トピックスレポート/コラム
2026年10月19日
年収の壁と労働供給:大学生編 -シフトデータで見る2025年制度改正後の働き方変化-
本レポートでは、株式会社リクルートが提供するシフト管理アプリ「シフトボード」の勤務実績データを用いて、2025年の「年収の壁」の引上げ前後における大学生の働き方の変化を分析しています。
解説
問題意識
・人口減少に伴い労働供給の制約が強まるなか、既に就業している人が労働時間を増やせる余地があるのかは、重要な論点となっている。
・税制や社会保険制度における「年収の壁」は、労働者が働く時間を抑える要因の一つと考えられている。2025年には年収の壁に関する制度変更が行われたが、それによって労働者の働き方が実際にどのように変化したのか、勤務実績に基づく検証が重要である。
分析の枠組み
・シフトボードに登録された給与・労働時間データを用い、主に19~22歳の大学生を対象として、2022~2025年の年収・労働時間の変化や、年収の壁に接近した人の年末の働き方を分析する。
・さらに、2024年に103万円の壁の直下で働いていた層と、それより年収が低い層を比較し、制度変更前の年次変化も考慮した差の差分析(DID)によって、2025年の労働供給の変化を検証する。
・加えて、2026年1~6月の勤務実績と過去の季節性を用いた簡易シミュレーションにより、年末に年収の壁を意識した労働時間調整が生じる場合の規模を試算する。
結果
今回の分析から明らかになった主な結果は、以下の3点である。
①2025年には大学生の年収・労働時間がともに増加。 年収分布・労働時間分布がともに増加方向へ変化し、年収の増加は時給上昇だけでなく、労働時間の増加も伴っていた。
②年収の壁の引上げは、既に働いている大学生の追加的な労働供給を引き出し得る。 2024年に103万円直下で働いていた層では、比較対象となる年収帯に比べて、2025年の労働時間が年間で約1.7~4.3%、10~12月では約4.9~6.9%相対的に増加した。
③2026年も年収の壁を意識した年末の労働時間調整が生じる可能性。 簡易シミュレーションでは、分析対象者の11.9%が年末までにいずれかの壁を超えるリスク層に該当し、これらの層が壁の範囲内に年収を収めようとした場合、対象者全体の12月の労働時間の10.0%に相当する削減が必要となる試算となった。
本レポートは、年収の壁の引上げが、既存就業者の労働供給を増やす可能性を示すとともに、制度上の基準額と労働時間の選択との関係について、実際の勤務データから示唆を提供するものです。
※本分析は民間アプリ利用者を対象としており、日本の大学生全体を代表するものではありません。また、2026年の結果は上半期実績を基にした簡易シミュレーションであり、下半期の確定実績や直接予測を示すものではありません。


