人材活用事例 「わが社の"いいね!"」
2019年08月28日
外国人スタッフの早期ひとり立ちを生み出す、安心して働ける環境づくり
今回クローズアップする人材活用の事例は「泰泉閣」
外国人観光客は増加の一途をたどり、ますます注目される日本の宿泊業界。最近ではリピーターも増え、都市部だけではなく地方の旅館にも外国人観光客は訪れます。そこで今回は、地方の旅館(73室)における外国人スタッフの活躍、早期ひとり立ちを生む職場として、福岡県の泰泉閣を取材しました。
- ● 社名/株式会社泰泉閣
- ● 創業/1949年4月
- ● 所在地/福岡県朝倉市杷木志波20
外国人スタッフ活躍の鍵は、入社後ギャップの軽減、採用面接は特に丁寧に
福岡県の中心地、博多から車で約1時間の場所にある温泉宿「泰泉閣」は、従業員数約130人のうち9人が外国人スタッフ。主にフロント、接客業務で、中国、韓国、台湾、ネパールの4か国のスタッフが活躍しています。外国人スタッフは母国からのお客様はもちろん、英語などを使用して多くの外国人観光客や日本人のお客様への接客も幅広く行えるため、現在は泰泉閣になくてはならない存在だと接客支配人の下野さんは話します。
しかし、外国人スタッフが活躍する現在に至るまでは数々の失敗から得る学びの連続だったともいいます。
「以前、高校生新卒を5人採用したことがありました。しかし、こちらの教え方を含めたコミュニケーション不足で次々と辞めてしまいました。このとき、改めて採用基準の設定、採用から入社時の導入期間、その後のキャリア形成までそれぞれの段階で従業員に寄り添うコミュニケーションが大切であることを実感しました」。
その学びと同時に、将来的に外国人観光客への対応ができるようにしたいと考えていた矢先、外国人スタッフ一人目となる梁(リョウ/中国籍)さんを採用することになったのです。
「梁さんの採用以降、着実に外国人スタッフを採用し、彼らが活躍してくれているのは採用時に特に心がけていることがあるからだと思います。以前の学びも活かして、まず入社後のギャップを少しでもなくすようにしています。具体的には、本人が希望している仕事と実際の業務を接続しながら、泰泉閣で働くイメージをすり合わせるようにしています」。
採用時は面接を重視し、必要に応じてテレビ電話も活用。書類だけではなく、実際に話すことで本人の希望を丁寧に引き出していくといいます。たとえば、希望としてよく話されるフレーズは「日本のおもてなしを学びたい」。そのフレーズを起点として、どのようなサービスが日本のおもてなしだと感じるのか、日本の旅館で宿泊した経験なども聞きながら面接を進めます。一言で「おもてなし」といっても、日本の旅館にお客様として利用した経験が少ない外国人と提供側では指しているサービスが異なること、あたりまえと思うことも異なることを踏まえ、入社後の仕事内容を話すように取り組んでいます。
外国人スタッフとの文化の違いによる誤解を極力なくして入社後もフォロー
入社後ギャップの軽減で一番ポイントになるのは入社後のフォローだと下野さんは話します。
「採用面接を丁寧に、面接重視をして行うのも大事なのですが、やはり入社後の方が重要だと思います。どれだけ入社前に話していても、『あれ、思っていたのと少し違うな』というのは外国人のみならず日本人でもままあることです。その時に、面接でしっかり話が聞けていると、その『違うな』という感覚をこちらも理解しやすいし、どうしたらいいのか希望に応じた対応もしやすくなるんですね。それがきちんとできると、従業員のモチベーションも低下せずにひとり立ちに向けて周囲と連携して仕事もどんどんできるようになると思います」。
周囲との連携は採用担当だけではなく、受け入れセクション(部門)の協力も欠かせません。下野さんは受け入れセクションには必ず事前に外国人スタッフのことや理解しておくことを伝えるといいます。受け入れ側の理解で特に気を付けているのは文化の違いによる誤解です。たとえば、椅子に座るときは胡坐をしないといった外国人スタッフにとっては母国の習慣でも、日本ではマナーが悪いと思われてしまうことについて、本人だけではなく、周囲の日本人スタッフにも伝え、態度が悪いと誤解せずに理解するように説明をしているそうです。
