インタビュー

2026年08月04日

#人材不足#学生・若年層#採用

複数企業、行政と連携したインターンシップ「パッケージ型仕事研究」 鳥取県内の就業×宿泊体験による、地域で働く魅力発信の取り組み

       

鳥取県内の産官学が連携して進める「とっとりインターンシップ」。2022年からスタートした「パッケージ型仕事研究」では、テーマごとに複数の企業や行政機関が合同でプログラムを開催し、実際に地域で暮らす宿泊体験も提供しています。
県独自の就業体験として「パッケージ型仕事研究」を実施した背景や思い、その成果について、企画・運用を担う、鳥取県中小企業団体中央会とっとりインターンシップ推進事業の専任コーディネーター、谷口昭文さんに話を伺いました。

大切なのは培ってきた技術力。世界有数のセンサーを支えるシニアの力

鳥取県中小企業団体中央会
とっとりインターンシップ推進事業
コーディネーター
谷口昭文 さん

県外の家電メーカーで設計職などに従事していたが、鳥取県出身であることから、将来は地元に貢献したいとの思いを持ち、2019年に帰郷。本インターンシッププログラムの専任コーディネーターとして活動している。
※記事は、2026年3月に取材した内容で掲載しております。

仕事と暮らしを体験。地域での生活をイメージできるプログラムを提供していく

ー初めに、鳥取県独自の就業体験を提供するインターンシッププログラム「パッケージ型仕事研究」とはどのようなプログラムなのか、概要を教えてください

2022年からスタートした取り組みで、複数の企業や自治体などの行政機関が連携したインターンシッププログラムです。25年の夏には、12種類のパッケージ型プログラムを提供。それぞれのプログラムにテーマを設定し、同じ業種の複数企業で現場体験を積むプログラムや、地域で働き、実際に暮らす体験を提供する“暮らすインターン”も開催しました。

例えば、「鳥取砂丘で観光業を体験」というテーマのプログラムでは、鳥取砂丘の観光を手掛ける4つの企業・団体が連携するとともに、地元のJTB鳥取支店にも協力いただいて現地のゲストハウスに滞在する5日間のプランを提供しました。ほかにも、建築・土木業の仕事の流れを体験するプログラムでは建設会社やコンサルティング会社、市役所の建設課や地域が連携しています。鳥取県米子市というエリアに特化した「米子で行政と主要3企業体験」プログラムでは、市役所と市内のメーカーやIT企業などがタッグを組み、行政と民間企業の仕事を比較できる5日間のプログラムを作りました。

22年は参加学生16名だったところから、徐々にプログラム数の拡充や参画企業を増やし、25年夏には県内外から62人の学生が参加してくれました。

        

25年度の夏は、全12種類のパッケージ型プログラムを提供した
25年度の夏は、全12種類のパッケージ型プログラムを提供した

―そもそも、鳥取県としてインターンシッププログラムに注力された経緯や背景には何がありましたか。鳥取県中小企業団体中央会の役割や立ち位置も併せてお聞かせください

私が所属する鳥取県中小企業団体中央会(以下、中央会)は、県内の中小企業のさまざまなサポート業務を行っています。例えば、社内の制度設計をお手伝いしたり、補助金の活用事例ややり方を伝えたり、複数企業による合同セミナーの開催を手掛けたりなど、小さな組織単体ではなかなかカバーしきれない業務を一緒にやっていく役割を担っています。

その中央会が、県内企業のインターンシップの運営を担うようになったのは15年からです。鳥取県では、高校や大学卒業後に県を離れる若手が多く、若者のUターン率は20~30%と他県と比較してもとても低いんです。県としても、中長期的にUIターン人材を増やしていく施策に取り組まなければと危機感があり、その一環でインターンシッププログラムの拡充を進めていくことになりました。中央会は県内の中小企業のネットワークを有している点から、県から委託を受けてプログラムの企画・運営を担当することになりました。

