人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2021年12月09日
地域の雇用課題解決に見る新たな採用手法へのチャレンジ ~スポットバイト人材の活躍、採用サイトの立ち上げ~
少子高齢化による人口減少で、人材不足は国全体で大きな問題となっています。さらに地方では大都市圏への人口流出で働き手の減少が続くなど、基幹産業の担い手不足や高齢化がより深刻になっています。
こうした課題を受け、地方自治体による、民間企業と連携して人材不足の解消を目指す取組みが増加しています。そのうち、人材確保に成功した2つの事例として、青森県で農業を営む芋田さんと、宮崎県川南町の株式会社エム・ティー・シーを取材しました。
- ● 事業者名/芋田 一弘
- ● 創業/2011年に後継
- ● 事業/農業(約8haの農地で長イモ、ゴボウ、ニンニクなどを生産)
- ● 社名/株式会社エム・ティー・シー
- ● 創業/1975年9月
- ● 本社所在地/宮崎県児湯郡高鍋町大字上江163-1
(川南工場:宮崎県児湯郡川南大字川南24128番地) - ● 資本金/600万円
「芋田 一弘様」「株式会社エム・ティー・シー」の事例から学ぶ人材確保のポイント
- 新しい採用手法にトライ
- スキマ時間のアルバイト募集サイトの活用や、自社採用サイトの立ち上げ
- 未経験者がすぐに活躍できる業務分担
- 未経験者が初日から活躍できるように業務を分担
- 応募者の「知りたい」に採用サイトで応える
- 応募者にとって入社の決め手となる情報を、採用サイトで強調して発信
農業での短期間、短時間の採用に成功
農業が盛んな青森県では、農業人口の減少や高齢化が特に大きな課題となっています。農業は一般的に時期による繁閑差が大きく、例えば、家族や知り合いに収穫時期だけ協力してもらうといった形で人材を確保することがありますが、「業務によっては体力的に不安」「生産を拡大するには人手が足りない」といった農家が増えています。
そこで、青森県商工労働部新産業創造課は、デジタル技術の活用で地域課題の解決を図るため、シェアリングエコノミー(※)の活用によって、労働力を確保したい農家と短期的に働きたい求職者のマッチングを図る実証事業に取り組みました。実証事業では、エントリー社と連携し、短期間かつ短時間のアルバイト(いわゆる「スポットバイト」)を募集するネットサービス「シェアジョブ」を活用して、幅広い人材にアプローチを行っています。
※シェアリングエコノミーとは、インターネットを通じて、モノや場所、スキルなどの提供を行う経済活動のこと
エントリー社の福住さんは、取組みについて次のように説明します。
「農家の方向けに広告や電話で事業案内を始めた当初は、『ネットサービスはよく分からない』という反応があったので、1軒ずつ訪問し丁寧にサポートしながら導入を進めていきました。使い方を覚えていただければ、都度の募集開始や募集内容の修正はご自身でできるようになります。インターネットで短期間や短時間の採用をしたことがなかった農家でも、一度利用すれば計画的に求人募集ができるので、2021年度の利用農家の数は2020年と比べて4倍、リピート率は91%になりました」
また、実証事業の開始前は、これまで若者や未経験者の採用例がなかった農家の方から、慣れない採用に対する不安の声があったそうです。しかし、実際に大学生を含む20~40代の未経験の方とマッチングして、「ハキハキと真面目に働いてくれた」と農家の方の反応がポジティブになったことも大きな成果だったそうです。
ベテランとの役割分担で未経験者が活躍、業務も効率化
この取組みで人材確保に成功した、長イモやゴボウ、ニンニクなどを生産する芋田さんにお話を伺いました。
芋田さんの農場では、春・秋の植え付けや収穫の時期は家族だけでは人手が足りないため、知り合いに手伝いに来てもらっていました。全員が60~70代のベテランで、作物の選別など専門的な業務では心強い一方、重いものを運ぶなど安全を考慮する業務は慎重に進める必要がありました。また、生産を拡大していくとなると、そもそも現在の人手では足りません。
知り合いのつてなどでは人材確保が難しい状況が続く中、2021年9月に青森県の情報発信を通じてこの取組みを知り、1日数時間の募集を開始したところ、30~40代の農業未経験者2人の採用に至りました。
採用して良かったことを芋田さんに聞きました。
「新しく採用した方に、収穫したゴボウを運ぶなど未経験でも取り組みやすい作業をお任せできました。その結果、ベテランスタッフは専門的な選別作業などに集中できるので、作業を安全に、効率的に進められるようになりましたね。
また、比較的若い方が入ることで職場の雰囲気が変わりました。ベテランの方は、自分とは違う世代の人に話しかけたり、作業を教えたりすることで新鮮味を感じているようです」
採用された方には、副業として応募した方もいたそうです。応募者から見ると、予定の合うときに短い時間だけ働けるので、通学や家事、本業に従事しながら農業にチャレンジすることができます。また、同じ農家に応募することもできるので、少しずつ仕事を覚えていけばステップアップにもつながります。
スポット採用が農業の後継者作りをはじめ地域課題の解決につながる可能性も
芋田さんは、今回の取組みが農業にチャレンジする方を増やすきっかけになると期待しています。