「外国人スタッフ本人は悪気なくしていることも、周囲の理解が乏しければ『働く気ないのかな』と誤解してしまう可能性もあります。旅館はお客様への接客も周囲のスタッフとの連携があってこそ成り立ちます。育成担当と一緒に成功体験を積むことで、外国人スタッフは自信がつき、周囲のスタッフは評価することで連携がどんどんよくなります」。
お客様からも教えてもらい、成長できる環境
「日本の温泉が大好きで、旅館で働きたいと思っていました」と話すのは泰泉閣で働き始めて10年目になる梁さん。彼女は泰泉閣で初めての外国人スタッフとして入社しました。大学(中国、日本)、大学院(日本)で日本語教育を専攻し、さらに日本語を学びたいという意欲も持ち合わせ、大学院卒業後に働き始めた2日目に早速衝撃を受けたといいます。
「お客様をお迎えした際に『外来できますか?』と聞かれました。聞き取れても『がいらい』の意味がわからず、慌ててしまいました。後からそれは日帰り入浴のことを指していると先輩スタッフに教えていただき、旅館ならではの言葉やお客様への接し方などを学ばなくては、と身が引き締まる思いでした」。
梁さんはフロント業務を中心に、予約管理、会計なども担い、現在ではお問合せ対応といった難易度の高い業務まで任せられるようになりました。また、中国人を含め、外国人観光客のお客様には旅館の説明だけではなく、周辺観光の説明なども積極的に行い、単なる通訳としてではなく、自らの言葉で泰泉閣や温泉、地域の魅力を伝えられるようになっています。
「今はとてもやりがいを感じます。自分に自信が持てるようになりました」と笑顔で話す梁さんに、働くうえで大切なことを聞いてみると「幅広い知識、臨機応変な対応、正確でありながら迅速に、それと丁寧な言葉」と、入社当時に衝撃を受けた言葉よりも先に接客に必要な要素をあげてくれました。それは、彼女自身が泰泉閣で学んだことだといいます。
「私は『日本のおもてなし』を大切にしています。学生時代の憧れを現在は自分で実践する側となり、先輩スタッフやお客様から学んだことを私なりに考え行動するようにしています。もっとも心がけているのは、先回りして相手の心を読むことです。たとえば、足腰が弱いご年配のお客様と話す際は楽な姿勢でいられるよう椅子を横に置く、天気が悪くなってきたらタクシー手配の準備をする、などです。お客様の喜ぶ顔や感謝の言葉を頂くことで、もっと何ができるだろう、と考えることができます」。
今では梁さんは後輩の外国人スタッフにアドバイスする立場でもあります。自身の経験も踏まえ、同僚同士でも丁寧な言葉遣いを心がけること、遅刻しそうになったらすぐ電話すること、など些細なものから接客にかかわるものまで、いつでもお互いが相談しあえる環境だといいます。それは同社がこれまで試行錯誤で様々なことに取り組んできた成果のひとつといえるかもしれません。
外国人スタッフひとり一人の強みが活きる安心して働ける環境づくりへの工夫
最後に改めて外国人スタッフの活躍を支える取り組み、今後の展開について下野さんに話を聞きました。
「とにかく受け入れ側の意識改革が大事です。自分も含め、受け入れセクションの責任者、スタッフ全員ですね。それが安心して働ける環境づくりにつながります。時々、買い物に行くときも誰かが車を出して皆で出かけるなど息抜きできる時間も自然に生まれていますね。また、外国人スタッフの母国にいるご家族が泰泉閣に泊まりにくる際も皆でおもてなしをするので、ご家族も安心できるようです」。
採用時は希望する仕事内容を丁寧にすり合わせ、入社後のフォロー、受け入れ側の育成、それらを包括し安心して働ける環境づくりに取り組む泰泉閣。今後さらに注力したいことは、ひとり一人の強みが活きるような評価の仕組みづくりだと下野さんは教えてくれました。現在の定期的な面談などに加え、今後はより客観的に評価し育成できるよう検討しているそうです。留学生を対象にした調査*では、旅館のイメージとして「語学力を活かすことができる」がもっとも多い結果でしたが、今後は「キャリア形成ができる」といった点も旅館で働くことの魅力となるでしょう。
*「留学生2,000人のアルバイト実態調査 vol.1 希望する仕事内容、イメージ」では「ホテル・旅館」の印象において「語学を活かすことができる業界だ」45.1%がもっとも多かった。
https://jbrc.recruitjobs.co.jp/data/data20190801_1201.html