人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2021年09月29日

行動や考え方の軸になる指針の浸透で、スタッフの定着を促進

株式会社恵の会のスタッフの方々

人材の定着は、介護業界全体が抱える課題の一つと言えるでしょう。大分県内で、住宅型有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅など11施設を展開する「恵の会」は、「経営の羅針盤」と呼ばれる行動指針を浸透させることで、定着促進を実現しました。「経営の羅針盤」を軸にスタッフのモチベーションをどうアップさせていったのか。施設統括責任者の八重垣 和弘さんと、総務2課係長の園田 欣史さんにお話を伺いました。

  • ● 社名/株式会社恵の会
  • ● 創業/2010年3月
  • ● 本社所在地/大分県大分市千歳1770番地5
  • ● 資本金/300万円
  • ● 従業員数/360名

「恵の会」の事例から学ぶ人材定着率アップのポイント

行動や考え方の指針として「経営の羅針盤」を導入
行動や考え方の指針を全社員で共有することで、目標を立てるときや仕事で困ったときに立ち戻る軸を作った
仕事を自分事として捉える意識変化
「経営の羅針盤」に沿った目標設定や研修などの取り組みで、自分で考えて行動する力を身につけるサポートを行った
指針の体現者を表彰しモチベーションアップ
指針を本質的に理解し、体現しているスタッフを対象に表彰制度を実施。モチベーションアップにつなげた

新人スタッフへのケアや採用に関する現場との連携が課題だった

「恵の会」では、新人スタッフの定着が課題で、数年前まで様々な取り組みを続けてきました。
当時は、事業本部が各施設を含めた全ての人材採用を担っており、各施設長と相談して求める人材を確認するなどの工夫は凝らしたものの、大幅な改善効果は出せなかったそうです。
退職に悩むスタッフにヒアリングしたところ、同じ仕事でも人によって言うことが違う、分からないときに相談する場がない、放置されたような状態が続き不安、という声があがってきました。

「トップダウン型の採用方式を採ったことで、施設側にとって人材育成はどこか他人事という意識が生まれてしまったのかもしれません」と、施設統括責任者の八重垣さんは振り返ります。

施設統括責任者の八重垣 和弘さん
施設統括責任者の八重垣 和弘さん。「経営の羅針盤」の推進を担当

仕事で迷ったときに立ち戻る行動指針として「経営の羅針盤」を導入

この状況を打開するきっかけとなったのは、寺田 明生社長が4年前の就任時に導入した「経営の羅針盤」でした。
「経営の羅針盤」は、「サービスを受ける人、提供する人、そして地域の人を幸せに」という、「恵の会」の理念、果たすべき役割に基づいた行動指針を定めたもので、寺田社長自らが作成。会社理念や各年度の方針のほか、お客様、環境整備、サービス、チームケア、コミュニケーションなどの方針が盛り込まれています。

「いわゆるルールブックのような、無条件に従えばうまくいくという内容ではありません。仕事の判断軸やヒントになる内容で、悩んだときに立ち戻ることができる、まさに“羅針盤”としての役目を果たしています。例えば、『職場環境を常に整えていると、お客様のちょっとした変化に気付ける』『新人スタッフに単に指示を出すだけではなく、仕事の目的や目標を理解してもらうとより良い成果が出せる』といった内容です」(八重垣さん)

食事介助の様子
食事介助の様子。「恵の会」の採用基準は能力・資格重視ではなく、人物重視

「経営の羅針盤」を活用して、自分で考えて行動する力を身につける

「経営の羅針盤」は、表面的な言葉を読むだけでは実践につながりません。本質を理解して日々の行動につなげるため、どのように浸透させていったのでしょうか?
自らが考えて行動することを促すという明確な狙いをもって、羅針盤に沿った目標設定や研修を積み重ねることで浸透を図りました」と4つの具体的な活用例を交えながら、八重垣さんは解説します。

①施設の月間目標設定
各施設で「経営の羅針盤」から一つ項目を選び、1カ月間の目標にしています。例えば、「ものの向きをそろえるとお客様の変化に気付ける」といった項目を、自分の業務で実践し、発見や学びを施設内で共有します。
毎日「よくできていたポイント」などポジティブな振り返りを行い、日々の習慣に落とし込むことで、浸透を図っています。

②スタッフの四半期目標設定
「経営の羅針盤」を基に、3カ月ごとにスタッフが自分の目標を設定します。施設長やフロア長との評価面談では、スタッフ自身が自分の言葉で振り返って現在地を確認・共有し、上司から目標達成に向けたヒントを受けます。上司からのアドバイスは、あくまで自分で考えて行動するためのサポートという観点で行います。