「新しい人材を迎え入れることで、事業規模を大きくできたり、安定した経営ができたりすると、法人化を考える農家も出てくると思います。法人化すれば新しい人が『農業をやってみよう』と思える安心感が生まれますし、後継者作りにつながる可能性があります」
青森県商工労働部新産業創造課の藤田さんは、この取組みの展望についてこう語ります。
「今回の実証事業では、農業における労働力不足を課題として設定しましたが、シェアリングエコノミーは、就業機会の創出だけでなく、子育て支援や地域の交通利便性の確保、防災など地域が抱える様々な課題を解決できる可能性があります。このため、デジタル技術の活用で地域課題を解決する新たな取組みが生まれていくことを期待しています」
採用サイトを立ち上げてより多くの人材と出会う
宮崎県川南町でも、同様の課題に対する取組みが進んでいます。
町内の企業からは「人材が確保できない」「採用の仕方が分からない」といった声があり、特に町の主要な産業である農業や製造業では人手不足が続いていました。こうした課題に対して、2020年2月に同町は採用サイトの活用推進を図るため、リクルートと「川南町の地域活性化に向けた地域定着と雇用促進に関する協定」を締結し、「Airワーク 採用管理(当時は「ジョブオプLite」)」の活用を町全体で進めてきました。
「採用サイトの立ち上げを通じて、今までの採用活動ではアプローチできていなかった人材との出会いを創りたいと考えました。町との協定が安心材料になり、サービスの説明からご理解いただくまでスムーズに進めることができました。取組み開始から1年半が経過し、現在は、町が推進している主婦の方のテレワークを通じて、求人情報を魅力的に作る工夫も進んでいます」
とリクルート行政・地域共創グループの田尻さんは話します。
この取組みに参加した株式会社エム・ティー・シー(鶏肉加工業)の大平さんにお話を伺いました。
川南町には食品加工の会社が多く、大平さんは採用競争の厳しさを感じていました。これまで年平均2名程度の採用ができていたものの、商品の量や種類を増やして事業を大きくしていくには足りません。また、業務によっては職人的な技術が必要なものもあり、入社した方には長く働いてほしいと考えていました。
そんな折、川南町の推進もあり、2020年4月に初めて自社の採用サイトを立ち上げます。サイトコンテンツや求人情報は、大平部長(息子の政孝さん)と協力して作り上げました。
取組みの成果について、大平さんはこう語ります。
「この1年間で8名から応募があり、そのうち4名の主婦の方に入社していただけました。採用が難しくなっている中で、採用サイトの設置により今までよりも多くの方に求人を見てもらえたことが実感できました。業務の性質上、主婦の方の目線を多く取り入れたいと考えていたので、狙い通りの採用活動ができたと思います」
応募者の「知りたい」に採用サイトで応える
採用成功の要因について今までの採用活動との違いを聞くと、職務経験や勤務時間、休暇など面接でよく聞かれることを詳しく盛り込んだことが挙がりました。
具体的には、小さな子供のいる方でも安心して働けるよう、勤務時間の融通がきくことや急なお休みにも対応できることを記載したり、インタビュー形式で分かりやすく表現したりするなど試行錯誤を続けているそうです。
大平さんは、こうした工夫のきっかけをこう振り返ります。
「これまで働いてきた経験の中で、休みたくても言い出しにくそうにしている社員を見かけたことがきっかけで、急な休みでもお互いに笑顔で受け入れられる職場が理想だと考えるようになりました。面接でも応募者が言い出しづらそうなことは質問される前に話すようにしているんですよ。例えば、工場の環境も当日見学してもらい働けそうかを確認してもらいます。
採用サイトでもその観点で積極的に伝えてみることにしました」
今回の取組みで2021年8月に入社された平塚さんにもお話を伺いました。
前職は接客業で働いていた平塚さんは、違う業種にチャレンジするために仕事探しを始め、1カ月半ほど求人を探したり面接を受けたりしたものの、勤務時間と仕事内容が合わず、転職先が決まりませんでした。
そんなときに目に留まったエム・ティー・シーの求人を見て、「勤務時間が希望にピッタリで、未経験の自分でもできそう」と面接を受け、採用が決まりました。
平塚さんに、実際に2カ月間働いてみた感想を聞きました。
「勤務時間が合っていてお休みも柔軟に対応してもらえています。接客業も楽しかったのですが、今は黙々と作業に集中できる環境で、自分に合っている仕事だと感じています」
大平さんも、「仕事の飲み込みが早く、串刺し作業はベテランの領域です」と太鼓判を押します。
川南町役場まちづくり課の甲斐さんに、この取組みへの期待について聞きました。
「採用サイトの立ち上げがさらに進むことで、地域の方に対してより多くのマッチング機会が生まれることに期待します。また、川南町では移住を促進しており、移住を希望される方にも沢山の求人情報を案内できる状態を作りたいと思っています」
企業の採用課題、ひいては、地域の雇用課題に対して、様々なアプローチがあることが分かりました。どちらの事例にも共通しているのは、今まで出会えなかった人材と出会うために新たな採用手法にチャレンジしたことです。スポット採用や採用サイトの他にも、まだ試していない手法や工夫があるのではないでしょうか。
また、それぞれの事例から見えたヒントには、「応募者が知りたいことを伝わるように発信すること」「未経験でもすぐに働き始められるように、まずは業務の分担をハッキリさせておくこと」がありました。採用課題や雇用課題の解決にぜひお役立てください。