座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」
2022年05月10日
就職氷河期世代の就職支援最前線、コロナ禍で再構築される支援や関わり方
座談会の概要
この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
12回目となる今回のテーマは「就職氷河期世代の就職支援」です。就職氷河期世代とは主にバブル崩壊後の1990年~2000年代前半の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った世代のこと*で、各方面でその世代に対する就職支援が展開されています。今回はジョブズリサーチセンターとともに調査を実施したNPO法人育て上げネットの工藤理事長と伊野氏とともに、取り組み内容や調査結果を振り返りつつ、今後必要になるであろう支援や求職者との関わり方についてお話を聞きました。
*参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/shushoku_hyogaki_shien/
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工藤 啓(くどう けい)
認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長1977年、東京生まれ。米ベルビュー・コミュニティー・カレッジ卒業。2001年に任意団体「育て上げネット」を設立。2004年にNPO法人化し、理事長に就任、現在に至る。著書に『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(共著・朝日新書)など。金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員、「一億総活躍国民会議」委員等を歴任。
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伊野 滉司(いの こうじ)
認定特定非営利活動法人 育て上げネット 社会連携事業プロジェクトマネージャー1992年、埼玉県生まれ。東洋大学社会学部を卒業。新卒で一般企業に入社、住居を起点とした街づくりに取り組む。2020年より育て上げネットに入職。主に企業のCSR事業に関わり、若者の就労支援に携わる。2022年より新規事業である社会連携事業のプロジェクトマネージャーに着任。企業連携の他、全国の支援拠点や行政との連携を進めている。
就職氷河期世代も多様、属性や不安内容などにより支援も変わる
宇佐川:育て上げネットでは就職氷河期世代に向けた支援プログラムを提供されています。特に2020年からは3年間、内閣府で集中支援プログラムが展開されており、社会的にも関心が高まっているように思います。様々な求職者や企業も知る工藤さんや伊野さんからみて「もっとこうしたほうが就職氷河期世代の就職につながるのでは」と思われることはありますか。
伊野:そうですね。支援プログラムでは資格取得やスキル向上といったものが多いですが、育て上げネットにいらっしゃる方々のなかには、履歴書の書き方に不安があったり、オンライン面接でもカジュアルな服装で参加しちゃったり…とスキル以外で不安を抱く方もいました。これまで面接の機会が少なかった方は基本的なマナーが十分でないケースもあり、そういった意味で資格取得支援やスキルアップだけではなく、同時進行でマナーやコミュニケーション時の注意点などを学び、身につける機会があると、より就職につながるのではと感じることもありました。
宇佐川:確かに面接は人によっては人生で2回目とか、10年ぶりとか、オンライン面接は初めて、と経験歴は様々ですよね。多ければマナーが身についているというわけではないですが、基本的な流れや注意したほうがいいマナーはスキルとは別に大事なことですよね。
工藤さんはいかがでしょうか。
工藤:研修や講座では資格や目標で参加者が分かれることがあるのですが、それだけではなくもうひとつ軸を掛け合わせ、もう少し細かくグルーピングできたほうが適切な伴走支援ができたのではないかと思いました。
研修参加者には子育て中の女性や家族の介護をされている方、障がいを持つ方もいらっしゃったのですが、それぞれの生活環境や抱える不安が異なるのでそういった点も加味してクラス分けできれば良かったのではと。コロナ禍のなかで十分な準備期間が取れなかったこともありますが、もっと設計段階からできたかなとは思います。
宇佐川:就職氷河期世代の多様性に対応した支援が求められるということですね。他に就職氷河期世代の支援をされるなかで気づきはありますか。
工藤:昨年ジョブズリサーチセンターと一緒に調査を実施した際の就職氷河期世代対象者はIT研修を受講し、IT関連業への就職を目指す方々でした。接しているとゴールが明確だからか、学ぶモチベーションも活動意欲も高いように感じました。公務員などの安定した職業や成長企業への就職など、ここでもう一度チャンスをつかみたい気持ち、ゴールが明確にあることが頑張るモチベーションにも繋がるのではないでしょうか。
宇佐川:リカレント、リスキリングでも同じことが言えますね!
