座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2022年03月31日

介護報酬の引き上げによる処遇改善で介護職希望者は増える? 給与以外で大事なことは

高齢者に寄り添って介護をする介護業界就労者のイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
11回目となる今回のテーマは「介護業界の魅力づくりに必要なこと」です。人材不足が続く介護職の処遇改善として、介護報酬を引き上げ介護職の収入を増やす取り組みに注目されますが、それ以外にも魅力づくりに欠かせないことがあります。東京福祉専門学校の白井副学校長にジョブズリサーチセンターの宇佐川が介護職を目指す方の気持ちや就業後の気持ち、事業所に求めることなどのお話を聞きます。

  • 白井 孝子(しらい たかこ)

    白井 孝子(しらい たかこ)
    学校法人滋慶学園東京福祉専門学校 副学校長

    聖路加国際病院、労働省にて看護師として勤務、その後東京都江戸川区にて訪問看護業務等に従事し、徐々に福祉全般に関わるようになり学校法人滋慶学園東京福祉専門学校で教鞭をとる。その他、淑徳大学、成増高等看護学院等にて非常勤講師を歴任。介護福祉士養成施設協会、長寿社会開発センター、日本介護福祉士会、東京都介護福祉士会、静岡県介護福祉士会、かながわ福祉サービス振興会等の研修講師経験のほか、介護職員初任者研修テキスト監修や著書も多数。厚生労働省「介護福祉士養成課程における教育内容等の見直し検討作業部会」等各種委員会や調査研究事業で委員を務める。日本介護福祉学会理事。

就業後のギャップは給与や体力仕事よりも職場環境

宇佐川:本日は介護業界の人材不足解消のヒントをいただくために、介護職を学ぶ人の気持ちや介護職を育てる環境についてお話を聞きたいと思います。白井先生、よろしくお願いします。

白井:よろしくお願いします。

宇佐川:専門学校には高校卒業後の学生だけではなく、社会人の学生もいらっしゃると聞いています。高卒の学生と社会人の学生で何か違いはありますでしょうか?

白井:介護職としての違いはないです。ただ、介護職になりたい、介護を学びたいというきっかけは違いがあるかもしれません。高卒の学生は、周囲に介護職の方がいるケースが少なくなく、「私もあのように働きたい」と思って学びに来るようです。社会人の学生も同様ケースはありますが、それよりも、他の仕事経験をするなかで介護職のことを知ったり、ハローワークで介護職のことを聞いたりして、「興味があって」と学びに来ているように感じます。

宇佐川:社会人学生の興味は、どのようなことがきっかけなのでしょうか。家族の介護経験などもありますでしょうか。私たちの調査によると、未経験で介護業界で働く方のうち7割弱は身近に何らかの形で介護に触れる経験があるようです。

白井:そうですね。家族の介護経験を生かしたいという学生はもちろんいますし、介護に関するビジネスで起業したいという学生もいます。介護職を目指すだけではなく、介護の知識を得るために学ぶことも珍しくないですね。

介護業界就業検討者の意識レポート グラフ
未経験で介護業界で働く方の周囲の環境 n=299
Q:あなたの周囲に、介護が必要な要介護者、または介護業界で働いている人はいますか。(複数回答)
参照:「介護業界就業検討者の意識レポート」

宇佐川:介護職の場合、卒業後の働くイメージもある程度お持ちなのかなとは思いますが、学生から介護職で働くことに対する不安の声はありますか。

白井:当校は養成校で在学中に実習があるため、利用者と関わる不安やスキルの不安といったものは特にないです。卒業生から聞くのは、介護現場で見た介護が思っていたものと違う場合、たとえば、利用者への声がけが雑であるなど目の当たりにすると「この施設、大丈夫かな…」と不安になるようです。

宇佐川:施設やスタッフ個人の違いもあるかとは思いますが、利用者との向き合い方や施設の在り方などに疑問を持ってしまうと、「このまま働き続けて大丈夫かな」という不安を抱いてしまうのですね。仕事内容や体力面、給与よりもその点のほうが不安要素は大きいのでしょうか。

白井:介護施設で働く介護職の給与はここ10年で改善傾向にあります。人材確保の難易度などが都心部のほうが高いため、都心部の施設のほうがより改善されている傾向にあると思います。卒業生を見ていると、40歳くらいまでは賃金がきれいに上がっているのではないでしょうか。ただし、地方は状況が異なると思います。

