人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2014年03月28日

#学生・若年層#飲食業

学生アルバイトに就活ノウハウを指南

今回クローズアップするのは「株式会社きちり」

自店舗でのアルバイト経験を就活での効果的な自己PR材料にする方 法を指南。そんな「就職支援講座」を大学3年生のアルバイトスタッフ向けに開催している株式会社きちり。人材確保や帰属意識の向上などの効果をもたらしている。

  • ● 社名/株式会社きちり
  • ● 事業内容/レストラン経営による飲食事業および食を中心に生まれるHospitalityの提案・提供事業
  • ● 設立/1998年7月
  • ● 代表者/代表取締役社長 平川 昌紀
  • ● 本社所在地/東京本社:東京都渋谷区渋谷1-17-2 CRD Shibuya 1st 12階
  • ● 資本金/3億8019万1564円
  • ● 従業員数/1506名(2013年6月末現在 うちパート・アルバイト約1300名)
  • ● 年商/62億2400万円(2013年6月期)

「大好きがいっぱい」という企業理念が根底に

関西(大阪、兵庫、京都、奈良)と東京、神奈川、埼玉で居酒屋ダイニングはじめハンバーグ専門店、カフェなど72店舗を展開する株式会社きちり。話題となった「丸の内タニタ食堂」をプロデュースしたことでも知られる。社名は、「三国志」の登場人物で、三国時代の魏の基礎をつくったとされる曹操の幼名「吉利」から取った。そこには「曹操のようなリーダーシップをフードサービス業界で発揮したい」という願いが込められている。曹操は人材マネジメントに長けていたといわれているが、同社も従業員の85%以上を占める「パートナー」と称する学生主体のアルバイトスタッフのモチベーションを高め、楽しく仕事をしながら成長できる環境を構築するマネジメントを実行し、成果を上げている。その根底には、「来店客はもちろん、スタッフも満足できる時間と空間をつくろう」と働きかける「大好きがいっぱい」という企業理念がある。

単に時給を上げるのではないアルバイト確保の策

中でもユニークな施策が、就職活動を始める大学3年生のパートナーに向けた「就職支援講座」である。毎年10~11月、関東・関西で希望者を募り、5~6名ずつに分けて10回ほど開催している。
「就活に役立つ心構えやノウハウを教えたり、当社の事業理念や事業活動の真意などを伝えています。このことで、応募先企業の面接で必ず聞かれる『学生時代にがんばったことは?』への回答として当社でのアルバイト経験を自己PRに活用してもらい、就活を少しでも有利に進めてもらおうと支援する目的があります。さらに、当社を見直してもらい、離職を防ぐとともに新卒社員の内部調達を促進することもねらっています」と講師を務めているHCM(Human Capital Management)部ゼネラルマネージャーの礒谷幸始氏は説明する。
優秀なアルバイトの確保は飲食業の生命線である。ところが、最近は人材不足で「時給競争」の様相を呈している。しかし、人件費アップは経営圧迫に直結する大きな問題だ。
「こうした流れに与することなく、当社でアルバイトすることのメリットを打ち出すためにはどうすればよいかを考えた施策が『就職支援講座』です」

就活の考え方・進め方の説明や自分の就職を考えるワークショップを行う

プログラムの内容は、礒谷氏がオリジナルで企画している。まずは、「4本の直線で3×3の9つの点をすべて通る一筆書き」をさせる。
「直線を8つの点による外周の外にまで引っ張って折り返さないとこれを書くことはできません。しかし、普通の人は外周の中だけで考えようとします。就活もそれと同様、自分の持つ概念の外に出ていかなければいい結果は得られない、ということをアイスブレイク的に伝えるためにやっています」
「就職とは、人生を最高に楽しくするために行うこと」という礒谷氏の考え方を基にした就活の考え方や進め方(自己分析、企業選び、自己PRなど)を説明した後、学生自身に自分の就職を考えさせるワークショップを行う。
「私が転職するならどうするか、という発想をベースに、人材採用を5年ほど手がけてきた中で学んだ知識や経験を基に構成しています」

飲食業の繁盛に必要な"おもてなし"のあり方も考えさせる

さらに、飲食業の収益構造(客単価×客数)やリピート来店促進の重要性を解説し、そのための"おもてなし"のあり方までも考えさせることで、飲食業が繁盛するために必要な 店舗スタッフの心構えや振る舞い方までも学ばせているのである。
「現場で受けた店長や先輩からのアドバイスや、主体的な接客で発見した自分なりのお客様に喜ばれる行動を捉え直して整理してもらうわけです。これにより、就職活動の面接などで、単に居酒屋でアルバイトをしていたわけではなく、それを通じてサービス業における接客法やスタッフマネジメントのノウハウも学んだということを論理的にアピールできるわけです」と礒谷氏。
ちなみに、同社には「パートナー満足が顧客満足につながる」という考え方がある。パートナーがモチベーションを高めることで、主体的に「おもてなし」を工夫することを期待しているのだ。そのためにも店長はパートナーにコーチング的なマネジメントを行っているのが特徴的である。
「店長は、パートナーがどういう人間になりたいのかという目標を共有し、それに向けて要所要所でアドバイスをします。それも、パートナーが当社で働くことで成長したと実感してもらうためにやっていることです」