―インターンシッププログラムへの注力は、もう10年前から進めているのですね。そこから、「パッケージ型仕事研究」がスタートした経緯も教えてください

当初は、1社単体のプログラムや、複数企業との合同プログラムであっても各社1日や半日だけで終わるようなワンデー・インターンシップが中心でした。でも、それは本来のインターンシップではないと、とっとりインターンシップ推進事業としても考えていて、県や大学機関からもそう指摘されることが少なからずありました。もっと実際の就業体験につながるようなプログラムにしたい、でもどんなプログラムなら実現できるのか…。なかなか解がなく、一時期、パッケージ型プログラムの実施が頓挫していました。

ブレイクスルーのきっかけは、21年に内閣府主催の「地方創生☆政策アイデアコンテスト2021」で、鳥取大学工学部の学生が立ち上げた学生団体「ツナガルドボク」が優秀賞を受賞したことでした。

「ツナガルドボク」の学生たちは、人材の県外流出と建設業の担い手不足という課題に対し、「県内就職を促すには、学生たちに暮らしも体験してもらわないと本当の魅力が伝わらない」と考え、学生と企業・地域をつなげる「暮らすインターン」を提案しました。古民家を再生したお試し住宅での宿泊体験と、地域の建設企業の就業体験を組み合わせたプログラムのアイデアは高く評価され、鳥取県としても「この取り組みを広げていきたい!」と考えました。

そうして、22年から、「ツナガルドボク」の後方支援のような形でのパッケージ型プログラムの企画が動き出しました。学生たちから「こんな企業と組みたい」と提案を受け、中央会のネットワークを生かして一緒に話をしに行き、インターンシッププログラムに参画してもらう。泥臭くコミュニケーションを重ね、22年夏には4つのパッケージ型プログラムを実施することができました。

複数業界・企業を一度で体験。各社の違いや特徴、自分の向き・不向きを比較検討できる

―当初4つだった「パッケージ型仕事研究」のプログラムは、25年夏には12まで増え、参加学生も16人から62人へと、約4倍に増えています。どのようにプログラム拡充を進めてきましたか

22年夏の初回は小規模開催ではありましたが、参加学生の満足度や参加企業からの評価が高く、とっとりインターンシップ推進事業としても手応えを感じていました。

参加学生をもっと増やすためには、市役所をはじめ、就職先として人気がある行政機関のプログラム参加は必須だと考えました。そこで、各市役所や町役場に話しに行き、「県内外の学生に、鳥取県で暮らす魅力を伝えていきましょう」と提案し賛同を得ていきました。23年夏のプログラムには倉吉市、米子市との連携が実現し、7つのパッケージ型プログラムを実施。35人の学生が参加してくれました。

その後、ほかの市役所や町役場にも賛同の輪が広がっていきました。25年夏にまたぐんと参加者が増えた背景には、それまで一部支給だった交通費宿泊費を全額支給としたことも大きかったと思います。

ちなみに、当初は「ツナガルドボク」の学生たちと考えていたプログラムでしたが、学生団体自体がなくなってしまったことや、規模が拡大するにつれ学生主導で動く範囲に限界も出てきたことから、25年夏のプログラムでは、県内大学との連携プログラムは2つにとどまっています。

―「パッケージ型仕事研究」には、「観光業を体験」「ものづくり最前線」「暮らすインターン」などさまざまなテーマが設けられています。このテーマ設定や参画企業の決定はどのように進めていますか

とっとりインターンシップ推進事業には、インターンシップの専任コーディネーターが、私を含め4人います。それぞれの役割分担は県東部・中部・西部のエリア担当制とし、プログラム設計は各コーディネーター主導で進めています。

これまでのアンケートに寄せられた学生の声などを基に、例えば「学生から人気のある観光プログラムを増やそう」と企画を立て、企業の担当者に提案することもあります。また、市役所など人気のある就職先と、人手不足を課題としている業界や企業を同じプログラムに入れることで参加希望数を増やす工夫もします。いわゆる不人気業種であっても、学生との“偶然の出合い”を生み出すことで、「意外に自分に向いているかも」「思っていたより面白そう」と思ってもらえるよう、多様な接点を増やしたいからです。

複数のプログラムが5日間以上の、宿泊体験も兼ねたものになっています。そのため、市役所や町役場の移住・定住促進を担当する部署に古民家を活用したゲストハウスや宿泊施設を用意してもらうなど、連携の範囲はどんどん広がっています。

