に大きいです』。

このように、すでに同社にとってなくてはならない戦力となっている主婦やママ従業員ですが、会社全体では圧倒的に男性の方が多く、アルバイトを除く社員500人のうち、ママ従業員はわずか38人だけだそうです。今後さらに女性社員が活躍するための方策を伺いました。

『ロールモデルが少ないということもあり、“どのようなフォローを必要としているか”がまだ手探り状態です。今後は主婦歴や子育て経験のある社員が窓口となって、育児と仕事を両立するための相談所のような役割が必要になってくるでしょう』。

また、女性が働きやすい制度を整えていくとともに、社内新聞などを活用し、加藤さんをはじめとした子育てと両立しながら働く社員の声を全社に届けられる社内体制を強化していきたいと考えているとのことです。

ママ店長のパイオニアとして、後輩に道を示したい

最後に、加藤さんにママ店長としての今後の目標を伺いました。

『上の子を妊娠した時は、子育てをしながら仕事を続けることがイメージできなかったので、一度退職してしまいました。でも、これから結婚・出産を経験する後輩には、子供がいても働き続けられる。私みたいな働き方もできるということを知ってもらい、本当は働きたいけど仕方なく退職してしまう人をゼロにしたいです。私を温かく迎え入れてくれた上司やスタッフのように、私も色々な事情を抱えるスタッフに対して本人の気持ちに寄り添って、みんなが気持ちよく働ける職場を作っていきたいです』。

インタビューに応える加藤さん
同僚や上司、周囲の人に恵まれていたと語る加藤さん。「自分が優しくしてもらったように、他人を思いやれる人でありたい」と語る。

創業から25年、顧客と同じ若年層のスタッフが多いアパレル業界ですが、結婚や出産を経験し、子育てと両立しながら働く女性社員の活躍による成果を同社は確実に感じています。女性の活躍を後押しする社内制度が十分に整うまでにはまだまだ乗り越えるべき課題は多いとしつつも、現場のスタッフ・社員・マネジャーが一丸となって、誰もが働きやすい職場づくりに取り組む企業風土がありました。
ジョブズリサーチセンターが実施した調査*では、子供がいる女性4,631人のうち、42.9%が「子供ができた後に退職」していました。ただ、24.3%は「子供ができた後に退職、その後転職」している状況もあり、子育て中の女性が働きやすい職場が選ばれている現状がうかがえます。一度離職を経験し、職場復帰した女性でも一人ひとりの「働きたい」気持ちは異なります。時間制約を乗り越えて、前例がないママ店長を務める加藤さんに挑戦の機会提供とあわせて働き続けられるためのバックアップを惜しまない同社。今後も女性のライフステージに寄り添った体制を今後どのように作り上げていくのか、その取り組みと成長に期待が高まります。

*(株)リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター、「主婦の就業に関する1万人調査」、2019年
「出産・育児と職業について、あなたの状況に近いものをひとつお選びください」に対する回答
https://jbrc.recruitjobs.co.jp/data/data20190404_1116.html