座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2021年09月17日

#シニア#採用#育成・定着

高齢者を迎える職場に必要なこと

笑顔で高齢者を迎え入れているイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
引き続き、「高齢者を迎える職場に必要なこと」をテーマに社会福祉法人 板橋区社会福祉協議会 事業運営課アクティブシニア就業支援センター「はつらつシニアいたばし」のセンター長小菅氏より事例も教えていただきながら、高齢者を従業員として迎える職場が今から準備できることについて考えていきます。

  • 小菅センター長

    はつらつシニアいたばし 小菅センター長
    社会福祉法人 板橋区社会福祉協議会 事業運営課 アクティブシニア就業支援センター

    2014年より高年齢者無料職業紹介所「はつらつシニアいたばし」に着任、相談員として高年齢者への職業紹介のほか、高年齢者が活躍できる仕事の創出を地元企業と取り組む。板橋区役所や公益財団法人 東京しごと財団、板橋区シルバー人材センター、前回座談会に登場した東京都健康長寿医療センター研究所など、外部機関との連携も図り、多様な人材が多様な働き方で就業できるよう支援体制を整えている。

高齢者の早期離職理由からみる採用活動・定着のポイント

宇佐川:これまでコロナ禍の変化をお聞きしましたが、求職活動の難しさが大幅に増したという印象ではないのですね。

小菅:求人ニーズという点でいうと、先ほども申し上げたように飲食業などの一部の求人は確かに以前より減っていることもあり、希望する方にとっては厳しい状況にあると思います。ただ、2008年リーマンショックの翌年に「はつらつシニアいたばし」に来所される求職者が急増した過去と比べると、今のところそこまでまだ大きな変化はありません。ですので、私たちとしてはこれまでの取り組みでわかった課題にまずしっかり向き合っていきたいと考えています。

宇佐川:たとえばどういったことがありますでしょうか。

小菅:私たちは仕事紹介だけではなく、高齢者が活躍できる場を増やしていきたいと考えています。就職してから半年後に定着状況の調査をすべての企業に対し行っているのですが、残念ながら離職しているケースが多くみられます。それらのケースを一つずつ聞き取り調査し、まとめているのですが離職理由として多いのが「職場の人間関係」や「仕事内容がイメージと違っていた」というものでした。

宇佐川:あぁ、でもそれは高齢者だけではなく、全世代共通していることでは?

小菅:よく状況をお伺いしてみると、高齢者ならではの人間関係の課題が見られました。たとえば、こんなケースがありました。
介護スタッフの経験がある70代前半の男性がデイサービスの施設に入社したのですが、1週間経った後に「辞めたい」とご相談がありました。事情を聞くと、その方なりの経験を踏まえて、より良くと思い提案すると先輩から嫌な顔をされる、否定されるというのです。自分には合わないので退職を考えているというご相談でした。

でも、もったいないですよね、1週間で辞めてしまうのは。それにその方はより良くしようという思いがあって言っていることなんです。ですので、相談員から「辞めてしまう前に、一度きちんと上司や施設長などに事情を話してご相談してみたらいかがでしょうか?」とアドバイスをしました。すると、施設長の方から逆に「他のところではどのようにやっていたのか? 改善方法やノウハウをもっと教えてほしい」と頼りにされ、その後はリーダーとなり、3年経った今もご活躍されています。

宇佐川:素晴らしいですね!相談員の声掛けも、施設長の柔軟な考え方もよかったのですね。

小菅:高齢者の方は今まで長年培ってきた経験や知識、技術など豊富な方が多くいらっしゃいます。ただ、「新しい職場で自分はそういう立場ではない」と遠慮される方も多いです。この方のケースは良い方向に転じましたが、実際職場では年下の上司や先輩方の元で仕事をすることになるのがほとんどです。また、職場によっては同年代がまったくおらず、若い人たちの中でただ一人という環境もあります。そういった高齢者ならではの問題もあるのです。

仕事を続けるか退職かの分岐イメージ

宇佐川:年下上司の話などは、40代過ぎると経験ある方もいらっしゃるとは思いますが、高齢者で新しい職場で、となると、それが相談できないままや、関係構築の糸口がつかめないまま辞めてしまう、ということがありうるのですね。

小菅:なるべく応募する前に職場の様子や実際の仕事内容などが具体的にわかるといいですよね。
以前、板橋区内の高齢者施設の協力により、「福祉職場サポート業務体験」(東京都社会福祉協議会共催)という事業を行いました。対象は高齢者に限定していなかったのですが、求職者が希望する施設で1~3日間、補助的業務(配膳、下膳、洗濯、掃除等)の体験を実際に行い、その後面接をして両者がよければ採用につなげるというものでした。これは求職者側だけではなく、企業側にとっても採用後のミスマッチが少なくなりメリットがあったと思います。

宇佐川:仕事体験会いいですね。1日かけて終日の仕事体験は難しくてもどのような機材、道具を使うのか、どのような場所で働くのかといったこともわかると体力的に不安がある方も納得できそうですし。
そのような場を通して伝えられるのはベストだと思うのですが、何か他にも方法はありますでしょうか。

