人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2025年03月14日
大切なのは培ってきた技術力。世界有数のセンサーを支えるシニアの力

工場の自動化に欠かせない「精密位置決めセンサー」。株式会社メトロールは従業員約120名ながら、74か国7,000社以上と取引実績があるグローバルニッチトップ企業です。競争力の源泉はミクロンレベルの精度や耐久性が求められる高難度なニーズにも応える技術力。この技術力を支えるのがシニアエンジニアの存在です。
メトロール社ではキヤノンやソニー、東芝といった大手メーカー出身の50代後半~60代のエンジニアが活躍中。培ってきた経験・技術を活かしてモノづくりをけん引しつつ、若手社員の育成にも取り組んでいます。シニア採用に慎重な企業が多いなか、なぜ同社は採用に踏み切ったのか。社長の松橋卓司さんに経緯や成果、採用・定着の工夫を聞きました。
- ● 社名/株式会社メトロール
- ● 所在地/東京都立川市高松町1-100 立飛リアルエステート25号棟5階
- ● 主な事業/精密位置決めセンサーの開発・製造・販売
- ● 従業員数/118名(2023年5月時点)
- 取り組み前の状況
- ■ 若手の育成や中途採用では、アナログ技術に精通したエンジニアを確保できない
- 取り組んだこと
- ■ 大手メーカー出身など経験・技術が豊富なシニアエンジニアを採用
- ■ 自律志向や協調性も重視して、選考ではグループディスカッションを実施
- ■ 1年ごとの契約社員採用。定年を設けず意欲・体力があれば働き続けられる & 体調や家庭事情を考慮し、柔軟に働き方を変えられるように
- 成果
- ■ シニアのノウハウを吸収しようと、若手から「管理職になって、色々教えて欲しい」という声も
- ■ シニア・若手のタッグで開発した製品が東京都ベンチャー技術大賞を受賞。年齢の垣根なく協働が進む
シニアに注目したきっかけは、自社の苦手をカバーする技術力
メトロール社がシニアエンジニアの採用に本格的に取り組み始めたのは10年ほど前。
「若手のエンジニアはデジタル技術には強いが、機械や圧力といったアナログ技術に詳しい人が少ない。高精度なセンサーをつくるには、どちらの技術も欠かせません。
さらに世界中の顧客から寄せられる高い要求に応えるには、10年程度の経験では難しい。十分に経験を積んだ40代などは転職市場に少なく、いても大手企業に転職してしまう。そこで意欲も技術もある50・60代のシニアに活躍してもらおうと考えました」と松橋さんは話します。
シニアを採用するうえで気になるのは既存社員の反応です。年齢も経験も上のシニアが新人の部下として入社することに、管理職から不安の声はなかったのでしょうか。
そんな疑問に対し松橋さんは笑って答えます。
「ネガティブな反応はまったくなかったですね。そもそも上下関係が厳しい会社ではないし、自分の手に負えない技術領域をカバーしてくれることに管理職も若手も大歓迎でした。今では『いなくなったら困る』と心配の声が聞こえるほどです」
意欲と体力があれば何歳まででも働ける
技術があればだれでも採用するわけではありません。入社後のミスマッチを防ぐため、選考にはグループディスカッションを取り入れています。
「特に注目するのは自律志向です。大手企業と違い、限られた人数で事業をおこなうので、自ら問題を見つけて動くという姿勢が必要です。他人の意見に耳を傾けられるかも見ています。
グループディスカッションの試験官はトレーニングを受けた若手社員が務めます。一緒に働く人を採用することになるので、若手も真剣そのものです」
雇用形態はあえて1年ごとの契約社員として採用。本人が希望すれば契約は基本的に継続され、定年を設けていないため、意欲と体力が続く限り何歳まででも働けます。契約更新のタイミングで体調や家族の事情を考慮し、働き方や業務内容の希望をすり合わせることも、長く活躍してもらうポイントだといいます。
当初スペシャリストとして技術を発揮してもらうことを想定していましたが、次第に「管理職になって欲しい。もっと色々教わりたい」という要望が若手からあがるように。そこで3年ほど前、エンジニア業務に加えマネジメントまで任せられるシニア採用もスタートしました。
「中小企業では、事業領域や経験できる業務が限られます。例えば当社では精密機械をつくることには強くなりますが、数億円規模の設備導入を経験した人は少ない。一方大手メーカー出身であれば、要件定義やベンダー対応の経験が豊富な人も多い。
シニアから貴重なノウハウを吸収しようとする若手の気持ちは十分理解できますし、ノウハウが社内に蓄積されることで当社ももう一段飛躍できると考えています」
「しがらみを気にせず、キャリアの集大成を形にしたい」そんな人に来て欲しい
2022年に入社した角田さんは現在61歳。製品開発部の部長を務めています。前職では大手メーカーに30年ほど勤め、ハードディスクの電気回路設計に携わってきました。
55歳で役職定年を迎え、プロジェクトや業務の引き継ぎが完了したタイミングで、新しい挑戦をしたいと転職を決意。転職先を選ぶうえで大切にしたのはメーカーで長期的に製品に向き合えること、長く働けそうな環境があることの2点だったといいます。
角田さんは当時の転職活動を次のように振り返ります。
「半年ほど転職活動をしましたが、年齢の影響もあり、なかなか選考に通りませんでした。60代前後の人が活躍している会社を探すなかで、メトロール社を見つけました。採用HPでシニアの採用実績や事例を知り、ここなら希望が叶うかもしれないと応募しました。
入社して2年ほどたちますが、世界的に評価される製品開発の第一線で若手と一緒に汗を流せるのは、とても楽しいですね」
メトロール社では現在14名のシニアが活躍しています。過去には当時80歳のシニアエンジニアと新卒2年目の若手エンジニアが開発した製品が東京都ベンチャー技術大賞を受賞するなど、年齢の垣根なく協働が進んでいます。
「年齢があがり役職がつくと、自由に動けなくなる会社も多い。当社であればしがらみを気にせず、シニアでも存分にチャレンジできる環境があります。
『キャリアの最後に集大成を形にしたい』そんな気概がある人は、ぜひうちに来て力を発揮して欲しいですね」と松橋さんは笑います。
メトロール社のシニア採用は、彼らが培ってきた経験・技術を取り入れ、自社の競争力や人材育成につなげる取り組みです。シニアというと働き手不足の解消策と思われがちですが、それだけではありません。自社の成長戦略の一環としてシニア採用を位置づけることで、会社や事業の新たな可能性が見えてくるかもしれません。