座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2021年07月20日

70歳定年でも高齢者が活躍できる職場づくりに向けた工夫とステップ(後編)

はつらつと運動をする2人の高齢者

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
7回目となる今回の座談会テーマは「高齢者雇用の工夫」です。前編に続き、東京都健康長寿医療センター研究所の社会参加と地域保健研究チーム研究部長藤原氏、同チーム研究員の相良氏より、潜在的求職者層にあたる高齢者の働くきっかけについてお話を伺い、企業が工夫できることについて考えます。

  • 藤原 佳典

    藤原 佳典(ふじわら よしのり)
    東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 研究部長(チームリーダー)

    北海道大学医学部卒、京都大学大学院医学研究科修了(医学博士)。京都大学病院老年科などを経て2011年より現職。世代間交流・多世代共生の地域づくり・ソーシャルキャピタルの視点から高齢者の社会参加・社会貢献と介護予防・認知症予防について実践的研究を進めている。2014年より、高齢者就労支援研究会ESSENCEを主宰。日本老年社会科学会理事、日本老年医学会評議員、日本世代間交流学会副会長、内閣府高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会委員、厚生労働省一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会構成員他、多数の自治体の審議会座長を歴任。
    著書に『子どもとシニアが元気になる絵本の読み聞かせガイド』(監修)、『人は何歳まで働くべきか』、『ソーシャルキャピタルで解く社会的孤立』(共編著)などがある。

  • 相良 友哉

    相良 友哉(さがら ともや)
    東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 非常勤研究員

    筑波大学大学院人文社会科学研究科の博士後期課程に在籍しながら、2018年4月より現職。専門は「市民社会論」「地域社会論」。現在は、地域社会におけるヘルスプロモーション、世代間交流、高齢者就労等に関する研究を通じて、いわゆる元気高齢者(アクティブシニア)が地域内で社会参加するための効果的な方策について検討を行っている。
    また、多世代共生型の地域社会づくりと居場所づくりを目指し、プロボノとして、首都圏の複数のコミュニティスペースと緩やかに関わりを持っている。

働くつもりがなかった高齢者が働くきっかけとは

宇佐川:近年高齢者の就業率は増加していますが、まだまだ働くことに不安があり、具体的な仕事探しまではしていないが、働いてもいいかなという高齢者もいると思います。
実際に私たちが行った調査では、「働きたいという気持ちはあるが、仕事探しはしていない」が17.9%、「働きたいという気持ちはなく、仕事探しもしていないが、友人・知人からの誘いなど、何かのきっかけがあれば働くかもしれない」が20.2%という結果がでました。私たちはこの“何かのきっかけ”を作れないかなと思うのですが、どのようなことが考えられそうでしょうか。

相良:たとえば、ボランティア活動がきっかけとなり仕事につながるケースがあげられます。以前、日常的に絵本の読み聞かせボランティアを行っている首都圏の高齢者374人を対象に調査をしたことがあります。この調査では、36.6%が保育補助、24.9%が介護補助への就労意向を持っていることが明らかになりました。
ボランティア活動を通じて保育園や介護施設等、それぞれの施設が対象とする世代(子ども/高齢者)の人たちと日常的に交流があること、また、孫の世話や親の介護などの経験がある人にとっては、仕事内容が身近でイメージしやすいこと、この2つが保育補助や介護補助としての就労意向を支えているのでしょう。

藤原:実際にボランティア活動で絵本の読み聞かせをされていた方が、そのまま保育補助の仕事を始められた施設もあるようです。仕事内容がわかる(実際に、担当していなくてもどのような仕事があるのか見たり聞いたりしていた)のみならず、すでにボランティアとしてお互いの顔が見える関係であるため、一緒に働く同僚やどのような子どもたちが居るかわかっているので、無償のボランティア活動から有償の仕事にうつってそのまま働くことが自然な流れでできるのだろうと思います。

子供と楽しく交流をする高齢者のイメージ

宇佐川:ボランティアの効能として、前編でも話していた事前に仕事内容をイメージすることだけではなく、人間関係を構築するということにもつながっているのですね。「これなら私にもできるかな?」という自信も持てそうです。

意外に「できるかも?」と思ってほしいのですよね。おそらく仕事や働くということに対するイメージというかハードルが高くなっているような気がします。本当はもっと「これ(仕事)は面白い」「健康維持につながる」といった側面を知ってもらえたらいいのかなぁ…と思うのですが。

