人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2021年02月26日

コロナ禍をチャンスと捉え、人材育成を進めた町工場の働き方改革事例

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今回、クローズアップする人材活用の事例は「フジイ金型」

マクロ環境の変化により、人材不足の問題が深刻化しています。中でもスキルの習得・継承に長い時間を要する町工場にとって、若い人材の獲得は重要課題のひとつ。愛知県の総合金型メーカー「フジイ金型」は、コロナ禍という逆境のタイミングで働き方の変革に着手し、人材活躍につながる魅力的な企業基盤を作り出しています。取り組みの背景について、社長の藤井寛達さんに伺いました。

  • ● 社名/株式会社フジイ金型
  • ● 創業/1976年(昭和51年)3月
  • ● 所在地/愛知県丹羽郡扶桑町大字南山名字名護根106
  • ● 資本金/1,500万円

次の世代を担う人材確保と人材育成が事業継続のカギ

ものづくりの現場では、若手の人材確保はもちろんですが、従業員の育成も事業継続に欠かせない課題です。フジイ金型も他の製造業と同様の悩みを抱えていました。「従業員の仕事に対するモチベーションアップや、成長につながる企業基盤を作るにはどうすればいいかをずっと思案していました」と藤井社長は言います。
しかしながら、コロナ禍以前は経営が順調だったこともあり、喫緊の課題にはならず、失敗を恐れる」社内の風潮もあり、実現に至ることはありませんでした。

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藤井社長は2代目。2012年に代表取締役社長に就任。

リーマンショックの教訓が、コロナ禍での企業課題解決のきっかけに

順調だった経営は、新型コロナ流行のあおりを受け一変。受注はコロナ禍の前年比約20%減に落ち込み、瞬間的には半減に近い状態に。一時帰休を実施し雇用調整助成金を活用するなど、雇用調整せざるを得ない状況になりました。
藤井社長はチャンスとばかりに、課題だった企業基盤の改善に乗り出します。コロナ禍に対して守りに入る企業が多いなか、このタイミングを選んだ理由には、リーマンショックで学んだ教訓があったと言います。
「当時は、父が社長を務めていましたが、今のコロナ禍と同じように、受注量や生産数が減っていくのを肌で感じていました。当時、父は景気が回復した後、落ちた生産数が急激に伸びると予測し、設備投資をやめませんでした」。その教訓を活かして、コロナ後に向けた取り組みを始めました。

プライベートの充実を望む従業員の意見を反映した働き方改革を実行

藤井社長が着手したのは、働き方の変革でした。打ち出したのは、「6稼4勤(ろっかよんきん)」という新たな勤務体制月~土までの6日間を稼働日とし、そのうちの4日間を出勤日とするというシフト制の働き方です。
「以前から、雑談レベルで『給料が上がるのと休みがとりやすいの、どっちがいい?』と従業員に聞いていたところ、若手、ベテランともに多かったのが『給与が上がって忙しくなるよりも、残業時間を減らしてプライベートを充実させたい』という答えだったんです。
それなら、と導入を決めたのがこの働き方。従来の週休2日制(土日休み)から6稼4勤のシフト制にすれば、休日数が増えます。労働時間を減らし、給与を今と同水準でキープすることで、単位時間当たりの生産性の向上と従業員のモチベーションアップの両方に効果があると考えたのです」。

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金型の構想図や部品図の設計、作図を担う金型設計部門での打ち合わせの様子。

6稼4勤の就業体制は、藤井社長のトップダウンでスタートしました。社内ではどのような反応があったのでしょうか?
「休みが増えてうれしいという声があれば、土曜日に出勤することへの不満も。さまざまでしたね。
“密を避ける”といったコロナ禍の制約を逆手にとるなどして、ポジティブな雰囲気を作りながら推し進めました。トップダウンではあるのですが、組織がどの程度順応してくるのか様子を見つつ、ダメだったら元に戻せばいいやという気持ちで。この状況なので、“失敗しても仕方ない”と言い訳できるというのもありましたが(笑)」。

コロナ禍に対応した新しい働き方で得られたものとは?

働き方を変えてから半年が経過した今、藤井社長は“現場力の活性化”を肌で感じていると言います。
「若手社員を対象に、部署ごとで月に1度レポートを提出するようにしているのですが、以前に比べると『納期に間に合わせるにはどうすればいいか』『効率よく進めるには何をすべきか』といった内容が多く見られるようになりました」。
労働時間が減った分、タイムマネジメントや仕事の進め方の見直しを自発的に考えるようになった証拠だと藤井社長は捉えます。

また、シフト制による分散勤務は、1人で複数の業務を担う“多能工”を促すきっかけにもなりました。誰かが休んだとき、担当外の従業員が業務をフォローする必要が出たことで、従業員同士が情報やスキルを共有し合う相互補助の機会が増えたのです。新たなスキルを学ぶことは、従業員のキャリアアップにつながります。
もうひとつ、社内課題だったコミュニケーションの解消にも効果がありました。
「効率性重視で、業務の細分化を進めていたこともあり、同じ部署だけで業務が完結してしまうなど、社内のコミュニケーション不足も社内課題のひとつでした。多能工化が進んだことにより、他の部署との交流が生まれ、コミュニケーションが活性化しつつあります」。
意識の変化はリーダー層にも及びました。
「各部門のリーダーが休んだ時に、サブリーダーやリーダー代理が自発的に考え判断するケースが増え、現リーダー層も『自分が不在でも回る組織にしなくては!』という意識をより強くするようになったようです」。

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800tonまでの鋳造機に対応したダイカスト金型の設計、製造、加工、修理を行う。

失敗しても修正すればいい。長い目で見守り、働き方改革を推進

現在の「フジイ金型」の年間休日は119日。コロナ禍による対前年15%減の受注量には問題なく対応しているそうです。藤井社長はこの状況について、こう話します。「従業員ひとり1人が自発的に働くようになったことの証拠です。納期の遅れもないし、品質トラブルの割合も以前と変わらず、焦りによるケガなどの報告も受けていません。今のところデメリットを感じていないので、このまま続ける予定です」。
不安定な状況(ピンチ)を逆手に、近未来の希望(チャンス)に変えた藤井社長。来期の年間休日は130日以上になり、ゆくゆくは140日を目指しているとのこと。
「町工場の業務は、じっくり、ゆっくり習得するのが特徴です。新型コロナがこの先どう影響していくかわかりませんが、長いスパンで様子を見ながら、問題があれば適宜調整していきたいと考えています」。