小菅:採用担当者がそのまま入社後も育成担当や定期的な面談をして伴走するケースも良いと思います。
ある会社では採用担当者がそのまま入社後の育成、出勤状況の確認、定期的な面談を担当されていますが定着率も良く、私たちも安心して求職者にご紹介することができます。
交通誘導の警備会社を離職された方から「現場が日々変わり、顔見知りの同僚が周囲にいなくて孤独だった」「自分はなぜ採用されて、ここでどんな働きを求められているのかよくわからなくて不安だった」といった声がありました。仕事の特性上、ある程度仕方がない部分もあると思います。けれども、定期的な面談や声掛け等によるフォローアップの仕組みを作ることで、現場では孤独であっても自分のことを見守り相談にのってくれる人がいるという安心感につながることが期待されます。
また、採用後、どのようなことを期待しているのか、どのような役割を担っていってほしいのかなど、きちんと本人に伝えることもとても大切です。そのためには、企業側の方でも、高齢者を雇用する意義や効果等について社内でしっかりと話し合い共通認識をもつこと、そして採用した方にそれをしっかり伝えていく工夫が大切だと思います。「自分が必要とされている」という役割意識や「自分がここにいていいんだ」という安心感を持ち、その方が経験や技術をしっかり生かせるよう声掛けやサポート等環境づくりをしていただけるととてもありがたいです。

宇佐川:採用と育成の連携は新卒社員でもその重要性が語られますが、担当制など仕組みで対応するというのも一つヒントになりますね。特におっしゃったような、毎回一緒に働くメンバーが変わる現場等では自分の役割や成果といったものも感じづらいかもしれません。その点を伴走してフォローするというのは心強いですね。
また、採用直後だけではなく、入社してからどのような方と一緒に働くか、一人前になるまでどのような過ごし方(研修など育成含め)になるのか、入社後の話もできるのはいいと思います。

担当者と面談しているイメージ

年齢で判断しない、まずはそこから意識してほしい

宇佐川:色々な採用事例をご覧になっていると思うのですが、高齢者の活躍はまだまだ広がると思っています。高齢者自身も企業も視野を広げることが必要と以前も話し合っていたのですが、これまでのご経験を踏まえて、特に企業の方が意識することで、高齢者の活躍が広がるポイントはどのような点が考えられますか。

小菅:まずは、“年齢で判断しない”ことではないでしょうか。
先日、70代前半の女性が「私でもできる仕事はありますか?」と相談にいらっしゃいました。自動車教習所の教官、特別養護老人ホーム(特養)の経験があり、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格を保持していらっしゃいました。経験を活かして介護施設の求人を紹介しようと、早速とあるデイサービスに相談員が問い合わせたところ「年齢的に採用は難しいと思う」との回答でした。
しかし相談員から「特養勤務経験もあり、実際にご本人に会ってから判断していただけないでしょうか?」と相談してみたところ、「話すだけになるかもしれないけれど…」と面接が実現しました。
すると、面接当日にデイサービスの送迎ドライバー職で採用が決まりました。面接の中で、採用担当者がその方の経験や強み、できることなどを本人と話し確認してくださったそうです。その結果、運転スキルと車の乗り降り介助を兼ね備えた人材として即採用に至ったとのことでした。

宇佐川:いいですね。任せたい業務ができるかどうかの判断が実際に難しいところだと思います。まずはそこに辿り着かないとそのような人材と出会う機会も失われますし、年齢からくる固定概念や先入観にとらわれずに、業務遂行ができるかどうかを見ていただきたいですね。面接で任せたい業務の一部を実技いただく、あるいは、これはできるかどうか、といったチェックシートがあるとスムーズかもしれません。

小菅:そうですね。チェックシートなどがあると、どこに求職者が不安を感じるか、企業担当者もどの業務に対し不安を感じるか、というのが同じ目線で話し合える気がします。

同じ目線での話し合いのイメージ

宇佐川:最後になりますが、はつらつシニアいたばしとして今後取り組みたいことを教えていただけますでしょうか。

小菅:今後取り組むべきことはたくさんあります。
目下の課題はコロナ禍で相談時間が短縮されている中、いかに自己理解や仕事理解のサポートをしながら求職者の希望にあった求人をスムーズにご提案できるか、相談力を磨いてまいりたいと思っています。また、「就業」とは社会参加であり、自己実現でもあります。自己肯定感にもつながるものです。
加齢とともに、体の変化や就業能力にも大きく個人差がでてきます。相談内容も多様化する中で、私たち相談員も様々なご提案ができるよう、多様な働き方の情報の充実や企業への理解、啓発に力を入れ、ご希望される求職者が可能な限り何かしらの形で、就業や社会参加活動を実現できるよう、寄り添いながら相談にのってまいりたいと思っています。

今回は「高齢者を迎える職場に必要なこと」をテーマに、前編はコロナ禍の高齢求職者や求人の変化についてお聞きし、後編(本項)では、離職理由や事例を交えて採用活動や定着のポイントをお聞きしました。内閣府「高齢社会白書」をみると、日本の高齢者の体力は年々向上し、数的思考力や読解力はOECD平均を上回っていることが示されています。私自身、取材や座談会で知る事例を通して驚くこともありますが、それも固定概念がある証。社会全体でもっと高齢者の本当の労働力を知る必要があるように感じます。本記事がその一助になれば幸いです。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)