高齢者が気持ちよく働くために必要なもの

藤原:こちらを見ていただきたいのですが(下図)、これは東京都A区の高齢者を対象にした調査で、健康悪化リスクを調べたものです。「お金のみ」を目的として働いている人よりも「生きがい」を目的に含んで働いている人のほうが健康悪化リスクは低いのです。つまり、同じ仕事でもありがとうと言われたり、感謝されるなどして生きがいが得られたほうがいいのです。これは高齢者が気持ちよく働く、また健康でいるためにとても大事なことです。

グラフ:高齢期の就労動機と2年後の健康悪化リスク

出典:Nemoto Y., et al. Working for only financial reasons attenuates the health effects of working beyond retirement age: A 2-year longitudinal study. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20: 745–751.
DOI: 10.1111/ggi.13941

宇佐川:それはとてもいいですね! 今お話を聞いていて思い出したのですが、千葉県にあるピーナッツ加工の工場で、あるとき工場の隅っこで直売を始めたそうなんです。すると従業員のひとりであった高齢女性の方が「せっかくお客様がここまで来るなら、その場で食べられるように塩ゆでピーナッツも販売しましょう」と意見をくださって販売したところ、お客様から好評でリピーターが増えたそうです。その後はおせんべいなどのお菓子や普段の食事への取り入れ方など、もう出るわ出るわ、たくさんアイディアが出てきたそうです。

後日談としてその工場経営者の方に聞いたお話なのですが、高齢女性従業員がアイディアを出し、お客様のリピーターが増え、売上も上がり…、従業員がとてもいきいきとされているようです。経営者の方が「こんなにアイディアをたくさん持っているなんて」と、とてもびっくりしていました。

まさに先ほどおっしゃっていた「生きがい」ですよね。

藤原:そうですね。「生きがい」につながるような仕事の割り振り、与え方というのをぜひ考えていただけたらいいかなと思います。

3人の高齢者イメージ

宇佐川:働くことで生活習慣のコントロールができる、健康意識が保たれるという話も聞きます。一方で、企業側は「高齢者だから急に休むことがあるのではないか」「体調が悪化したら辞めてしまうのではないか」という懸念もあるようです。むしろ働く環境さえ整えば、「生きがい」も含めて、健康維持につながっているということが双方わかるといいのだろうなと思います。

相良:介護施設の施設長を対象に、高齢の介護補助を雇用しなくなった理由について尋ねた調査*があるのですが、その結果では、「体力不安があるから」というのは少なく、「家族の介護でやむを得ず」といった理由のほうが多いということがわかりました。比較的体を動かすことが多い介護施設の従業員であっても、ご本人の健康状態は大きな問題にはならないことがデータとして示されました。

*出典:介護老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業報告書、2021年3月

宇佐川:そうですよね。私は自分から体力不安で退職される方は他の仕事でもそんなに多くないのではないかな、と考えています。あとはご家族の意見というのも影響されているように思います。子どもに「そろそろ体を休めたら?」と言われると、慮っての意見なので高齢者本人に不安がなくても反対しづらく辞めることを考えてしまうといった話も聞いたことがあります。ご家族が健康を気にされているといったことにも企業は意識を向けることが必要ですね。

●企業が工夫できること(潜在的求職者の受け入れ、活躍)

普段の生活に近い内容や本人が経験ある内容の仕事に触れるなど、視野を広げるきっかけづくり
たとえば、孫の世話や子育て経験がある方には保育補助、親や配偶者の介護経験がある方には介護補助など。ボランティア以外にも、見学会や説明会などで応募前に職場の様子を見ていただく、面接の場面で実際に使用する道具などに触れていただくといったことも考えられます。「自分にできるかな?」「これはできないかも」というところから視野を広げるきっかけづくりが大切です。

高齢者本人や家族の健康配慮を理解する
特に未就業者が働き始める際は「体力が持つのか」「周りの方に迷惑をかけずに動けるか」といった不安があります。また、家族は「働くと疲労がたまってしまうのでは?」という不安もあるようです。そのような不安な気持ちを本人や周囲の家族が抱いていることを踏まえて、仕事内容や勤務条件の説明をすることに加えて、普段から仕事以外の生活について話し合う時間を持つこともいいでしょう。

潜在的求職者を見い出すイメージ写真

前編に続き「高齢者雇用の工夫」をテーマに、高齢者の働くきっかけや働くことのメリットについてお話を伺いました。高齢者がいきいきと働くためにまず必要なことは、就業意欲がある高齢者、潜在的求職者である高齢者いずれも共通して「視野を広げる」ことでした。そのために企業ができる工夫についてもそれぞれあげましたが、やはり「視野を広げる」ことが根底にあると思います。これまでの方法にとらわれずに、自社の従業員や求める人材像と照らし合わせて、工夫を考えられるように、本記事がヒントとなれば幸いです。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)