座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2022年02月25日

コロナ禍でアルバイト募集の時給はどう変わったの? ~勉強会レポート~

コロナ禍を経てアルバイト募集の時給変化はどう変わったのかについて考えていきます。

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
10回目となる今回は、ジョブズリサーチセンターが実施した社内向け勉強会の一部内容を記事としてお届けします。テーマは「アルバイト募集の時給変化」です。中央大学経済学部の阿部教授、慶應義塾大学商学部の風神准教授を講師として、「アルバイト・パート募集時平均時給調査」のデータ分析を踏まえて、コロナ禍の賃金変化について様々な角度から意見交換がなされました。ジョブズリサーチセンターの宇佐川センター長、リクルート人材領域のソリューションコンサルタントマネージャー伊藤氏との意見交換を紹介します。

  • 阿部 正浩(あべ まさひろ)

    阿部 正浩(あべ まさひろ)
    中央大学 経済学部 教授

    専門は労働経済学、経済政策論。1966年福島県いわき市生まれ。1990年慶應義塾大学商学部卒業、1995年慶應義塾大学大学院商学研究科単位取得中退。2003年に慶應義塾大学より博士(商学)取得。(財)電力中央研究所経済社会研究所主任研究員、一橋大学経済研究所助教授、獨協大学教授を経て、2013年から中央大学経済学部教授。著書として、日経・経済図書文化賞および労働関係図書優秀賞を受賞した『日本経済の環境変化と労働市場』(東洋経済新報社)や『少子化は止められるか?』(有斐閣)、『職業の経済学』(中央経済社)、『5人のプロに聞いた!一生モノの学ぶ技術・働く技術』(有斐閣)、『多様化する日本人の働き方――非正規・女性・高齢者の活躍の場を探る』(慶應義塾大学出版会)など。

  • 風神 佐知子(かぜかみ さちこ)

    風神 佐知子(かぜかみ さちこ)
    慶應義塾大学 商学部 准教授

    慶應義塾大学商学部卒業、同大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。主な論文・著書に、“Regional differences in the epidemic shock on the local labor market and its spread,” LABOUR, Vol.36(1), 2022、 “Mechanisms to improve labor productivity by performing telework,” Telecommunications Policy, Vol.44(2), 2020、『労働経済』(清家 篤氏と共著、東洋経済新報社、2020年)ほか。

  • 伊藤 綾華(いとう あやか)

    伊藤 綾華(いとう あやか)
    株式会社リクルート HR本部ソリューションコンサルティング営業部 首都圏ソリューション営業グループ ソリューションコンサルタントマネージャー

    2013年リクルートグループに新卒入社。入社以来、大手飲食業・小売業のクライアントに対して採用活動の支援を8年近く実施。現在はコンビニチェーン、物流、介護業界のクライアントに向き合う組織を担当し、“リクルートだからできること”にこだわって日々格闘。趣味は大型ジグソーパズルとランニングで知力と体力を同時に習得したいと考えている。

※以下、「コロナ前」とは2020年3月以前、「コロナ後以降」は2020年4月~を目安として話しています。

ジョブズリサーチセンターで毎月発表している「アルバイト・パート募集時平均時給調査」の2018年10月~2021年8月データをもとに、コロナ禍におけるアルバイト募集の時給変化について、阿部先生、風神先生に勉強会を実施していただきました。まず初めに提示されたお題は「コロナ禍で求人件数が減少しているのに、平均時給が高止まりしているのはなぜか?」。先述データ以外、たとえばハローワークの求人数でも2020年度は前年度より減少しています*が、「アルバイト・パート募集時平均時給調査」では2020年4月以降も平均時給は上がる傾向にあります。両先生が専門の労働経済学の観点から見ると、求人件数の減少は労働需要の減少で、賃金は下がるはずなのになぜか? 低賃金の労働需要(求人件数)が減少し平均時給を押し上げているのか? といったこと等が考えられるといいます。
この点について、全体の労働需要の増減、低時給帯の仕事の増減、労働供給に差がある都心部と郊外の違いなど、分析データをもとに見解を教えていただきました。本記事では参加者からの素朴な疑問への回答内容をもとに展開された意見交換の一部を共有します。
(データ分析内容の詳細は両先生の研究内容となるため、本記事では割愛させていただきます。)

*「一般職業紹介状況(職業安定業務統計):雇用関係指標(年度)」、厚生労働省

Q:コロナ禍でアルバイト募集の時給が特に変化した地域はある?

宇佐川:「アルバイト・パート募集時平均時給調査」では主に三大都市圏として、首都圏、関西圏、東海圏の時給の動向を見ていますが、特にコロナ影響を受けて、募集時の時給が変化した、特徴的な地域はありますでしょうか?

阿部:三大都市圏全体として、中心都市よりも郊外のほうが募集時の平均時給は上がっていました。全体的に求人件数がコロナ前より減少したなかで、中心都市では時給が低下した求人も増えているが、一方で時給の高い職種の求人が全体的に増えたことで、アルバイト募集時平均時給は上昇したと考えます。

風神:求人件数で見ると、首都圏や関西圏よりも東海圏の減少幅が小さいが、時給は関西圏がやや高い結果でした。特に人口密度の高いところで、首都圏、関西圏は時給の中央値*がプラスになっている職種が多いことがわかります。

*データを大きい順に並べた時の中央の値

宇佐川:関西圏の時給がやや高いというのは特定の職種などが影響しているのでしょうか。私たちも注視していきたいと思います。

Q:飲食、アパレル販売などのサービス業、カラオケボックスなどのエンタメ系といった感染拡大の影響を受けやすい業界で差はある?