クリスマスやハロウィンのパーティー、「きちりパートナー卒業式」を開催

「就職支援講座」以外では、やはり就活を前にしたパートナーを集めてクリスマスやハロウィンパーティーを開催し、そういった砕けた雰囲気の中で礒谷氏ら採用スタッフなどが就活に対するアドバイスなどを話す場も設けている。
「このパーティーには、当社とは無関係の友人や後輩をゲストとして誘ってもいいことにしています。もちろん、そうしたゲストに当社の姿勢を理解してもらい、パートナーや新卒の採用に繋げたい思いがあります。企業の人事担当者と気軽に話せる機会はそうそうないと思いますが、就職に危機感を持つ1~2年生が来てくれますね。中には国立大学医学部の学生もいました。『きちりでバイトしたくなりました』と言ってくれますよ」と礒谷氏は言う。
さらに、毎年3月、大阪に全72店舗の大学4年生のパートナーを一堂に集め、「きちりパートナー卒業式」を開催している。東京からは貸切バス2台をチャーターするという気の入れようだ。卒業式は、社長が卒業証書を渡し、ゲームや交流で楽しみ、店で働くシーンを集めた映像を流す、といった内容だ。感動して涙を流す学生も多いという。なお、後輩のパートナーも参加が許される。
「自分も2年後にあの壇上に立ちたい、などと思うようです」と礒谷氏は言う。

「きちりでバイトしてよかった」という好イメージでリクルーティングやマーケティング効果も期待

こうした施策で、具体的にどういった効用がもたらされているのか。礒谷氏は次のように説明する。
「数値的なデータを取っているわけではありませんが、パートナーのモチベーションや帰属意識は明らかに高まっています。『(就活で)アルバイトを辞めるつもりだったが、(企業から内定が出た後卒業まで)続けることにした』というパートナーは何人もいます」
同社の新卒採用人数は、毎年30~50人程度であるが、そのうち「就職支援講座」を受講した者は5人程度を占める。
卒業式で晴れがましく送り出されたパートナーには「きちりでバイトしてよかった」という好イメージが形成される。同社は、これが口コミの形で後輩に伝わるリクルーティング効果や、新入社員として宴会の幹事を命じられた際に同社店舗を選定するマーケティング効果も期待している。では、「就職支援講座」は実際に就職活動にどういった効用をもたらしたのか、パートナーとして参加した経験者に話を聞いた。

「おもてなし」コンテスト2位入賞を就活の自己PR材料に

「東京の大学に進学していた姉がお客として利用していて、『いいお店だよ』と聞いたので、後に続いて上京した私はすぐここでアルバイトを始めることにしました」と言うのは、KICHIRI恵比寿店のパートナーである大学3年生の野田夏実さん。野田さんは2013年11月、「就職支援講座」を受講した。
「12月からの本格的な就活を前にして、何をどうすればいいのかよくわからない状況で不安だった時に、就活の流れや取り組み方、きちりでのアルバイト経験が自己PRになるといった話を聞いて、すごくためになりました」と目を輝かせる。
2014年2月末の段階で、野田さんは何社かの選考段階に進んでいる。また、大手企業を中心にエントリーシートの作成も佳境を迎えている。
「きちりでは、昨年初めて『おもてなしコレクション』という、関東地区の各店舗のおもてなし方法のコンテストを行ったのです。各店舗を代表するスタッフがステージの上でそれぞれのお店のおもてなしを演じてみせるのですが、恵比寿店の代表として私が選ばれ、なんと僅差で2位になったのです。この時のことを、就活の自己PRの材料にすることができました」
「人への思いが強い会社に惹かれる」と言う野田さんは、業種を絞らずに気になる企業にアプローチしている。「3年間のきちりでのアルバイト経験がどこまで通用するのか確かめてみたい」という思いがあるからだ。もちろん、社員として同社で働き続けることにも大きな魅力を感じているという。
「以前の店長は女性で、今ではお友達としても接してくれているんですが、彼女はとても素敵な人ですごい影響を受けているんです。私もきちりでそんな存在になれればいいな、って思っています」と野田さんは破顔した。
学生アルバイトへの戦略的な取組みは、学生からすると非常に手厚い対応として、大きな効果をもたらしているといえよう。

「きちり」が企業に提言する人材活用のポイント

職場環境の整備・企業風土改革
アルバイトスタッフのモチベーションを高めるイベントなどの機会を積極的に提供する
価値観や企業文化の共有
経営理念・経営方針を現場で共有するマネジメントを行う
採用・雇用・配置
アルバイトから新卒入社につなげる仕組み・ルートを整備する