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2026年04月27日

#採用#正社員

求職者の評価は何で決まるのか -ジョブマッチングに関する実証分析②-  

人手不足が深刻化する一方、労働市場では依然としてミスマッチが生じている。この状況下では、移動の量に注目するだけでなく、移動を規定する評価構造を明らかにすることが重要である。本稿では、ITエンジニア職1における求職者評価の予測可能範囲と決定要因を統計的に検証し、ジョブマッチングの構造的理解を深める。

本研究シリーズは、労働移動の健全性を高めることを目的に、人材紹介サービス『リクルートエージェント』のデータを活用し、ブラックボックスとされてきたジョブマッチングの過程の可視化と実証的知見の提示に取り組むものである。その中で本稿が扱うテーマは企業による「求職者の評価」である。

近年のミスマッチ拡大の背景には、企業が求める要件と求職者の条件の間に構造的な不一致があることが指摘されている2。その主な要因の一つとして、求職者個人に内在する人的資本と企業ニーズのミスマッチがあることは以前から指摘されてきた3。従って、企業がどの要素をどのように評価しているのかを明らかにすることは重要である。評価構造を可視化することで、政府にとってはリスキリング政策設計の示唆となり、個人にとっては学び直しの優先順位を判断する手がかりに、企業にとっては採用要件や選考基準の妥当性を再検討する材料となり得る。

本研究は、あくまで『リクルートエージェント』に蓄積されたデータにのみ基づいた分析であることに留意が必要であるが、民間職業紹介を通じた求人が増えている状況4を踏まえれば、これらのデータを用いた実証分析は現代の労働移動を理解する上で意義があると考えている。


1『リクルートエージェント』に登録されている職種のうち「SE」「インターネット専門職(Webエンジニア含)」「組込・制御ソフトウエア開発エンジニア」をまとめてITエンジニア職とした
2 内閣府(2025)『令和7年度 年次経済財政報告』第2章第3節, P259-260
3 阿部正浩ほか(1999)「スキル・ミスマッチとスペック・ミスマッチ―ジョブ・マッチングに関する実証研究」『Works』 No.36, P24
4 内閣府(2025), P260-261. 正社員およびパート・アルバイトのいずれにおいても、2018年以降は民間職業紹介経由の求人の伸びがハローワーク経由を上回る推移が確認される

調査ダイジェスト

目的

企業による求職者の評価が、観測可能な定量データによってどの程度説明可能であるのかを明らかにするとともに、評価に対して影響の大きい要素を特定し、評価メカニズムをより定量的かつ具体的に解明することを目的とする。

分析方法

ITエンジニア職求人への応募データを用い、評価を「内定」と定義し、「従来のスキル・属性情報」と職務経験を示す「スキルキーワード」を説明変数として、プロビットモデルによる二段階の実証分析を行った。第一に、擬似決定係数を用いて、観測可能な情報によって予測内定確率がどの程度説明できるかを検証した(実証分析①)。第二に、応募全体および年齢階層・職種一致/不一致別の層別で分析を行い、どの要素がどの程度評価に統計的に関連しているかを特定した(実証分析②)。

結果

実証分析①の結果、「従来のスキル・属性情報」に加えて「スキルキーワード」を追加することでモデルの説明力は段階的に改善した。特に、内定との関連が強い「スキルキーワード」を事前に抽出し、それらを用いたモデルを構築したところ、擬似決定係数が最も高い結果となった。これらの結果は、企業ニーズに即した形で言語化されたスキルや経験が、内定の説明力を高める可能性を示唆している。一方、擬似決定係数は最大で0.0537にとどまり、評価の多くは「余白」に含まれる要素によって形成されている可能性が示された。

実証分析②では、求職者に対する評価は専門性を中心として形成される一方、その評価軸はキャリア段階や求人との関係性の中で変化する構造を持つ可能性が示された。全体として職種一致やシステム開発に関わる基盤的なスキルの影響が大きく、これらが評価の中心にあることが示唆された。また、提案や導入支援など上流工程への関与経験も評価に関連していた。キャリア段階別に見ると、若年層では影響の大きい要素が少なく、ポテンシャルなど「余白」の影響が相対的に大きい柔軟な評価構造が見られた。25~49歳では評価要素が多様化し専門性が拡張する。50歳以上では影響の大きい要素は再び限定される一方、擬似決定係数は上昇し、求人要件との適合性が評価の中心となる可能性が確認された。すなわち、求職者評価は若年層では柔軟であり、ミドル層では専門性の拡張とともに評価要素が多様化し、シニア層では求人と適合した限られた要素を中心とする構造へと移行する可能性が示唆された。

調査結果の詳細はこちらのPDFをご覧ください
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