―プログラムに参加した企業や行政の皆さんからは、どんなフィードバックがありますか

複数企業による“パッケージ型”にすることで、「今まで出会えなかったような学生が参加してくれた」という声は一番多いですね。

そもそも、このプログラムは大学1、2年生を含む全学年を対象にしています。参加学生には、就職のためというよりも、将来の就業観を身に付けてもらうためにプログラムを楽しんでいってほしいからです。複数の企業や、行政と民間企業の違いを、実体験を通じて知ることで、自分の向き・不向きや興味・関心の有無、強みや弱みの理解を深めてほしいと考えています。

その思いは参加企業や行政の皆さんにも伝えており、「多くの学生とのつながりができたことが嬉しい」「ここから関係性を継続したり広げていったりと、生まれたネットワークを生かしていきたい」など、理解ある声を頂いています。

―参加した学生からは、どのような声が上がっていますか

25年夏のプログラムのアンケート結果では、「一度に複数の業種・企業を体験でき、働き方の違いを比較しながら理解できた」「自分の興味や向き・不向きを見極める良い機会になった」「企業ごとの特色を直接知ることで、就職後のイメージが明確になった」など、まさに私たちが目指しているインターンシッププログラムのあり方や目的を言葉にしてくれた学生が多く、とても嬉しかったですね。

ほかにも、行政と民間企業との比較で「民間企業のスピード感とは異なり、行政は慎重で公平な判断が求められると感じた」という意見もありました。宿泊体験を通じて、「地域の人々の温かい支援により安心して生活・交流できた」「宿泊を通じて地域の文化や暮らしを体感し、 町の魅力を肌で感じることができた」という声も寄せられています。

参加した62人の学生は、県内と県外の大学生がほぼ半分ずつで、学年は、短大の1年生、大学の1~3年生まで幅広い層の学年が多く参加しています。鳥取県に縁もゆかりもない学生も5人いて、「宿泊体験してみたい!」「旅行気分で楽しめそう」と考えてくれたのかもしれません。

まだまだ本格始動したばかりのプログラムなので、具体的な成果はこれから。採用数という定量的なデータには出にくい取り組みかもしれませんが、中長期的に「あのときの鳥取県のプログラムは面白かった」とUIターンで県に戻ってくる学生が少しでも増えてくれたらいいなと考えています。

パッケージ型プログラムの参加後アンケートでは、満足と回答した学生の割合は9割を超える。また、参加後の変化に関しては、「業種や企業への関心」「地域への関心」「キャリア選択への影響」のいずれにおいても、多くの学生が「深まった/影響受けた」と回答した。
パッケージ型プログラムの参加後アンケートでは、満足と回答した学生の割合は9割を超える。また、参加後の変化に関しては、「業種や企業への関心」「地域への関心」「キャリア選択への影響」のいずれにおいても、多くの学生が「深まった/影響受けた」と回答した。

―これから挑戦したいこと、広げていきたいプログラムにはどのようなものがありますか

プログラムのテーマをもっと深めていきたいですね。例えば、一つの業種における上流から下流まで全サプライチェーンを順番に経験していくようなプログラムがあると、仕事全体の流れがつかめて面白そうだなと考えています。そのためには、賛同いただける企業連携をもっと拡充させていく必要があります。

また、今はエリアを区切ってプログラムを作っていますが、「県を横断して〇〇業界を経験」といったような鳥取県を丸ごと味わえるようなテーマがあってもいいのではないか、と思っています。

やりたいことはたくさんあるのですが、4人の専任コーディネーターのマンパワーでは限りがあります。プログラムごとに「ホスト役の企業」を設け、その企業主導で進めていただくなど、持続性のある仕組みづくりにも着手していきたいですね。

パッケージ型プログラムは、ほかの県でもユニークな取り組みが多くあります。鳥取県の事例を発信していくことで他地域に波及し、日本全体の地域がますます活性化していくことにも、微力ながら貢献していきたいです。

取材・文/田中 瑠子 撮影/鈴木 雅人(CURBON)