人材活用事例 「わが社の"いいね!"」

2022年01月31日

#正社員#短時間勤務#育成・定着

週休3日制や短時間勤務制の導入事例~制度を「当たり前に」利用できる職場環境づくり~

芋田さんの運営する農場スタッフの方々

今回クローズアップする人材活用の事例は、「中尾清月堂」

政府が「経済財政運営と改革の基本方針2021」に「選択的週休3日制」を盛り込み、制度の導入を後押しする姿勢を示しました。しかし、実際に実施している企業はまだまだ多くないのが現状です。
こうした中、早くから「週休3日制」や「短時間勤務制」を採用し、女性社員のワークライフバランスを実現しているのが、富山県の老舗和洋菓子店「中尾清月堂」です。導入に至った経緯や工夫、成果について、社長の中尾さんと工場長の伏脇さんにお話を伺いました。

  • ● 社名/株式会社中尾清月堂
  • ● 創業/1870年
  • ● 事業/和洋菓子の製造・販売 直営店の運営
  • ● 本社所在地/富山県高岡市宮田町2-1
  • ● 資本金/1,000万円

「中尾清月堂」の事例から学ぶ人材活用のポイント

キャリアを諦めてしまうのは「もったいない」
ライフステージの変化に合わせて、女性社員がキャリアを継続できる制度をつくる
制度を「当たり前に」利用できる環境を整える
週休3日制や短時間勤務制の利用を職場全体で受け入れられるような環境をつくる
多様な働き方のロールモデルをつくる
一人ひとりが希望の働き方を実現することで、さらに制度を浸透させる

ライフステージの変化に合わせた女性社員のキャリアの継続が課題

明治2年から看板商品のどら焼きを始め、幅広い世代に人気の和洋菓子を販売している「中尾清月堂」。入社した女性社員が、働き始めて5~6年が経ってようやく1人前というタイミングで、結婚や出産をきっかけに家庭に入ってしまうことが多く、「中核を担う人材の流出に頭を抱えていた」と同社社長の中尾吉成さんは当時を振り返ります。
「会社にとっても本人にとっても、キャリアの途中で結婚や子育てを理由に仕事を諦めてしまうのは、『もったいない』の一言に尽きます。後任の人材を採用しようと新たに募集をかけても、なかなか応募が集まらない中で、何か打つ手はないかと思案していたときに、ふと目にしたのが週休3日という制度でした」

株式会社中尾清月堂 代表取締役社長の中尾さん
代表取締役社長の中尾さん

生活環境が変わっても働き続けられる制度を導入

中尾清月堂は、2017年から、工場で働く社員を対象とした「週休3日制」と「短時間勤務制」を導入しました。

週休3日制は、求人応募を増やすことを目的に導入した制度です。
「子育て中の女性の場合、週末は家事で大変でしょうから、平日は『自分のための休息』というイメージで、水・土・日曜の3日間を休日に設定しました」
求人効果は抜群で、家庭の都合で働くことを諦めていたという女性からの応募が増えたそうです。

短時間勤務制は、「子どもを保育園に送ってからでは始業時間(7時30分)に間に合わないので、時間を遅らせてほしい」という、産休・育休から復帰した従業員の声を受けて導入した制度です。8時30分から9時30分の間での時差出勤を可能にすることで、育児と仕事を両立できる環境づくりを目指しました。

なお、これらの制度は、子育て中の女性社員だけでなく、家族の介護を抱えているなど他の社員も利用可能で、それぞれの状況に応じて組み合わせて利用することもできます。

制度を「当たり前に」利用できる職場環境をつくる

せっかく導入した制度も利用されなければ意味がありません。「中尾清月堂」では、制度を浸透させるためにどのように取り組んだのでしょうか?工場長の伏脇一郎さんにお伺いしました。

「最初に取り組んだのは生産計画の見直しです。製造時間を1日5時間に限定し、残りの1~2時間は翌日の準備に回せるような計画を立てました。残業を前提にした働き方だと、短時間勤務を始めた社員の業務を他の社員が肩代わりすることになり、職場の理解は得られません。制度の利用を職場全体で受け入れられるよう、時間的にも精神的にもゆとりが持てる働き方を目指しました」

科学的なデータを活用した業務の効率化も進めています。
「これまではお菓子を一つひとつ手作りしていましたが、それでは生産量や品質が社員によってばらつきやすくなります。誰が作っても同じ品質を保てるように、3年前から各工程でデータを収集しながら製造を進めています。また、2017年に工場をリニューアルした際に、新たに機械を導入したことも効率化に功を奏しています」

