人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2024年09月30日
業務細分化×プチ勤務で13名採用。介護資格者が専門業務に集中できる職場へ
高齢化が進む日本に欠かせない仕事でありながら、慢性的な人材不足にさらされる介護業界。介護サービス従事者は2030年に21万人、2040年には58万人が不足するともいわれています(※)。
京都府舞鶴市の大樹会も人材不足に直面していました。高齢者・障がい者・児童向けなど20施設を運営する地元ではよく知られた社会福祉法人ですが、介護スタッフを募集してもまったく応募が来なかったといいます。打開策を模索するなかで舞鶴市主催の採用セミナーに参加。それをきっかけに「業務の細分化」「プチ勤務」を取り入れた募集を始めたところ、アシスタント業務で20名以上の応募、13名の採用に成功しました。今回は同法人 養護老人ホーム安岡園園長・柴田氏に取り組みの経緯や工夫、得られた成果などを伺いました。
※リクルートワークス研究所「未来予測2040」
- ● 社名/社会福祉法人大樹会
- ● 所在地/京都府舞鶴市字北浜町3-10
- ● 主な事業/入所・訪問介護・デイサービスなど介護関連事業
- ● 従業員数/267名(2019年10月時点)
- 当時の状況
- ■ フルタイムの介護資格者を募集しても応募が来ない。スタッフは減る一方
- 取り組んだこと
- ■ 介護業務を細かく分け「専門性が必要な業務」と「専門性がなくてもできる業務」に分類
- ■ 「専門性がなくてもできる業務」をアシスタント業務として募集。プチ勤務や詳細な業務説明で幅広い世代が応募できるように工夫
- 成果
- ■ 20名以上の応募、13名の採用成功
- ■ 時間のゆとりがうまれ、有資格者が専門業務や利用者とのコミュニケーション、自身のキャリアアップに向き合える職場を実現
新人を採用できず現場は疲弊、不安は膨らむばかり
大樹会ではベテランスタッフが高齢などを理由に退職するなか、ハローワークや就職フェアなどを利用し、定期的にフルタイムの介護スタッフを募集していました。柴田さんは当時の状況を振り返ります。
「3~4年前から応募が少しずつ減り、最近はまったく反応がありませんでした。
ベテランが退職しても、新人を採用できない。現場は忙しくなるばかりで余裕がない。若手を中心にモチベーションの低下も深刻で、今後の不安が募るばかりでした」
柴田さんは何か手を打たなければ…と、舞鶴市が主催する採用セミナーに参加。そこで「業務の細分化」「プチ勤務」という考え方を知ったといいます。
「パートスタッフは以前からいましたが、資格の保持を優先しがちで介護業務を任せるのは難しい、そう思い込んでいました。
セミナーをきっかけに専門性が必要な業務は何か、専門性がなくてもできる業務は本当にないのか、介護業務の細分化に取り組みました」
専門性が必要な業務は3割、残り7割を任せられる人材の採用へ
はじめに介護スタッフとして働く20~30代の若手を中心に、ベテランにも協力を仰ぎながら日々の業務を細かく洗い出し、そのなかで「専門性が必要な業務」「専門性がなくてもできる業務」に整理しました。
「利用者の方と直接かかわる食事・入浴介助などは、資格を持つスタッフがすべて対応すべきだと思っていました。しかし細分化してみて『すべて』ではないと気付いたのです。例えば車椅子で利用者を連れてくる、個人にあわせて食事を用意する、配膳・下膳、清掃などは必ずしも専門性が必要なわけではありません」
思い込みを捨てて棚卸しをしたところ、介護業務のじつに7割は専門性がなくてもできるという結論に至りました。そうしたアシスタント業務を任せる人材を採用し、介護資格者が専門業務や利用者とのコミュニケーションに集中できる環境を目指したといいます。
募集時に工夫したことのひとつが働き方です。大樹会では主にフルタイム勤務を募集していましたが、新たにプチ勤務を導入。「週1日、1日2時間からOK」のように少日数×短時間勤務を可能にし、柔軟な働き方を希望するシニア・ママなど幅広い世代が応募できるようにしました。
また介護施設未経験者に不安・難しそうというイメージを与えないため「11時~13時30分まで食事準備と片付け、食器洗いをお任せします」というように、仕事内容をなるべく詳しく求人情報に盛り込みました。
負荷軽減で介護資格者が専門業務に集中&キャリアアップに向き合えるように
募集を始めるとすぐ反応がありました。60・70代の元気なシニアや、なかには看護師資格を持つ子育て中の女性からも応募があり、最終的に20名以上の応募、13名の採用成功という期待以上の結果でした。
「『仕事内容が詳しく書いてあり、これならできそうだと思った』『勤務時間が短く区切られていて、自分の都合にあわせて働けそうだった』などの理由で応募してくれた方が多かったですね。
看護師資格を持った方は今はパート勤務ですが、『これならもっとできる』と、お子さんが大きくなったらフルタイムで働きたいと言ってくれています」
またスタッフ間で溝がうまれないよう「介護スタッフ」「アシスタント」と職務の違いによって呼び方を分けず、「生活支援員」に統一したことも工夫のひとつです。
「利用者の生活を豊かにするために力を合わせるのだから、呼び方による変な線引きはやめよう、と。こうした職場の一体感もあって、今回採用したパートスタッフからも『フルタイムでなくてもできることは何でも協力したい』と前向きな声が出ています」
パートスタッフの活躍により時間のゆとりがうまれ、介護資格者が専門業務や利用者とのコミュニケーションにより向き合えるようになったといいます。
「特に変化があったのは食事の時間です。これまでは利用者が食べ終えたら、急いで片付けて洗い物をしてという状態でしたが、今ではパートスタッフが対応してくれるので、資格を持つスタッフは『味はどうだったか』『食べづらい・飲み込みづらくなかったか』など利用者にじっくりヒアリングできています」
思わぬ収穫もありました。今回の取り組みが、各スタッフが自身の専門性を見つめなおすきっかけになり、毎年実施しているケアマネジャー資格講座の参加者が例年2~3名のところ、今年は若手12名が希望したといいます。
「資格や知識がないと働けない」本当にすべての業務がそうでしょうか。大樹会ではこれまでの思い込みを捨て、介護業務を細分化し、専門性が必要・不要な業務に整理。専門性不要な業務を任せる人を採用することで、介護資格者が専門業務に専念できるようになっただけではなく、自身のキャリアアップに向き合うゆとりもうまれました。
有資格者や経験者が思うように採用できない。そうした悩みを抱える企業の皆様、今回の事例を参考に自社業務を今一度捉えなおしてはいかがでしょうか。