人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2024年01月12日
人材不足業界の突破術~「非常識」への発想転換~ 第一回 「当たり前の実現」が女性ドライバーの離職者ゼロに繋がった運送業の事例
日本の労働環境の大きな問題となっている「人材不足」。特にその影響が深刻な業界にありながら、人材を獲得し活躍してもらうための好循環を生み出した企業の取り組み事例を紹介する新シリーズがスタートします。
シリーズ初回で注目するのは、2024年問題がいよいよ迫る運送業界。
他産業と比べても中高年齢層の男性労働力に依存するこの業界で、女性を中心とした人材の定着と活躍の場を提供する企業があります。その実例を見ていきましょう。
必要なものは、イメージのしやすい仕事
全産業の中でも特に女性比率が低いとされる、トラック運送業。全産業における女性就業者の割合は45%なのに対して、トラックドライバー(輸送・機械運転従事者)として働く女性は4%にも満たない(※参考:総務省統計局「労働力調査」2022年)というのが現実です。
そんな運送業界で、女性経営者として活躍する神谷 弘恵さん(高浜共立運輸株式会社 社長)は、女性に運送業界で長く働いてもらうには、いくつか必要なポイントがあると話します。
「例えば、コンビニや駅へのフリーペーパーの配送業務。届け先がto Bの仕事ではありますが、エンドユーザーはto Cの仕事ですよね。そういう一般消費者に繋がるものを荷物とした方が、未経験のドライバーは自分の仕事を身近に感じやすいように思います。
また、必ず同じ場所・同じ時間に届けるので、自然と決まったコミュニティができあがります。そこにやりがいや居心地の良さを感じて、離職せずに続けてくれるのではないでしょうか」
■自分の仕事が何に繋がるのかイメージしやすい仕事であること。
■定期的に、固定の相手とのコミュニケーションが必要とされる仕事であること。
特にこの2点が、女性が運送業界に興味を持ってくれやすい業務条件と神谷さんは感じているそうです。
こうした点を意識しながら、「責任感を持って、丁寧に正確に配送をすることがドライバーに求められる仕事である」という部分を伝えられれば、「長時間運転」や「重い荷物を運ぶ仕事」といったイメージを持っている未経験の女性にとっても、ドライバーという職種は選択肢の一つになり得るのではと神谷さんは話します。
無理をさせない、きちんと教える。「当たり前」が離職者ゼロへ
男性中心の職場というイメージが強い運送業界で働くハードルを下げるべく、求人を出す際には女性が安心できる職場であることを入れる他、採用面接の際に雇用条件の中身をできるだけ細かく説明しているそうです。
例えば、未経験者にとってトラック運送は、本人の不安も家族の反対も大きいため、軽車両のみでの配送業務を担当してもらうこと。配送時間の幅だけが決まっていて、仕事の時間や配分を自分で決めることができるなど。本人も無理をせず、家族からも理解・納得をしてもらう仕事内容を提示していると言います。
また、実際に雇用した後は、配送マニュアルのおさらいや緊急時対応などの実技実践、そうした基本的な部分を丁寧に教えているそうです。
未経験の立場でも働くことができる仕組みと環境作りに努めた結果、高浜共立運輸では離職者無し・採用にも困らない状況を作りあげました。
仕事は、個人に合わせて「つくる」もの
もう一例、同じく女性経営者の門馬 千草さん(株式会社CHIGUSA JAPAN 社長)の取り組みを紹介しましょう。
CHIGUSA JAPANでは、腰を痛めて重い荷物を運べなくなった男性従業員のために、軽い荷物を割り当てた他、パレット輸送を取り入れるなど「従業員一人ひとりが無理をせずに働ける」ための工夫と助け合い施策を積極的に行っていました。
そこに加えて、子育て中で時間に制約のある女性でも働きやすいよう、中長距離の運送ルートだけでなく、短距離の運送ルートを新たに受注したそうです。
「個人に合わせて仕事を獲得するのが、経営者の仕事だと思っています。例えばケガや妊娠など、人によっていろいろな働く際の制約はあります。そうした制約の中でも働ける環境を作っていけば、みんなが自分のできる範囲で働くことができますよね。制約のせいで仕事をできない人がいるのなら、経営者である私が、その人にもできる仕事を取ってくればいいんです」
こうした、個人に合わせて仕事をシフトさせていくCHIGUSA JAPANの方針は、「働きやすい」と従業員から好評を得ました。結果、それが地元地域の中で口コミとして伝わり、人材不足が叫ばれる業界の中でも採用は充足していると言います。
どの従業員でも働きやすい職場環境を目指して
高浜共立運輸とCHIGUSA JAPANという女性経営者が活躍する2社の事例には、運送業界に決して多くはない「女性従業員」が働きやすい職場づくりを意識した、という共通点があります。
しかしこの2社は、性別によって方針をつくったわけではありません。職場で制約の多い従業員が働きやすい職場環境を考えた結果が、「女性にとって働きやすい職場づくり」だったというだけです。
そして「従業員が個別に働きやすい職場づくり」を目指すことは、子育て中の女性がいる会社だけではなく、介護をしながら働く従業員がいる会社や、体調をケアしながら働く従業員がいる会社にも当然に求められるべきことと言えるでしょう。
人材が足りないのであれば、求める人材の範囲を広げる。
未経験者であっても、安心して働ける職場となるような職場づくりに努める。
新たに獲得した人材を含め、全従業員が個々で活躍できる職場環境を整備していく。
人材不足の問題が深刻となっている運送業界では、その「当たり前」の実現すら難しいのかもしれません。けれど、従業員を大切にする「当たり前」を貫き、人材不足の問題から解放された企業事例が実際にある以上、会社としての在り方を見つめ直すのも良いのではないでしょうか。
<企業プロフィール>
高浜共立運輸株式会社
● 創業/1951年
● 所在地/愛知県高浜市碧海町3-7-56
● 従業員数/40名(2023/12/1時点)
株式会社CHIGUSA JAPAN
● 創業/2011年
● 所在地/群馬県太田市新田嘉祢町3番地
● 従業員数/15名(2023/12/1時点)