座談会レポート 「今こそ話したい!これからの多様な働き方」

2021年07月06日

#シニア

70歳定年でも高齢者が活躍できる職場づくりに向けた工夫とステップ(前編)

元気で前向きそうな高齢者のイメージ

座談会の概要

この座談会では、新しい時代の転換期においてそれぞれが感じている変化を不安として抱えるのではなく、前進するためのヒントにしていきたいと考えています。
7回目となる今回の座談会テーマは「高齢者雇用の工夫」です。2021年4月に施行された高年齢者就業確保措置により、いわゆる70歳定年が努力義務となりました。各社対応が迫られるなか、今回は高齢求職者の視点をもとに、東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム研究部長の藤原氏、同チーム研究員の相良氏よりアドバイスをいただきます。前編は相良氏より、後編は藤原氏より、それぞれメインでお話をいただきつつ、宇佐川と3人でテーマに迫ります。

  • 藤原 佳典

    藤原 佳典(ふじわら よしのり)
    東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 研究部長(チームリーダー)

    北海道大学医学部卒、京都大学大学院医学研究科修了(医学博士)。京都大学病院老年科などを経て2011年より現職。世代間交流・多世代共生の地域づくり・ソーシャルキャピタルの視点から高齢者の社会参加・社会貢献と介護予防・認知症予防について実践的研究を進めている。2014年より、高齢者就労支援研究会ESSENCEを主宰。日本老年社会科学会理事、日本老年医学会評議員、日本世代間交流学会副会長、内閣府高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会委員、厚生労働省一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会構成員他、多数の自治体の審議会座長を歴任。
    著書に『子どもとシニアが元気になる絵本の読み聞かせガイド』(監修)、『人は何歳まで働くべきか』、『ソーシャルキャピタルで解く社会的孤立』(共編著)などがある。

  • 相良 友哉

    相良 友哉(さがら ともや)
    東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム 非常勤研究員

    筑波大学大学院人文社会科学研究科の博士後期課程に在籍しながら、2018年4月より現職。専門は「市民社会論」「地域社会論」。現在は、地域社会におけるヘルスプロモーション、世代間交流、高齢者就労等に関する研究を通じて、いわゆる元気高齢者(アクティブシニア)が地域内で社会参加するための効果的な方策について検討を行っている。
    また、多世代共生型の地域社会づくりと居場所づくりを目指し、プロボノとして、首都圏の複数のコミュニティスペースと緩やかに関わりを持っている。

高齢者の仕事探しの難しさ

宇佐川:2021年4月より高年齢者就業確保措置として、70歳までの就業確保、いわゆる70歳定年が努力義務となりました。60歳から65歳に定年が延長され、各企業は延長雇用や再雇用などの制度を導入し、工夫をしてきましたが、今後はさらなる工夫が求められます。そこで今回は「高齢者雇用の工夫」をテーマに座談会を実施します。

先日ジョブズリサーチセンターで実施した調査*をみると、コロナ禍における高齢者の就業意欲は個人差が拡がってきているようにも思います。非就業者の3割は「就業意欲は弱まった」ものの、就業者の1割は「就業意欲は強まった」と回答。高齢者の雇用を考えるうえで、私たちはこれまで以上に高齢者の気持ちに寄り添うことが必要なのではないでしょうか。その視点として、まずは高齢者の求職活動についてお話をお聞かせください。

*【調査レポート】シニア雇用への新型コロナウイルスの影響<個人編・企業編>

相良:以前、東京都内で高齢者の就労支援に取り組む行政・社会福祉協議会・NPO法人などの中間支援窓口の支援担当者28名にインタビュー調査を実施しました。その結果から、高齢者の求職活動の実態として大きく二つの特徴が見えてきました。一つは「企業と高齢者、双方のニーズが最初からぴったりマッチングしているケースは少ない」こと、もう一つは「高齢者自身が過去にとらわれがちである」ことです。そのため、窓口の支援担当者の多くは「本人に気づきを与える支援」に取り組んでいました。

もう少し詳しく説明しますと、求職者本人はA、B、Cの3つのスキルを持っているけれど、応募する仕事の業務内容で求められるスキルはB、C、D、Eの4つ。企業はAを欲していないけれど、求職者本人は一番自信があるこの部分をアピールしたい…。でも、本当はB、Cが双方に共通する能力なので、そこを前面に押し出してアピールすると良いわけです。この状況において支援担当者が対話を通じた就労支援を行うことで、求職者が自ら気づきを得て、よりマッチングしやすくなっていました。