一人ひとりにあう伴走支援と明確なゴール設定が多様な就職氷河期世代の支援で大事ですね。
オンラインで最初の一歩を踏み出し、自分に必要な活動を見つけられるように
宇佐川:さきほど一緒に実施した調査の話が出たので、そこでの気づきをもう少し教えていただければと思うのですが、就職氷河期世代が仕事探しする際に希望する支援について聞くと「キャリアカウンセリング」や「就業体験」というのも半数以上の方が希望されています。このあたりの実感や他にもあるのでは?といったことはありますか。
工藤:問い合わせで研修やキャリアカウンセリングで「すべて対面でできますか?」と希望される方がいます。コロナ禍でオンライン実施の研修やセミナーが多いですが、やはり対面を希望される方も一定数いますので、その点は状況をみながらになりますが、多様な選択肢を提示していきたいです。
宇佐川:私たちの会議でも内容やメンバーにより、オンラインではなく対面がいいかなと思うときは確かにあります。
工藤:ただ、オンラインの方がもっと色々工夫できるのでは?と思うこともあります。たとえば、私たちが実施するセミナーのなかでグループワークを実施する際、ご自身のことを話すからか事前告知すると嫌がる方もいらっしゃいます。でも、グループダイナミクスで気づきや得られることがあるので、事後の満足度は高いんですよね。おそらく、「工藤さんはこんな人」のように対面で思われることが嫌なのかなと思いますが、オンラインだとそれが軽減されることがあると思います。
宇佐川:あー、それとてもわかります。オンラインならカメラオフもできるし、なんなら匿名で参加もできますよね。みんなキャラクターになりきって、架空設定で参加したっていいじゃないですか。同じ不安や悩みを抱える仲間で話し合う場づくりができれば、オンラインで匿名参加でもいいですよね。
工藤:それができると、オンライン実施のほうが参加のハードルは下がりますよね。先日うちのメンバーがこういうものを提案してきたんです。(下記画像)
宇佐川:すごくいい!
工藤:オンライン相談ならではの発想ですよね。布団から出なくてもスマホさえあれば、私たちと話せますのでまずは参加してください、というものです。先ほどの話にもつながりますが、就職氷河期世代といっても多様で、子育てのすき間時間なら参加できる、家族の介護をしているが夜なら参加できる、とか色々あるので今後はそのようにもっと細分化して支援伴走できたらと思っています。
宇佐川:「私のこと?」と思っていただき、まずは一歩を踏み出してもらう、そこから自分に必要な活動やどうなりたいかを考えるということですね。
最後に、工藤さんからもっと育て上げネットとして取り組みたいということがあれば教えていただけますか。
工藤:はい、今回の就職氷河期世代の方々のみならず、他にも育て上げネットが支援している若者や子どもたち、また同じ領域で活動するNPOがたくさんあります。ただ、私たちは「支援すること」が専門なので、その方々の情報や私たちが持ちうるデータが社会にどう活かせるかというのがまだまだできていない部分だと感じています。昨年ジョブズリサーチセンターと一緒に調査したように、私たちが持ちうる情報やデータがもっと社会に役立つように、今後はそういった観点も大事にして、リクルートのみなさま、行政や大学、調査研究機関などとも連携していきたいです。
今回は就職氷河期世代への就職支援についてお話を聞きました。企業採用担当者の皆さまは「この応募者は就職氷河期世代か」と確認することはほぼないと思いますが、「なぜ正社員の経験が一度もないのだろう」「この空白期間は何をしていたんだろう」と思うことはひょっとしたらご経験があるかもしれません。応募者も「私は就職氷河期世代で新卒の就職活動で思うようにいかず…」と面接で話しはじめることは稀でしょう。つまり、政府や私たちもここでは就職氷河期世代と称して話していますが、実際の採用活動場面ではわからないことの方が多い。皆さまには色眼鏡なしに選考していただきたいですが、ひとつだけ申し上げることができるなら「当社で働くためにどのような努力をしてきたか」はぜひ問うてください。就職氷河期世代のなかには長い時間をかけて漠然とした不安を抱きながら、支援くださる方々との会話を通して、自分の働き方、仕事への姿勢をしっかり築き上げている方がいるように感じます。
文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)