人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2023年01月04日

#人材不足#介護・福祉

社会保険適用拡大でさらに人材不足?パート職員の将来に向き合い解決へ

函館大庚会

今回クローズアップするのは介護施設を運営する「函館大庚会」

2022年10月より社会保険の適用範囲が変更となり、従業員規模501人以上、雇用見込期間1年以上から、101人以上と2カ月以上に対象拡大されました。さらに2024年10月には、従業員51人以上へ適用拡大されます。
これに伴い、9カ所の介護施設を運営する函館大庚会では、対象となるパート職員と個別面談を行い、単に社会保険加入意向を確認するのではなく、パート職員の働き方を一緒に考えた上で、適用拡大に対応しています。その取り組みについてご紹介します。

  • ● 法人名/社会福祉法人 函館大庚会
  • ● 設立/2003年
  • ● 職員数/190名(2019年10月現在)
  • ● 事業/各種介護施設の運営・介護サービスの提供
    (介護老人福祉施設、短期入所生活介護、地域密着型通所介護、訪問介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設、小規模多機能居宅介護)
  • ● 本社所在地/北海道函館市松風町18番15号

「函館大庚会」の事例から学ぶ人材活用のポイント

ポイント1 「人材不足になるのでは…」現場責任者の不安に向き合う
パート職員とのやりとりを各施設任せにせず、本部が主導しながら各施設と役割分担する
ポイント2 「手取りが減るのでは…」パート職員の不安に向き合う
現状の労働時間で何が変わるのか、労働時間が変わるとどうなるのか、具体的試算を基に説明する
ポイント3 パート職員の将来やスキルアップを見据えた面談
職員の現状にとってどういう働き方が適切か、その働き方を選択することでどんな将来像が描けるか、一緒に考える

「職員が週20時間未満に抑えたら、現場に穴が空く」現場責任者の懸念を払拭するため、職員と個別面談を実施

函館大庚会が運営する各種介護施設では、多くのパート職員が働いています。同会において、今回の社会保険適用拡大の対象となるパート職員は15名いました。

同会・法人本部の山口氏(仮名)は言います。
「施行の半年前になる2022年の4月に入った頃、各施設を管理する現場責任者から本部へ、社会保険適用拡大の詳細について問い合わせが入るようになりました。
主には、
『週20時間以上で社会保険適用となり保険料を支払う必要が出てきたら、手取りを維持するために20時間未満に抑えるパート職員が増えそう』『パート職員の労働時間が少なくなるとやり繰りが難しい。代わりの人材を新たに採用しないといけない』
といった、人員配置に関するものです」

今回の適用拡大の対象となるパート職員が多く従事していたのは、厨房の調理。次いで短時間の介護スタッフです。週5日、9時~14時(週25時間)勤務のパート職員が週20時間未満に抑えるには、1日の労働時間を1時間以上削るか、休みを1日増やすしかありません。
十分な人員で回しているわけでもない介護施設現場で誰かが欠けると、負担が別の職員にのしかかることになります。現場責任者の懸念は当然でしょう。

「現在扶養内で働くパート職員にとっても、社会保険加入で手取りが減ることになります。同じ働き方なのに、手取りが1万数千円引かれると聞けば、職員はびっくりですよね。『だったら週20時間未満で…』と考えるのも無理はありません」

介護業界における人員確保は容易ではなく、人材が不足したからといってすぐに補充できる状況ではありません。現場責任者としては、スキルも確かで職場風土も理解している現状の職員に頼りたくなります。一方、手取り減少に不安を覚えるパート職員の心情も理解できます。
現場責任者とパート職員、双方が抱える不安や懸念を解消するため、各施設任せにせず、本部と各施設で役割分担することで対応しました。

シミュレーションを交えた詳細な説明が、職員の理解を深める

「現場責任者に全てを任せてしまうと、彼らにかかるプレッシャーが重すぎます。現場責任者全員が制度の詳細を理解するだけでも大変な上、説明する者によって話す内容が微妙に違う…ということがあってもいけません。そこで、各施設にお願いしたいことと本部対応することを明確にし、役割分担することにしたのです」

2022年8月、本部から全職員に、今回の法改正の趣旨をメールで広報し、啓発活動を開始。厚生労働省の配布するリーフレットを施設単位で用意し、職員に見てもらうよう促しました。
現場責任者には、パート職員の意向をざっくりつかみ、本部に報告するよう依頼しました。加入について迷いや不安を抱えるパート職員がいれば、本部が直接連絡を取り、電話や対面による個別の面談を通じて不安の解消に努めました。