仕事探しをしている高齢者のイメージ

宇佐川:支援担当者は仕事の紹介をするだけでなく、高齢の求職者本人に気づきを与える、という役割もあるのですね。

相良:そうですね。そのために重要なことは、支援担当者が高齢者の求職活動の特性を把握していることです。例えば、高齢求職者はそれまでに培った知識やスキルの範疇で仕事を探す傾向があること、異なる分野で新しい経験を積むことへの抵抗感が強くなるといったことが挙げられます。
支援担当者は企業のニーズと求職者のニーズを切り分けて説明し、双方のニーズの一致点を探るような支援を通して、本人の気づきによる方向転換を促すことに取り組んでいます。近年はマッチングアプリなども普及していると思いますが、求職者目線で考え、気づきを与え、本人が納得したうえで応募書類を提出する、という人間味のある支援を行うことはそう簡単ではなく、支援担当者自身の能力と人生経験も求められると思います。

就業前に仕事内容、仕事も含めた生活をイメージすることが大切

宇佐川:先ほど「過去にとらわれがちである」とありましたが、2パターンあるのではないでしょうか。公務員や有資格の専門職などを長年勤められた方は経験した仕事に対する誇りから、他の仕事をすることが考えづらい、ということ。もう一つは、若者と一緒に仕事ができるか、これまで経験したことがない仕事ができるか、周囲に迷惑をかけないか、体力は大丈夫か…など様々な不安から、自分が知っている範囲での仕事しか考えられないこと。

後者のほうが多いかもしれませんが、支援担当者の方々は、高齢者に対してどのような働きかけを行っているのでしょうか。

相良:私が調査した支援窓口の一つに、入社して6ヵ月後の定着状況を確認し、定着しているケースの分析を行っているところがありました。そこで見えていた特徴としては、従事する仕事内容が想像できていた人は職場に定着しているということです。

宇佐川:応募前に仕事内容を十分に想像する、ということですね。その点をどのように促しているのでしょうか。

相良:少し事例を紹介すると、80歳の男性が駐車場管理の仕事で何回か不採用が続いていたそうです。そこで支援担当者の方が別の駐車場管理の仕事について紹介し、一緒に仕事現場を見に行こうとお声がけして、駐車場の規模、時間帯別の人や車の量、また店長の人柄などを応募前に確認しに行ったのだそうです。
高齢者にとって、仕事のイメージはやはり経験からくるイメージが強く、企業側が求めていることや、実際の状況とずれてしまうこともあります。しかし、このように事前に現地を訪れて、忙しさの度合いや時間帯なども含めて、自分が働くときのイメージを持つことで、その方はしっかり定着し、活躍されているようです。高齢者は体力面なども気にされると思うので、仕事内容とあわせて、就業日の生活、休日の生活についても想像できるといいですね。

求職で面接を受けているイメージ

宇佐川:そうですね。気持ちの良い疲労感だったり、給与で何を買おうかと想像したり。
十分に想像することは不安の払拭にもなりますが、企業が求めている仕事、ニーズを高齢者自身が理解する、ということにもつながりますね。
そのような応募前の取り組みは中間支援を行っている方々だけではなく、企業側も職場見学の機会を設けるといった対応が考えられそうです。それ以外に企業が工夫したほうがいいことはありますでしょうか?

藤原:勤務時間を区切ることや仕事内容の細分化、といったところでしょうか。

相良:仕事内容は小さなタスクにして、易しいものからステップを作り、慣れてきたら次のステップに…というのもいいと思います。

宇佐川:おっしゃる通りですね。企業が工夫できることをまとめたいと思います。まずはできそうなところから実践できるといいですね!

●企業が工夫できること(就業意欲のある高齢者を受け入れ、活躍してもらう)

この仕事は高齢者にはできないだろうと決めつけずに、仕事内容の細分化、勤務条件や職場環境を考える。
例えば、短時間勤務や時間帯(早朝のみなど)、休憩をこまめに入れるなど、または工場などでもあるような動線をよくして動きやすくする、チームワークで解決できることもありそうですね。

応募者が事前に仕事内容を十分に想像できるように説明する。
高齢者がイメージしている仕事と企業が任せたい仕事があっているか、応募前に見学や説明の機会を設けたり、できるだけわかりやすいようにタスクの明確化をして提示したり、また高齢者が不安に思うことについては都度払拭できるように応える、ということが考えられます。

勤務条件と応募者の希望に相違が無いかチェックをするイメージ写真

今回は「高齢者雇用の工夫」をテーマに、高齢者の求職活動の実態や難しさについて相良氏よりお話をいただきました。高齢者本人が気づきを得て、あるときには方向転換も踏まえて納得すること、仕事を想像できていることが重要と教えていただきました。企業の人事担当者が応募より前に求職者と接する機会は限られますが、職場見学会など取り組めそうなヒントもいただけました。後編は潜在的求職者の高齢者が働くきっかけについてお聞きします。

文/茂戸藤 恵(ジョブズリサーチセンター)