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2024年11月20日

#人材不足#副業・兼業#採用

「従業員が働き続けたいと思える会社づくり」で離島×建設業の採用難に挑む

「従業員が働き続けたいと思える会社づくり」で離島×建設業の採用難に挑む

鹿児島本土と沖縄本島のほぼ中間に位置する奄美大島。世界自然遺産に登録される豊かな自然、独自の文化が育まれてきた一方、「高校を卒業したら島外へ」と若者の流出が止まらず、島内企業の多くが人材不足に直面しています。
株式会社グリーンテックもその1社でした。40年以上にわたり建設業を営んできましたが、建設業=労働環境が厳しいというイメージも重なり、人材確保に苦労していました。社長の且(かつ)優藏さんは、父親から会社を引き継いだタイミングで職場改革に着手。休日数増加、ダブルワークOKなど数々の取り組みをおこなった結果、採用成功や組織の若返り、離職防止などの成果が得られたといいます。今回は且さんに取り組みの背景や工夫について伺いました。

  • ● 社名/株式会社グリーンテック
  • ● 所在地/鹿児島県奄美市名瀬浦上町1番地19
  • ● 主な事業/総合建設業(土木・舗装・解体・エクステリア工事など)
  • ● 従業員数/34名(2024年10月時点)
当時の状況
■ 若者は島外に出てしまい、移住者の採用は困難。会社の将来が危ぶまれる状況
取り組んだこと
■ 「ふるさと奄美を次世代へ」を掲げ、数々の職場改革に着手。完全週休2日や有休を取りやすい雰囲気づくり、ダブルワークOKなど
成果
■ 採用も増え、20~30代が従業員の約4割
■ 離職も減り、従業員が自ら知人・家族を「良い会社だから働かない?」と誘うように

「いつか会社が立ち行かなくなる…」ビジョンづくりから職場改革に着手

奄美大島では高校卒業と同時に島外へ進学・就職する人が多く、人口減少や少子高齢化の一因になっています。且さんも関東の大学へ進学、現地で就職しましたが、社会人4年目になった2010年にUターンし、父親が経営するグリーンテック社に入社しました。

「当時若手は私を含めて数名しかおらず、周りはベテランばかり。女性も少なく、昔ながらの建設会社という感じでした。
高卒で島内企業に就職する人はごく僅か。奄美の風土に惹かれて移住してくる若い世代もいますが、そうした人が選ぶのは観光関連の仕事が中心で、建設業は見向きもされません」

2019年、且さんは父親の後を継いで社長に就任。この状況を変えなければ、いつか会社が立ち行かなくなる。その危機感を胸に職場改革に着手しました。まず取り組んだのは会社ビジョンの策定です。

「建設業は道路をつくったり河川を補強したり宅地を造成するなど、地域づくりの重要な役割を担っています。建設業を通してふるさとを次の世代に残していこうという想いを込めて『ふるさと奄美を次世代へ』というビジョンをつくりました」

社内チャットツールや年度初めなど節目のタイミングで必ずビジョンに触れることで、今では従業員にも浸透しているといいます。

「会社として大切にすることをはっきり発信したことで、『何のために働くのか』をそれぞれが意識するきっかけになり、自ら考えて動ける従業員が増えたように感じています」

社長の且さん
社長の且さん。地元の高校生に、建設業の魅力を伝える講義をおこなう様子

休日増 & 有休を取りやすい雰囲気づくりで働き続けられる職場へ

長く働き続けられる職場を目指し、年間休日数の増加にも踏み込みます。それまで週1日だった休日をまずは隔週2日にし、3年間かけて土日休みの完全週休2日を実現しました。
建設業は労働環境が厳しいというイメージを持たれがちですが、これにより施工管理や現場作業員の年間休日数は113日、事務職では124日となり、全業界平均(※)の110.7日を上回りました。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」

「主な取引先である地方自治体や、協業関係にある廃棄物リサイクル業者などは当社の取り組みを歓迎してくれましたが、むしろ社内から不安の声が聞こえてきました。従業員のためにと取り組んだことでしたが、『休みが増える分、給与が下がるのでは』と思わせてしまったようです。
休みを増やせばどうしても受注できる案件は減ってしまうので、その分工事単価アップの交渉を続けており、業績や給与を下げずに済んでいます」

また有給休暇の取りやすさも、且さんが社長になって変わったことのひとつです。有休取得にはそれまで事前申請を求めていましたが、社内チャットへの連絡ひとつで取得できるようになりました。当日や事後連絡も認めているといいます。

「私自身家族との時間を大切にしたいので、子どものイベントなどにあわせて休みを取っています。社長である私が率先して休むことで、従業員も有休を取りやすくなったようで、有休消化率が100%の人もいます」

同社に勤めて13年になる福井さん(仮名)も次のように話します。
「今では子育て中の女性も大勢働いています。子どもの学校行事や急な体調不良があっても、チャットへの連絡ひとつで大丈夫ですし、何より社長が普段から『家族を優先して休んで欲しい』と言ってくれているので、気兼ねなく休めて助かっています」

7名の新規採用に成功。従業員が「良い会社」と誇れるように

働き方が改善した結果、従業員から「休みが増えて空いた時間にアルバイトをしても良いか」という相談が寄せられるように。且さんはこれを快諾。本業に支障が出ない範囲で、終業後の時間や休日などを使って、7名の従業員が飲食店やガソリンスタンドなどでダブルワークをしているといいます。

「採用活動にも良い影響がありました。ダブルワークに興味を持つ人からの応募が増え、2023年度には7名の採用に成功しました。
働き続けられる職場にしようと取り組んだことが、ダブルワークを認めることに繋がり、それが結果として採用に結び付いたのは嬉しい驚きでしたね」

同社では他にも以下のような取り組みが進められています。
・現場からの要望を受け、ドローンを他社に先駆けて導入。施工状況の把握や測量などに利用
・若手育成のために施工管理技士など資格取得にかかる費用を全額補助。取得した場合は手当を支給
・採用活動への効果も期待して、SNSで会社の雰囲気を積極的に発信。SNS利用が進んでいない周辺企業との差別化を図る

「『ふるさと奄美を次世代へ』と謳っている以上、私たちが奄美のトップランナーとして、新しいことに挑戦し続けたいと思っています。
取り組みの甲斐もあって、離職は減り、従業員も満足してくれているように感じます。『良い会社だから働かない?』と知り合いや家族を自発的に誘ってくれる従業員も出てきて、社長としては嬉しい限りです」

グリーンテックフィールド
公共広場の命名権を取得し「グリーンテックフィールド」に。奄美に根差した企業として、地域貢献にも取り組む

且さんの入社当時数名だった若手は増え、今では20~30代の従業員が約4割を占めます。
また同社の取り組みは地域でも注目され、「話を聞かせて欲しい」と他社から相談されることもあるといいます。

業界や地域、会社で続けられてきた「当たり前」を見直し、従業員が働き続けたいと思える会社づくりに取り組むグリーンテック社。
長くその環境にいるからこそ、見落としてしまうこともあるかもしれません。「本当に必要なルールなのか」「もっと良くする方法はないのか」など、意識して自社を見つめなおす機会を定期的につくることも重要ではないでしょうか。