③施設長の月間目標設定
施設長の目標設定・振り返りでは、寺田社長が各施設長と直接やりとりをして、「経営の羅針盤」を踏まえながら成果報告やフィードバックを行います。施設長への理解を促すために、園田さんと八重垣さんがメールのCCでその内容を確認し、社長が発した言葉の意味を施設長にかみ砕いて説明することもあります。

④各施設での研修
「経営の羅針盤」を基に、寺田社長が各施設で直接研修を行っています。当初は、エリアに分けて研修を実施していましたが、施設によって抱えている課題や浸透度が異なるため、現在では社長自らが各施設を訪問して実施する形になりました。

「③と④の取り組みは、主に施設長の当事者意識を高めることを目的とした取り組みです。指針は『経営の羅針盤』で示されているものの、具体的な行動、やり方については施設長が考えるという舵取りに変わったため、指針では表現できないことや不安がないかを確認する必要があります。施設長の理解度が高いと、スタッフにも自然と浸透して定着につながる傾向が出ています。羅針盤の理解が人材定着の肝になるわけですから、自然と社長も力が入りました。毎月11施設をくまなく回って浸透を図る熱心さでした(笑)」

こうした各施設とのやり取りを踏まえて、「経営の羅針盤」を毎年バージョンアップし、配布しています。

取り組みを始めた当初は、「経営の羅針盤」に書かれていることよりも、自分の経験を優先してしまうスタッフが多かったそうです。「『経営の羅針盤』に立ち戻れば、ゼロから考えるよりも早く楽に問題を解決できる」というメリットに気付き始めてからは、徐々に浸透が進みました。

笑顔のスタッフの方々
自衛隊、サービス業、工場勤務などスタッフの前職は多種多様

採用や定着促進のための主体的な取り組みが生まれる

日々の業務だけでなく、採用についても各施設から「こんな人材にこう活躍してほしい」といった声があがるようになり、面接などの採用プロセスに施設長が主体的に参加する方法に変わりました。
課題だった新人スタッフの定着促進には、「経営の羅針盤」に書かれている「フレッシュな目がおざなりになってないですか?」という項目を参考に、フォロー社員制度を導入しました。

「以前は、ベテランスタッフが新人スタッフのフォロー係を担当していましたが、新人スタッフの気持ちが分からず、『一生懸命に寄り添ったけど、なぜ退職してしまったんだろう』という声も。勤続年数の少ないスタッフの方が、新人の気持ちが理解しやすいのではないかという意見から、勤続1年未満のスタッフを中心にフォロー係をお願いすることにしました。フォロー係にとっては、入社して学んだことを、教えることを通じてアウトプットできるというメリットもあります」(園田さん)

総務2課係長の園田 欣史さん
総務2課係長の園田 欣史さん。全事業所の業務と採用を担当する

「経営の羅針盤」をうまく活用できないスタッフをケアする取り組みも生まれており、「職員定着委員会」が立ち上がりました。

「現場スタッフが主体となり『職員定着委員会』を設立。仕事で悩んでいる人をあえて会の中心に置き、打開策に向けて議論を重ねました。
最近は、この職員定着委員会のように、スタッフの間から意見やアイデアが積極的に上がるようになりました。例えば、『 “地域の人を幸せに”という、企業理念があるのだから、デイサービスの空いた枠を地域の人にも使ってもらえるようにしたらどうか?』とか『地域の人も参加できる夏祭りはどうか?』といった声など。『経営の羅針盤』の導入により、仕事を自分事として捉える流れができてきているのだと思います」(八重垣さん)

縁の下の力持ちにスポットを当てる、表彰制度を導入

スタッフが前向きな姿勢で仕事に取り組めるよう、日々の頑張りを正しく評価することも大切です。「恵の会」では、日々「経営の羅針盤」を体現している人を施設長が主体となって選出し、毎月表彰する制度を設けました。

「環境整備だったり、挨拶だったり、目立たないところで施設を支えている、縁の下の力持ち的な人に、感謝の気持ちを伝えたいと思ったのが、この表彰制度のきっかけです」(八重垣さん)


「恵の会」では、仕事で悩んだときに立ち戻る指針を作り、自分で考える力を身につける取り組みを実践しました。これにより、現場が当事者意識を持ち、仕事に対するモチベーションを高めることに成功し、スタッフの定着促進に効果を上げることができました。同じ悩みを抱えている職場の方は、成功事例の一つとして「恵の会」の取り組みに注目してみてはいかがでしょうか。