お菓子作りの様子
お菓子作りの様子

安心して働くための職場づくりの一つとして、個人面談も頻繁に実施しています。
「いくら制度が利用できるとはいえ、仕事と育児の両立に対する不安はあるでしょうから。上から目線ではなく、仲間目線を意識しながら理解を深め、一人ひとりの成長をサポートするように心がけています」

価値観の切り替えは大きく舵を切るのがポイント

制度の利用が当たり前に受け入れられる職場環境が整ったことで、「以前に比べて女性社員が定着し、人材確保につながっている」と中尾さんは言います。

社内の意識にも変化が見られるようになったそうです。
「和菓子作りは本来、職人中心のガチガチの縦社会。以前であれば、保育園の送迎での遅刻や早退を遠慮する雰囲気がありました。ところが今は、子どもが熱を出し早退することになっても『大変だよね』と仲間を受け入れる雰囲気に。縦から横へと意識が変わりました」

この成功の裏には、伏脇さんの強い思い入れがありました。
「私の実家は130年続く料理旅館だったのですが、時代に合わせて変化する価値観に追いつけず、暖簾を下ろすことになりました。その経験から、大手と肩を並べるには価値観の改善が不可欠ということを痛感しています。古い体質や意識を少しずつ変えていくのは難しいので、大きく舵を切るのがポイントと考えて職場づくりを進めました」

工場長の伏脇さん
工場長の伏脇さん

週休3日制を活用しながら管理職に

青木有紀さんは、週休3日制を利用しながら、焼菓子製造の部門長として勤務しています。
「入社してから3人の子どもを出産し、2人目のときは短時間勤務制を、3人目の育休終了後から現在まで週休3日制を利用しています」

最初は休日が増える喜びよりも、収入面での不安の方が大きかったと言う青木さん。
「週末は上の子の習い事など、子どもの世話でつきっきりになるので、平日に自分のためだけの休みが持てるのはありがたいと今は感じています。私がいる部署は重労働の作業もあるので、平日に1日リフレッシュできると、週の後半もいきいきと仕事に取り組めます」

制度を利用しながらリーダーを務める中での工夫については、こう話します。
「チームメンバーよりも休みが多いので、休んだ日の職場や業務について情報のギャップが生まれないよう、小まめにコミュニケーションを取るようにしています。制度が導入されてから、働くママたちが増えてきていると実感しています。『製造はタイムラインがあるので、短時間勤務制よりも週休3日制の方がフィットしやすいよ』など、ママたちにとって、より働きやすい方法を模索しています」

週休3日制を活用する青木さん(左)と細野さん(右)
週休3日制を活用する青木さん(左)と細野さん(右)

週休3日制を利用して同僚との協働を心がけるように

細野麻沙美さんは、2021年10月から、週休3日制と短時間勤務制を組み合わせて使っています。

「子どもを保育園に送ってから8時半に出勤し、16時に退社する6.5時間勤務です。工場長の提案で、この働き方を選びました。子どもを保育園とは別の施設にも通わせているので、平日の休みを利用できるのは助かっています」

自分一人で何とかしようと思いがちだった細野さんに、伏脇さんは
「仕事の不安を一人で抱え込むと自分自身が苦しくなるので、もっと周りを頼りながら仕事を進めましょう」とアドバイス。それからは、積極的に周囲との協働を心がけるようにしているそうです。

「制度を活用することで以前よりも子どもに接する時間が増え、仕事と家庭の両立が叶うようになりました。今後は子どもの成長に合わせて、段階的に勤務時間を増やしていきたいと思っています」

一人ひとりが希望の働き方を実現することで、さらに制度を浸透

制度を利用して活躍するメンバー一人ひとりが、多様な働き方のロールモデルとなることで、次の世代の女性社員にとって大きなモチベーションにつながります。

「本人がいきいきと働けることが大事なので、仕事と仕事以外のバランスは人それぞれでよいと考えています。制度を利用しながら働き続けられ、本人の希望次第では中核人材にも成長していけるキャリアモデルを、より多く示せるようにしていきます」と中尾さんは今後の展望を語ってくれました。

今回は、ライフステージが変わっても女性社員がキャリアを継続できるよう、多様な働き方を当たり前に実現できる環境づくりに工夫している「中尾清月堂」の事例を取材しました。こうした工夫は、子育てだけでなく、介護や体調不良といった事情のある方や、学び直しや副業・兼業などと両立したい方にとっても、働きやすい環境につながるのではないでしょうか。
みなさまにとって、週休3日制や短時間勤務制に限らず、社員一人ひとりが輝いて働ける職場づくりのヒントになれば幸いです。