人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2023年01月25日
採用ターゲットを「誰でも歓迎」からあえて「学生」に~「働き手目線」のメッセージづくりで、応募0件から55件に~
今回クローズアップする人材活用の事例は「コンパスグループ・ジャパン」
「いつも人が足りていない…」「なかなか応募が来ない…」という場合に、「とにかく応募が欲しい」とターゲットを絞り込まずに募集することもあるのではないでしょうか。
コントラクトフードサービスを展開するコンパスグループ・ジャパンでは、「誰でも歓迎」と募集しても採用が思い通りにいかない事業所で、ターゲットを「学生」に絞ることを決定。学生が働きたいと思える仕事内容や働き方を創出したことで採用に成功しました。同社がなぜ学生に可能性を見出したのか、どのように学生生活や志向を知り採用に活かしたのかなど、取り組みの経緯やポイントを紹介します。
- ● 社名/コンパスグループ・ジャパン株式会社
- ● 創業/1947年
- ● 事業/コントラクトフードサービス(オフィス・工場、学校給食や教育関連施設、病院、老人ホーム、高齢者施設でのフードサービス)、食材・食品の販売
- ● 本社所在地/東京都中央区築地5丁目5番12号 浜離宮建設プラザ4階・5階
- ● 資本金/1億円
- ● 従業員数/社員2,181名、その他従業員1万3,512名(国内グループ企業含む)
- ● 事業所数/1,500(国内グループ企業含む) ※2022年9月時点
「コンパスグループ・ジャパン」の事例から学ぶ人材採用のポイント
- ポイント1 「誰でも歓迎」ではなく、狙いを定める
- 本当に人材が必要な業務・時間帯を整理して、採用可能性が高いターゲットを絞り込む
- ポイント2 「働き手目線」でのメッセージづくり
- 採用ターゲットのライフスタイルも理解し、「自分にぴったり」と思える情報を打ち出す
- ポイント3 本社人事-事業所のコミュニケーション強化でミスマッチを減らす
- 事業所の要望と求人内容のズレをなくし、採用率を高める
「誰でも応募しやすい」ことで、かえって応募が集まりづらい状況に
社員食堂や教育関連施設、病院、高齢者施設などでフードサービスを提供するコンパスグループ・ジャパン。同社では、調理師の補助として、食事の盛り付けや、食器・調理器具の準備などを担当する調理補助のアルバイトスタッフが慢性的に不足していました。
どのように取り組み、解決したか、採用部マネジャーの内海さんにお話を聞きました。
「当社では、一度に数百食、数千食を提供できる人員体制を確保することが、経営の最重要課題です。フリーターやシニア、主婦、学生どなたでも来て欲しいと思っていました。
しかし、同じ飲食業でも、ファストフード店やファミリーレストランなどと比べて、コントラクトフードサービス(給食委託)という業態を知らない人が多い。比較的働き手の多い都市部であっても、調理補助の募集にほとんど応募がない状況が続いていました」
調理補助の採用に向け、まずは現状の課題整理に取り掛かりました。
そこで分かったのは、とにかく人を集めたいがために、採用ターゲットを絞らず「誰でも応募しやすい」ことを意識した募集広告が、かえって誰の心にも響かない内容になっていたことでした。
また、働いて欲しい時間帯を「5時半~21時のどこかで働ける人」のように、あいまいなまま募集した結果、応募者の希望シフトと、実際に人が足りていない時間帯とでミスマッチが生まれ、採用に至らないケースが頻発していたことも判明しました。応募後の採用率は20%に届かず、応募があっても大半が採用につながっていない状況だったといいます。
データ収集とヒアリングで学生生活や志向を理解、学生採用にチャンスを見出す
同社が採用につながる応募を獲得するために取り組んだのは、採用ターゲットの絞り込みと、徹底したターゲットの理解です。
採用部メンバー総出でまずは外部データなどを収集し、フリーター、シニア、主婦、学生それぞれについて、勤務時間帯の傾向を分析しました。その結果、今回働いて欲しい時間帯は、特に学生と相性が良さそうだと分かったとのことです。
加えて、同社でアルバイトをしている大学生に、同社で働く理由などをヒアリングしました。
内海さんによると、「ヒアリングで多くの気付きがありました。例えば、今の学生は授業や課題でとても忙しく、働ける時間もせいぜい17時から21時くらいまで。土日どちらかは休みたいという希望が多いこと。バイトの優先順位は決して高くなく、学業や生活とのバランスが大切だということが分かりました」
「飲食業で考えると、ファストフード店やファミリーレストランなどは閉店時間が遅いのに対して、当社の仕事は21時には終わります。そういった学生の志向に合致したポイントを打ち出せば、当社にも学生を採用するチャンスがあるのではと感じました」