見えづらい? 多様なキャリアパスを築く問題解決思考を大事に

宇佐川:地方と都心部で差があるとのこと。もう少し聞きたいのですが、その差があることについて経営者が気付くには何が必要なのでしょうか。

白井:難しいことですよね。(笑)ただ、最近思うのは、魅力的な職場環境をつくっている施設の経営者は情報収集と情報発信が上手な気がします。介護職の仕事は施設外からは見えづらいですよね。見ればわかると構えるのではなく、職場の雰囲気や働き方などを上手に見せている施設は魅力的に映っていると思います。

宇佐川:昔は「真似して学べ」という風潮もありましたが、今は変化の速い時代で真似しても学べないこともありますよね。介護業界は人材不足が続いているので、未経験者も迎え、介護職を育てていく必要があります。ただ、人材不足で忙しい日々のなかで未経験者を育てる余裕がないという声もあります。
このような状況のなか、どうすれば介護事業者は未経験者を育成できる職場になると思いますか。

白井:私は日本介護福祉士会等の研修を担当することもあるのですが、教えられる人を育てる研修を行っています。相手にあわせて教え方を学ぶ、ということを行っています。知識は座学、eラーニングでも学べます。ただし、人との関わり方は実習でのみ学べるのでその点は強調しています。

介護業界で働く男女のイメージ

宇佐川:受け入れ側の育成意識を高めると同時に気になるのが、介護職のキャリアパスが見えづらいのかな?とも思うんですね。

白井:そうですね。看護師に比べてキャリアパスが見えづらいというのはあるかもしれません。介護では、たとえば「ケアマネジャー」「相談員」「認定介護福祉士」といった資格により、対応できる範囲が広がりますし、あとは起業するというのも十分あるのですが、新しい資格であったりするのでキャリアパスの認知を上げるのはまだまだこれからでしょうか。

宇佐川:ちなみに起業はどのような内容でしょうか?

白井:訪問介護です。もっと利用者に寄り添いたいという思いで自ら訪問介護を起業するケースは当校の卒業生でも見られます。

宇佐川:介護職のキャリア形成支援には何が必要でしょうか。

白井:経営者が介護職を育てていくという意識を持つことはもちろん重要です。また、経営者だけではなく、働く介護職員も経営観点を持ち、介護職員から意見を発信してほしいですね。たとえば、何の業務にどのくらいの時間、どのくらいの費用がかかっているのか?など、経済観念を持ちながら自らの仕事をマネジメントすること。問題解決思考を大事にしてほしいです。
経営者でも介護報酬の枠組みのなかでその点がなおざりになっている方もいるように思います。

卒業生から「先生、私は10年後、20年後もおむつ交換の仕事をしているのでしょうか?」と聞かれたことがあります。それも、上記のような考えを持つことでもっとできることやキャリアは広がるのではないでしょうか。

宇佐川:まったくその通りだと思います。その先が見えなくて、離職してしまうのですよね。業務の改善、労働負荷軽減や、自分の働きやすさをつくる、本質的な業務への労力を集中させることにつながる大事な考え方ですね。

白井:介護現場のなかでもICT化が進んでいるところでは、空いた時間でもっと利用者との時間を増やす、研修の時間を増やすなど、できることを増やしています。本来の介護は何か?を考えている介護現場はそのように空いた時間を有効に使えています。個人も同じだと思うのです。

宇佐川:そうですね。それが離職防止にもつながるし、介護の質も上がることにつながり、個人にとってもキャリアパスを築く礎となるのですね。

介護業界で働くひとのイメージ

介護を学び、介護現場で働く卒業生の言葉、「先生、私は10年後、20年後もおむつ交換の仕事をしているのでしょうか?」に対し、あなたはどう答えますか。それが、介護現場で育成できる職場か否かの違いにもつながるようです。政府は介護職員の賃上げができるよう進めていますが、それ以外にも育成できる職場であること、キャリアパスを考えられる職場であることが大事と白井先生から教わりました。もちろん働き手が意識を持つことも重要で、今は情報発信が上手な介護事業所と情報収集が上手な働き手がマッチングできているようにも見えます。今後も介護業界の人材確保について動向を見ていきたいと思います。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)