「パート職員との個別面談では、『現状の勤務時間はこれで、この時間だと社会保険の等級はここに該当する、そして手取りはこうなる』とシミュレーションも交えながら細かく説明しました。試算を見ながら話をすると、不安が解消され、冷静に判断できるようになったようです」

育児・家事を抱える職員にとっては、1時間の勤務延長も難しい

手取り減少をカバーするには、労働時間を伸ばす必要があります。シニア世代の職員を中心に、「年金が増えるなら」と加入を柔軟に受け入れてくれ、結果的には対象者の半数近くが社会保険加入を選択しました。

しかし、未就学児・低学年児がいるパート職員にとっては、1時間の勤務延長も簡単ではありません。未就学児を育てる職員のために、本会内では保育所も開設しています。保育所を利用すれば、こういう勤務ができるのではないか、この曜日なら1時間勤務が伸ばせるのではないか。今は加入したとしても後で外れることもできるし、後から入ることもできる。今すぐの決断でなくとも、知っておいて欲しい。山口氏のそういった細かな説明により、職員は理解を深めていきました。

「若い世代は、やはり悩んでしまいますよね。育児・家事など、帰宅後もやることがたくさんあるし。だからこそ、配偶者の扶養の範囲での勤務を想定しているのですから。年金も、若い世代には遠い先の話で、すぐに実感できるものではありません。
でも面談の中で、若い世代の職員からも、『育児が一段落したらもう少し長い時間で働きたい』『将来的にはフルタイムでの働き方をしたい』といった意見も聞けました。確約のない話ではありますが、彼らの今後の働き方について希望を把握することができただけでも、面談を行う意味は十分にありました」
と山口氏は微笑みます。

加入しなかった人は労働時間を減らすことになるものの、これまで同様、職場で活躍してくれます。充足できたわけではありませんが、職員の労働時間減少による各施設の人員不足という事態を回避し、支障なく業務遂行できる環境を整える、という最低限のハードルは乗り越えられました。

入所者の方と一緒にストレッチ
入所者の方と一緒にストレッチ

パート職員にも、新たな業務にチャレンジできる、ということを啓発していきたい

今回は、適用開始が間もなく、という事情もあり、勤務時間や手取り増減の話が中心でした。しかし今後は、話す内容を吟味し、議論の質を高めたい、と山口氏は語ります。

「今後の働き方の希望を聞けたことで、新たな業務を任せるきっかけにもなります。『従来と同じ内容でいい』と言う職員もいますが、新しい業務を任せてみると、ここまでできるのだな、と自信が芽生えることも往々にしてあるもの。労働時間を増やした職員にとっては、労働時間を増やすことが手取り維持・増加だけでなくスキルのアップにつながれば、それこそ職員にとって大きな財産となるのではないでしょうか」

食事介助しかやっていなかった職員が、入浴介助をこなすようになることで、施設利用者との接点が増えます。利用者から感謝される機会が増えると、職員のモチベーションも上がるはず。社会保険加入をきっかけに将来を見据えた会話をすることで、職員のスキルアップや介護サービスの質向上にもつながります。

「本会では、介護職員初任者研修を本会内で実施できるよう、環境を整備しているところです。研修を修了すれば担当できる業務範囲が広がりますし、時給が上がるので報酬にもかえってきます。
今回は、手取りを増やすためには労働時間を増やすという選択肢しか与えられませんでしたが、初任者研修を修了して労働時間を増やさずに手取りを増やすという選択肢も用意することができれば、若い世代の職員にとっても働き方の選択肢が増えるのではないかと思います。数年後、『資格取得をしてできる業務を増やしたい』という職員が出てきても慌てることのないよう、サポート体制を整えたいですね」

勤続10年の表彰を入所者の方にもご報告
勤続10年の表彰を入所者の方にもご報告

短時間労働者への社会保険整備は、人材採用面でも有利になる可能性が高い

社会保険適用拡大への取り組みは、人材採用の面でもプラスになる、と山口氏は見込んでいます。

「短時間労働者であっても社会保険に加入できる、前向きにその対応をしている施設と認知されることで、応募者や人材紹介会社の方からも安心してもらえると感じます」

新たな人材の確保に。あるいは、現在働く職員たちのスキルアップに。そして多様なキャリアステップの整備につなげていきたい、と抱負を語る山口氏。
そうした視点と努力の積み重ねが、函館大庚会における介護サービスの質の向上、お客様満足にもつながっていくでしょう。