宇佐川:業界や職種でコロナ影響度合いも異なると思います。特に緊急事態宣言などの影響を受けやすい、飲食、アパレル販売などのサービス業やカラオケボックスなどのエンタメ系の業界でも差はありますでしょうか?

阿部:飲食、芸能やメディア関連などは、求人数は減っていますが平均時給は上がっていますね。

宇佐川:募集は減っているが、募集をしているところは時給が下がっていないということですね。感染拡大の影響を受けやすい業界だからこそ、余計に人材獲得が難しい側面もあり、時給が下がらないのかもしれません。

風神:今回見たデータの中では、求人数の減少幅は飲食がもっとも大きいが、人口密度の高いところほどその傾向が見られました。
もう少し細かく見ると、レジは人口密度の高いところほど求人数は増加し、カラオケは人口密度の高いところほど求人の回復が遅いことがわかります。

宇佐川:それは私たちの普段の生活からも合点がいくような気がします。人口密度の高いところという切り口がコロナ影響を見る際に勉強になります!

テイクアウトを行う飲食店のイメージ
ランチやテイクアウトを始める飲食店もあるが求人数の減少幅は大きかった

Q:エッセンシャルワーカーは人材不足、時給は上がっている?

伊藤:緊急事態宣言などの影響を受けやすい業界を先ほど聞きましたが、コロナ禍で人材不足が深刻化した業界、職種について教えてください。たとえば医療・介護関連、清掃、物流などのエッセンシャルワーカーはコロナ前から人材不足でもありましたが、時給は上がっているのでしょうか?

風神:データからはそれらの職種の募集時の時給が極端に上がっているという傾向は見られません。ただし、職種によってスポット的に求人件数が増え、平均時給にも影響していることは考えられます。
たとえば、神奈川県横浜市のデータで「クリーニング」を見ると、2020年4月以降、スポット的に求人件数が増えている地域が確認できます。賃金階級別の求人数を見ると、「1000円~」「1100円~」「1200円~」がコロナ前よりも増えています。一時的に病院や施設リネンなど事業者からのニーズがあったのかもしれません。
ただし、2019年10月に最低賃金が983円から1011円に改定された影響も含まれている可能性はあります。

横浜市西区クリーニング職:賃金階級別求人数の推移グラフ
クリーニング求人数の推移グラフ
コロナ前:2018年10月~2019年8月 コロナ後:2020年10月~2021年8月

宇佐川:クリーニングはテレワーク普及によるスーツ、ワイシャツ着用の減少で個人客の売上が伸び悩んだという話も聞きましたが、確かに事業者ニーズでいうと衛生観点からアウトソーシングが増えた、というのは考えられますね。

Q:求職者の仕事探しで「賃金」への重視度合いは変わっている?

伊藤:コロナ影響で失業者が一時的に増加したり、自宅待機や欠勤扱いでの休職などを経験された方もいたり、経済的な観点で仕事探しを始めた方もいらっしゃると思います。仕事探しの条件として、「賃金」を重視する傾向は高まっているのでしょうか?

宇佐川:ジョブズリサーチセンターの調査では、隔年で求職者の意識が見られるのですが、仕事探しの際に重視する項目(複数回答)を確認すると「給与」の重視度合いは大きく変わりがないようです。こちらは求職者全体の結果なので、その求職者の状況により違いがあるとは思いますが、総じて勤務日数や勤務地、勤務時間帯、勤務時間数といった条件が上位であることは変わりないようです。

求職者が仕事探しで重視する上位10項目(3時点比較)「求職者の動向・意識調査」
求職者が仕事探しで重視する上位10項目(3時点比較)「求職者の動向・意識調査」

阿部:私の研究室では、週労働時間数別に何を重視して働いているか分析したことがあります。週30時間以下で働いている方たちのうち、特に「週10時間以下」で働く方は「賃金」の重視度合いは低く、「勤務時間数」を重視する傾向がありました。一方、労働時間数が多くなると「賃金」の重視度合いはもっと高くなると思います。

宇佐川:「週10時間以下」はすき間で働くスタイルですよね。そうなると「賃金」よりも、ちょうどすき間で働けるか、といったことの重視度合いが高くなることはわかります。労働時間数別に見ると特徴を掴みやすいかもしれないですね。

コロナ禍の仕事探し、全体では「賃金」重視度合いは変わらないが、重視項目が変化した人もいる
参照:「コロナ禍の仕事探し実態調査 vol.仕事探しの現状」

コロナ禍で求人市場は大きな変化がありました。ただそれは人材不足が解消したからではなく、「事業や店舗運営の見通しが難しく、新規に採用活動をしていいかどうか判断しづらい」といった声が多いように思います。今回の勉強会では特にコロナ影響を受けた業種、職種と変化がある地域などについて、アルバイト募集時の時給という切り口から確認しました。あくまでも日本全国の求人情報データの一部ですが、このような見解が企業の採用担当者や経営者の皆様とも共有できることで、見通しが持ちづらいコロナ禍の採用活動計画の参考になれば幸いです。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)