「自社目線」から「働き手目線」に転換、学生が知りたいメッセージを打ち出す
次に着手したのは、募集広告のメッセージの見直しです。
まずは、調理補助の採用がうまくいっていない都心部17事業所でトライアルを行いました。
「これまでは私たちが欲しいスキルなどを中心に書いていましたが、応募する側の目線で、何が分からないと応募しづらいか、何が分かると嬉しいかと考え方を変えました」と内海さん。
事前の情報収集で分かっていた同社のアピールポイントとして「21時には勤務終了」のほか、「週2~3日勤務」「土日どちらかでOK」などの文言を入れ、シフトを柔軟に調整できることを打ち出しました。
勤務時間帯は、あいまいに書くのではなく、事業所で実際にスタッフが不足している時間帯を具体的に示すことで、応募後のミスマッチが減るようにしました。
また、まかないも大切な判断材料になるのではという仮説から、「栄養満点の一汁三菜のまかないが、格安で食べられる」ことも盛り込んだといいます。
そのほか、「調理」という言葉で、「難しそう…」という印象を持たれないように、「調理補助」の具体的な仕事内容を記載。調理経験がなくても働けることが分かるように、「調理業務はなし」「包丁は使いません」「飲食未経験も歓迎」などを記載して、応募のハードルを下げるように努めました。
さらに、メッセージの見直しに伴い、受け入れる事業所側の意識を変えるように働きかけたとのことです。
内海さんは話します。「つい色々なことができる人材を求めがちで、『包丁は使わない』という前提で採用しても、実際には、入社後に包丁を持ってもらうこともありました。しかし、業務範囲を不用意に広げないよう各事業所にも理解してもらい、学生が働きやすい環境を整えました」
応募0から55件に。学生採用で職場の雰囲気もぐっと明るく
17事業所で募集を開始したところ、効果はすぐにあらわれました。
内海さんによると、「今まで応募が0だったところに、2週間で合計55件も応募がありました。採用した13名のうち8名が学生で、今回の取り組みは大きな成功だったと言えます」
今回採用された、短大2年生の高橋さん(仮名)にお話を伺いました。
高橋さんは、老人ホーム内の厨房で、調理補助として、料理の配膳のほか、食器・調理器具の準備や洗い物などを担当しています。
「アルバイト探しをしていた当時、学校の授業や、掛け持ちしているスーパーマーケットのアルバイトを終えて、15時過ぎから働けるところを探していました。
15時半から19時半で募集していたのを見つけて、私の希望にぴったり合っていましたし、家からも近かったので、すぐ応募しました」と高橋さん。
老人ホームの給食委託事業という少しイメージしづらい職場ではありましたが、将来医療関係で働くことを希望していることや、面接で仕事内容について丁寧に説明してもらえたため、大きな不安はなく、アルバイトすることを決められたとのことです。
「アルバイトを始めて2か月ほど経ちましたが、仕事内容や働き方も入社前に聞いていた通りで、満足して働けています。特に、シフトを柔軟に調整してもらえるのは助かっていますね。
周りの先輩方がとても丁寧に仕事を教えてくださり、今も困ったことがあれば親切にサポートしていただけるので、安心して働けています」と高橋さんは話します。
内海さんも、「アルバイトの多くがシニア世代なので、学生からすると同世代が少なくて働きづらいのではと当初懸念していました。しかし実際は、学生もすぐ職場に馴染めていますし、シニアスタッフが学生を可愛がって、職場も明るい雰囲気になっているようです。採用以外でも良い効果があったと感じています」と笑います。
成功体験を他の地域や採用ターゲットにつなげ、さらなる採用拡大を目指す
学生のアルバイト採用に成功したことで、新たな課題も見えてきました。
学生アルバイトはいずれ卒業して辞めてしまうことや、地方出身者が同時期に帰省して人員不足になりかねないことなどです。
「今回の件で、当社でも学生を採用できることが分かりました。今後はより学生採用を進めつつ、急な人員不足に対応するために、事業所横断のヘルプ専門チームをつくり、色々な事業所にヘルプ人員を送れる仕組みなどを考えています。
また、今回の取り組みを他地域にも展開したいですし、今後も『学生が働ける職場』として、当社の認知度をアップさせたいです」と内海さんは語ります。
さらには、今回の成功ポイントを、主婦などの様々な層の採用に活かしていきたいとのことです。
「誰でも応募して欲しい」がむしろ、応募が集まりづらい状況を招いている可能性もあります。思い通りに採用できない場合には、募集する業務条件では、どんなターゲットであれば可能性がありそうか、そのターゲットにはどんな仕事内容や働き方を創出することが必要かなどを見直すことも効果的です。
今回のコンパスグループ・ジャパンは学生をターゲットにした取り組みでしたが、どの採用ターゲットであっても、そうした視点を持ち続けることは重要ではないでしょうか。